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「まず、俺は人間と魔族や多くの亜人と何があったか詳しく知らない。時代的にも今を生きる人間の大半にはかかわりのないことだ……からと言って、今の人間は一切悪くないとかは言わない。悪くはないが、責任はあるだろう。だけど人間と魔族、亜人たちとの関係を完全に改善するのは無理だし、人間の持っている土地を亜人や魔族に譲るというのも不可能。そもそも問題解決はそういうことじゃないだろうしな」


 賢哉としてはそもそもコミュニティ間の問題解決は不可能だと考えている。当事者ではなく、その後を生きる人間が問題を解決しろと言われても難しい。既に決まったこと、変化した環境、現在の状況になじみ、過去のことを取り上げてもそのことを素直に受け入れられるかというとまず無理、そもそも歴史に関しても自分たちに都合がいいように両方が改変している可能性を考慮すると難しい。まあ、この世界にはエルフという長寿の種族がいるので彼らの言であればある程度信じられる……まあ、それでも彼らが誰に都合のいいことを言うか、というと話は分からなくなるが。それに話さないという選択肢もある。どうするかは結局彼らの意思次第だろう。

 賢哉の力があれば彼らに無理やり話させることもできるが、じゃあ魔族や獣人がそれを素直に受け入れるかというと話は違う。結局のところ自分達にとって都合のいいことでなければ受け入れないということはよくある話だ。そこを何とか折り合いをつけ、妥協させ、両方ともこれならばいい、という提案を作り上げる方が預保重要になってくる。

 ゆえに賢哉のやることはどちらかの意見を取り上げそれを叶えることでもなく、人間が人間の持つ様々な物を与える形で問題解決を図ることでもなく、彼らが現状で受け入れられる状況を作ることとなる。


「今回おれは獣人側から助けてほしい、ということでここに来た。とりあえず俺が無理やり戦いを取りやめさせたが、このまま続いていれば獣人たち側の敗北可能性が濃厚だった……だから彼らは助けを求めたわけだ」

「そんなはずはない!」

「はっ。獣人如きに俺たちが負けるかよ」

「なんだとっ!」


 獣人側より魔族側が有利である……その話を獣人側はあまり受け入れたくない。とはいえ、現実に起きていた状況で見ると魔族側が有利だったのは事実。時間をかければかけるほどさらにそれが顕著に出たことだろう。獣人側もそれを理解していないわけではない。ただ、受け入れたくないのだ。これは別に獣人が魔族よりも弱いと言っているわけでは決してない。あくまで環境的、状況的な結果として魔族側に有利に働きその結果となっている、というだけだ。条件が整えば魔族側よりも獣人側に有利な働きができることもあるし、大きく結果が変わることもある。戦い方が違えばまた話も違ってくる。

 賢哉が杖を振る。それだけでお互い口撃しあってた獣人と魔族の言葉が聞こえなくなる。単に音を消しただけだ。流石に言葉が交わせないのならばこれ以上罵声を浴びせることはできない。口でのやり取りはできない。ゆえに強制的に黙るしかない……まあ、黙らずとも音は出ないのだが。


「勝敗っていう点なら、獣人の勝ちでも魔族の勝ちでもなく、人間の勝ちだな? 少なくともこの現在の状況を作り上げたのは俺だ。どちらも、俺ならば全員殺すことができる。それともその結界を破って俺を殺せるか?」

「………………」

「………………」


 賢哉の言うことは間違っていない。しかし、いきなり乱入してきた賢哉の言うことを素直に受け入れるのは気に入らないし、人間が特別強いわけでもなく、賢哉だけが極めて特殊というか、特別というかそんな感じなわけである。そもそも人間は平均的な強さでその数と集団性が強みであり、今の人間であれば流石に国単位を相手に勝つのは無理だが、街など一領地相手ならば亜人や魔族でもある程度は勝てるだろう……まあ、人間全体を相手にすれば確実に勝ち目がないと言えるわけでもあるが。追いやられる前でも、人間を相手に勝つことはできていない。そこは暗黒領域に追いやられた点からもわかる。

 亜人と魔族、全員で手を組めば人間に勝つことはできただろう……結局は後で分裂することになるだろうが。そして生き残った人間が徐々に数を増やしていき、最終的に人間が勝利者となった可能性もある。まあ、そういったかもしれないの話をいくら語ったところで意味はない。


