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「うわあああああっ!?」

「さ、さすがにこれは怖い、怖いぃぃっ!」


 空を飛ぶ獣人たち。もちろんこれは賢哉の魔法により空を飛んでいる。流石に屈強で色々と度胸のつく過酷な暗黒領域の中に住む獣人たちであるが、さすがに空を飛ぶという経験はない。鳥系統の獣人でもいれば彼らがそういった経験を持っている可能性はあるが、この中には居ない。そもそも鳥系獣人は獣人に含まれるのか、あるいは翼人か鳥人と呼ばれるような類に含まれるのか。現状あまり詳しくは賢哉は知らない。まあ、実際の所どうでもいい話である。

 今回賢哉は開拓領地にきた獣人たちを連れ、獣人と魔族の争いの仲裁……正確には両者の争いを止めたうえで開拓領地と仲よくすることが目的ではある。仲裁、とはいっても根本的には争いそのものを無理やりにでも止めるということであり、別に穏便に止めようとかそんなつもりは一切ない。賢哉にはそれだけのことができるだけの力があるわけだし、そもそも両者に争いを止めろと言ったところで言うことは効かないだろう。魔族でも獣人でもなく、彼らがこの暗黒領域に来るに至る理由、根本である人間の言葉だ。むしろ激して言った人間に敵対する可能性が大いに高いと言える。


「……そういえば、獣人ってこの暗黒領域の森の中をかなりの速度で駆け抜けられるんだよな?」

「あ、ああ……」


 空を飛んでいる最中、さすがに舌を噛むような速さで移動しているわけではないが、怖いのでどうしても声は弱くなる。そんな中平気で話しかけてくる賢哉に対しては度胸があるな、と言った感じの妙な畏怖が抱かれるのだが、それはともかく、賢哉としては獣人の能力をかなり凄いものだと感じている。ドワーフやエルフもそうだが、基本的に彼らの能力は決して弱いと言えるものではない。むしろ下手をすれば人間よりもはるかに強いと思えるものである。

 しかし、彼らはかつて人間に負けた。獣人も、魔族も、エルフも、ドワーフも。別に完璧に負けたわけではないが、彼らが人間に暗黒領域へと押しやられたのは確かな事実である。人間よりも優れた能力を持つ彼らがどうして暗黒領域に押しやられたのか、それがどうしても賢哉にとっては不思議に見えたわけである。


「なんで獣人は暗黒領域に? 人間よりもはるかに強いと思うんだが」

「それは人間であるお前の方が知ってるんじゃないか?」

「いや、俺は元々ここの人間じゃないというか……それに、人間の言うことは人間によって自分たちに都合のいいようにまとめられるものだ。だから悪いことは言われてない場合が多い。そこを獣人の方の情報を聞くことである程度情報が得られないか、という感じでもあるな」


 とはいえ、獣人側の情報は獣人にとって都合がいい内容にされている可能性もある。勝った場合も都合よくされるが、負けた側は負けた側で都合よく編纂される場合もある。そういう場合、本当の意味で正確な歴史情報を手に入れられない可能性もある。本当はこういった情報はエルフに聞くのが一番だろう。彼らは長生きであり、さすがにすべてを網羅しているとは思わないが、それでも持っている情報という点では彼らの持ち得るものの方が多いだろう。直で見てきたからこそ、下手な真実ではない嘘が語られる可能性は低い。特に賢哉の場合、相手の言っていることが真実であるかも魔法でわかる。そういう点ではわかりやすい。

 まあ、それらを考えたのが獣人を見て、であるため、今すぐエルフに聞きに行くとかそういうことは優先順位の関係上できない。そのため、空の旅の退屈を紛らわすついでに彼らに聞いている、というのが現在の状態である。


「よく知らねえけど……」


 獣人の話から出てきたのは、獣人と人間の数の違い、というのがあったらしい。基本的に人間は確かに亜人と比べると劣る点は多い。しかし、平均的なステータスという点においては、基本的に人間は決して弱いとは言えない。全員が魔法を使えるわけではないが、魔法を使える人間は多く、ドワーフほどの鍛冶能力を持たないが、鍛冶能力という点では高い能力を持つ者は決して少なくない。長生きしないからこそ知識を蓄え子孫に伝える能力が高まり、伝達能力が高まったからか多くの者が知り技術を高める。数が多いからこそ、その中から良いものを厳選しより高めることができる。

