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 魔族と獣人が戦う上で姿の見える場所で戦うということはない。そもそも暗黒領域は未開拓地域とも呼ばれる場所であり、その環境の多くは森におおわれ周囲の光景が見えない場所となっている。魔族や獣人であろうとも、その環境の過酷さゆえに開拓が碌に進んでいない。数に任せた開拓もできる人間も進んでいないし、能力の高い獣人や魔族などの亜人系列も開拓が進まない。両方が手を組めばいくらでもやり様がありそうなものだが、それは叶わないだろう。仮に手を組んだとしてもどちらにとっても過酷な環境であり、単純に開拓を進められるほど楽な場所でもない。

 まあ、開拓に関しての話はともかく。つまり何を言いたいかというと、森ばかりで隠れるのは容易であり、発見するのは難しく、単騎で不意打ちを積極的に行うのに向く環境であるということである。そんな環境だから両方とも分散し、闇討ち的な不意打ちにより相手の数を減らす手法を使っているわけである。もちろんある程度の集団で行動したいと考える者もおり、それらが森の中を進んでいる姿も見られるが、やはりそういった者たちは少なく、幾らか存在した数グループも不意打ちにより仲間をやられ単独行動にならざるをえなかったり、怪我人を連れて戻るのに時間をかけその姿を消していた。

 そういうことで、今森の中にいるのは元々単騎で活動していた魔族や獣人、あるいは短期になってしまった魔族や獣人などである。彼らも完全に隠れて行動するタイプの隠密不意打ち型から、わざと単騎で見えるように行動し、不意打ちしてくる相手をねらい撃ちにする反撃カウンター型から多様なタイプが見られる。


「………………」


 森の中、息を潜め隠れ潜む魔族。魔法を使って隠れる手法もあるが、それだといくら相手が獣人でもバレることがある。臭いの問題で獣人にばれるケースもあり、隠れ方は色々と工夫しなければいけないが、隠れる分にはいろいろとやり様がある。獣人は魔法を使えず遠距離の攻撃手段が少ないことが多く、むしろ積極的に姿を見せて活動する方がいいことも多いが、そこは彼の気質が不意打ちや隠れて戦う方に向いているからなのだろう。


「……………………!」


 そんな彼が、森の中を歩く者を確認し、それが魔族でないことを確認する。何やら少し妙に感じるが、確かにそれは『獣人』だ。そう見える。それが明らかに油断しているかのような感じに森の中を歩いており、実にねらい目であった。すぐにどのような魔法で攻撃するかを考え、魔法の準備に入り、隠れた場所から的確にその存在に狙撃する。それは一直線に彼の見た『獣人』に向かっていき、それに当たり殺す……そう、思っていたところだったのだが。

 当たる直前にばしんと何かに当たったかのように弾かれ、彼の使った魔法は無効化された。


「っ!?」


 獣人が魔法を使うということは有り得ないわけではないが、魔族の使う魔法ほどの力は持たないし、そもそも彼はそのような魔法の気配を感じていない……いや、それは確かに感じていた。ただ、魔法としての感覚ではなく、奇妙さ、という感じでだが。いや、正確に言えば、そもそも彼が狙って攻撃した相手は獣人ですらなかった。彼の狙って攻撃した『獣人』はゆらりとその姿をぶれさせ、元の姿を見せる。元の人間の姿を。


「なっ!?」


 流石にこれには魔族も驚かざるを得ない。なぜここに人間が、なぜ人間が獣人の姿を、人間が魔族の魔法を防ぐだけの能力を持つのか、そこで考えられる思考は様々だが、少なくともそこで彼は思考し迷い、動きを止めてしまった。それは戦場となっているこの場所においてはとても良くない判断と行動であると言わざるを得ない。

 獣人の姿を被っていた人間は何やら呟きながら、杖を振るう。その視点は攻撃の飛んできた先……つまり魔族のいる地点、いや、魔族である彼を見ていた。とうぜんその杖を振るってつぶやいているそれは魔族たちも使う魔法であり、恐らく何かをした、あるいはしようとしていることがわかるだろう。それに対し魔族はすぐにその場を離れることで対処しようとした……が、できなかった。彼は先ほど攻撃を防がれた時点で逃げるべきだった。見つかり捕捉され、魔法を使われた時点でほぼ彼の運命は決してしまう。彼が無事に逃げるためには、魔法が使われる前に一気に逃げるしかなかった。


「………………!?」


 彼は動けなかった。体を振り向かせることも、足を動かすことも、腕を上げることもできない。呼吸や瞬きの類はできるが、何か魔法を詠唱するようなこともできない。彼は一切動けなかった。何かに捕まっているかのように……いや、彼の周りをみれば、彼は自分が閉じ込められていることが分かっただろう。もっとも視点は目を動かす以上での視点移動ができないため、ほとんど現状は解らなかったかと思われるが。

 彼はなにやら四角いものに閉じ込められていた。いや、四角いというか、四角錐を二つ組み合わせたかのような、立体的な菱形の何かに閉じ込められていた。形容するならばそれは彼を閉じ込めるようなきれいな結晶体、あるいは水晶体のようなもの、と言えるのかもしれない。それは賢哉の使った結界の魔法である。この結界の魔法は中にいる存在の行動封じるものであり、同時に外からの攻撃を防ぐための物である。なぜそんな面倒なものに封じ込めを行っているかというと、現在の戦闘状況ゆえに仕方のない処置である。

 戦争中である獣人や魔族は相手を見つければ攻撃する可能性が高い。それが明らかにそこに何かあるとわかるような結界であれば、当然そこにとらわれている魔族あるいは獣人を攻撃しようとする可能性は高いだろう。確保した存在が殺されてしまえばそれは確保した意味がない。賢哉は魔族あるいは獣人を確保し、それを保護する必要性がある。そのため彼らを収容する結界で閉じ込めているわけである。


「よし、捕まえた。それじゃあ運ぶかな」


 あっさりと魔族を捕まえた賢哉はその魔族を獣人の村へと運ぶ。別に賢哉は獣人に魔族を提供しに行くわけではなく、両方の戦士を捕まえ確保することを目的としている。賢哉の結界により閉じ込めている彼らには獣人がいくら手を出したところで殺すことはできない。結界の破壊も賢哉以外ではほとんど不可能だ。中からは動くことできないし魔法を使うこともできないので脱出は不可能。外部からの破壊も不可能なため、基本的にはどちらにとっても安全だ。そして全部捕まえるまで、賢哉は森で戦士たちを捕まえるため行動する。森の中にどれだけ魔族や獣人が残っているかも賢哉は魔法で探知することができるので、そのあたりは特にこれと行って問題はない。全員捕まえたら今度は魔族の村へ向かい、そちらと話し合いをしなければならない。そして両方との話し合いをしなければならず、一番面倒くさいのはそこからだろうと考えていた。


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