「俺は別に獣人や魔族の支配をしたいから来たわけじゃない。そもそもはここで起きている両者の争いを止めて話し合いに持ち込みたいからだ」

「……ふん、そんなことができるものか」

「獣人がこちらの資源を奪うからいけないのだ。大人しくして入ればなにもすることはなかった」

「なんだと! お前たちが俺たちの資源を奪ってるんじゃないか!」

「そもそも今まで何度も戦って今更やめられるか!」

「そうだ! 戦士の中には死者も出ている!」

「こちらだって何人も殺された! お前たちを殺し尽くさねば話にならん!」


 彼らの争いはそれなりに長い歴史がある……まあ、本当の意味での全体の歴史としてはそこまでだが、暗黒領域にきて、彼ら同士の争いはそれなりの頻度、回数、規模であり、そしてその被害は両方に蓄積されて言っている。何人も死傷者が出て、その遺恨が代々続いている。


「はいはい。お互い殺し合いをして、実際に死者が出ているのは……あまり言いたくないが、仕方がないというしかない。それで済ませていいわけでもないが、じゃあその遺恨を晴らそうとお互い殺し合えば結局最終的に待っているのはどちらかの滅亡、そして自分たちの仲間の減少、最終的には種の衰退じゃないか?」

「そんなことは知らん!」


 まあ、彼らとしても殺し合いをしている中犠牲者が出て、その殺し合いを無理やり止められてなかったことにしようと言われても受け入れられないだろう。仇を返す必要性がある。かといって、じゃあその仇を返すということで犠牲者の分相手を殺せば、今度はその殺された側が恨みを持つ。やったらやり返されるというのは不文律であり、どちらが先にというものでもない。復讐は連鎖するものであるとはよく言ったものだろう。


「まあ、いろいろとお互い思う所はあるだろうけどな……遺恨を完全に晴らすことはできないが、まあいろいろな意味で対等な状況、問題のない環境、そしてなんとか仲良くとまではいかないまでも共同の生活ができるように取り計らいたい」

「お前は何様のつもりだ!」

「そもそも俺たちがここに来る原因は人間だろう!」

「人間風情が!」

「あー……まあ、確かに根本的に人間に原因があるのは事実だろうが……ああ、もう、今更それを言っても始まらないだろう」


 人間と言ってもこの世界の人間の話であり、賢哉はそもそもこの世界の人間でないので言われても困る。種族的に同じで、コミュニティとしてもやはりこの世界の人間のコミュニティに入っている賢哉は一応その責任を果たす必要はあるのかもしれないが……だからといって、賢哉が彼らの言う通りのことをできるわけでもない。いや、できなくもないが、それをすることに意味はない。この世界のことはこの世界の獣人が解決すべき物事である。賢哉が己の持つ魔法ですべてを解決したところで誰も完全に納得することはないし、それを全ての者が受け入れるわけでもない。人間の責任者は賢哉ではないのだから。

 かといって、じゃあ誰が解決するのかと言われてもまた困る話だ。それを行った人間はそれぞれの国を持ち拡散し、そもそも獣人も魔族も人間も当時のことを正確に知っている者はいない。結局のところ、お互い相手に対する感情がいろいろと変質してしまい、どうやったところで完璧な問題解決はできなくなっている。

 だから賢哉は現状の状況を解決することのみに念頭を置く。そして、人間や他の亜人とで交流を持ち、お互いの存在がどういうものかを知り得ることが重要だと思っている。相手を知らなければ、相手にどういう歴史があるのか知らなければ、語り合うこともろくにできないのだから。感情で物を言ったところで意味はない。


「ともかく、いろいろと俺の方でやらせてもらう。これ以上……戦争に近い殺し合いでの争いはなくさせてもらうからな」

「なに!?」

「まあ、代わりに別の形で争いをできるようにはするけどな」


 お互い相手に対して恨み辛みがあることだろう。それを持ったまま、お互い共同の環境を作り上げたところでうまくはいかない……相手に対し恨みがあるのならば、それを晴らすことのできる場を作るべきである。それが争い、暴力の形で会っても、必要ならば用意するしかない。もちろん相手を殺さなければ晴らせないというのは流石に認められない。互いに死ぬことはないが、思いっきり戦うことのできる場を作る、それが賢哉としては妥協点である。彼らもそれで納得してもらわなければいけない……上手くいかないのであれば、別の解決策を考えなければいけないだろう。あるいは魔族や獣人でもそれなりに落ち着いている者と話をして色々とお互いのことを知る必要も出てくるかもしれない。実に、面倒な仕事を賢哉は引き受けることとなった。


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