 戦いにおいては人間はある程度の犠牲を厭わず戦う、というのも一つの手だった。別に他の種も決して少ないわけではないのだが、人間の総数と比べるとどうしても少なくなる。強者を多くの中から捻出し、そのな一部を強くし極めさせ、それらの数をそろえその数で少数の強者に挑む。エルフや魔族、獣人という存在でも、絶対的な強者ばかりではない。それに数で攻めれば強者とはいえ息切れを起こし、その時を狙えば倒せるそれを人間は何とか実現した。

 もちろんそれ以外の手も様々使っている。人間は弱い、それを自覚しているからこそ、人道に反するような、悪行だろうとも厭わず使い戦ったのである。


「まあ、そんな感じ?」

「へえ……」


 獣人は決して頭が悪い、というわけではない。本能的な部分が強いものの、知識さえあれば相応の発想ができる。まあ、そういう発想をする前に本能的に行動するのであまり彼らが頭がいいように見えないわけだが。それに彼らは基本的に額がない。獣人は集団で過ごすが、その集団は決して人間のような大集団とはならない。部族単位、集団単位、家族単位、群れ単位。国なんかを獣人は作るのに向かないのである。そもそも作る余裕もないのが現状だが。

 ゆえに、知識を学ぶための場所というものが作られることはなく、仲間内でこういうことがあったと伝えられるのが主な彼らの歴史であり、それゆえに彼らはあまり歴史的なことを知り得ない。まあ、人間と他の亜人との戦いに関しては流石にここ暗黒領域に住む彼らは必要だと考え伝えているようだ。とはいえ、それらは多分に彼ら自身の考えや見解も入る。なので本当の意味で正確な話ではないが……まあ、だいたいは間違ってはいないだろう


「っと、見えてきたぞ」

「あそこか?」

「ああ。俺たちの村だ!」

「……今は争っていない?」

「流石に村で直接争ったりはしねえ。そもそも、大規模なぶつかり合いなんかそうあってたまるかよ」


 彼らが行っているのは戦争であるが、弱者をねらい撃ちにする……というやり口ではない。先に削るべきは戦士であり、弱者、戦士の家族など残っている物ではない。根本的な彼らの行動原理は相手を殲滅すること。弱者を攻撃することで戦士の存在が露見し、隠れた相手方の戦士がその露見した戦士を討つことで戦えるものの数が減らされる。そうなると、相手を滅ぼせる、相手の力に対抗できる存在がいなくなる。相手の弱者は消えるが、そのかわりこちらの強者が消える。強者が残った相手と、弱者が残った自分たち、そうなるとどちらが勝つか。そう考え、お互いの戦士同士を削り合うことを目的としている。それはそれで消耗戦となるのだが、魔族側が有利なのはやはり傷ついたものの回復ができるのが要因。彼らは回復することで弱者となった戦士を強者に戻せる。獣人は弱者となったものが強者に回復するまでは時間がかかる。これは魔法が使えないのが原因だ。ゆえに、魔族側が有利なのだ。

 まあ、戦士の質の違いもあって一概に完全に魔族側有利ともいえない。それに、弱者として村に残る人員が決して本当の意味で弱者とも言い難い。獣人ゆえに、肉体の力が強く、ある程度なら戦士としても戦えなくもない。魔族側は決してそうではない。いや、魔族側も弱者の中には戦えるものもいるだろうが、そこはお互い様というか、何とも言えないところである。


「……どうするかな?」


 魔族側とに獣人側が大きな争いをしている、というのなら賢哉もそこに出向きそこにいる全員を止めればいいだけだ。しかし、ゲリラ戦対ゲリラ戦……というか、小競り合い同士の戦いというか、そんな感じなのでどうにも止めづらいわけである。


「……見つけた両方の種族を片っ端から捕まえるか?」


 乱暴だが、ある意味一番楽な手法ともいえる。もちろんお互い捕まえた物を攻撃しないように差配する必要性はあるが。


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