表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/190

71



 現在の開拓領地には賢哉によって守りの手が大きく加わっている。具体的にはそれは結界という形で存在している。基本的には開拓領地の中心地となっている村を加工用に作られているもので、流石に他の場所に同じ結界をそのまま作って配置したりはしていない。獣避けなどの敵を退避する効果は付与して配置したりした道を作ることはあるが、基本的には開拓領地そのものに入らないようにする程度の物が基本である。それはいずれは賢哉の手による保護がなくなることを見越して、だ。敵に対する対処としての防衛部隊、軍備、警備兵みたいなものを作っているのも結局はそういった様々な危険に対することを考えての物である。まあ、領地内部での荒事や事件への対処ももちろん必要であるためそちらに向けての物でもあるが。

 結界がその内部に入れない対象は、主にその結界に触れる存在の意思が主体となる。分かりやすい例で言えば、危害を加える、襲う意図で侵入してくる場合。特にこれらは獣などを対象としたものである。ただ、実はこれらは人に対してあまり効果的な反応をしない。分かりやすく武器を装備し襲ってくるつもりでいる場合は反応してくれるのだが、例えば隠れて何かをするつもり、敵意や害意でも、爆弾を仕掛けてみたいなタイプの本人が直接襲わない例であったり、以前あったような詐欺のように、攻撃と言っても命を奪うようなものではなくあくまで財産が目当て、などの場合だとそれらを排除したりはしない。また、内部に一度入った者がそこで内部の存在に対して害意を抱いた場合も話は違う。つまり痴情の縺れや喧嘩の延長での傷害事件や殺人などは防ぎようがないということでもある。結界は外からの侵入者を防ぐ意図はあるが、内部にいる者を外に排除する役割を持っていたりはしない。

 また、人とは別に人間だけを意味するわけではない。そもそも人間の精神性は単純に区切ることは難しい。獣などを排するとしていても、そもそも獣の区分は何処からか。亜人は獣ではない。亜人は人ではない。彼らの区分はどうなっているのか? 基本的にそれらの判断は四足歩行か二足歩行か、が一番わかりやすい。しかし、二足歩行だから人とは判断しづらい。そもそも賢哉の判断基準では、人は人間だけではなく亜人も含むだろう。魔族はどうだろうか? そういった様々な要因を考えると、単純に害意の判断はしづらいし、人かどうかで判断するのも難しい。明確な敵意や害意での判断はなされるし、戦闘の気配や雰囲気での判断もできるが、結局のところその結界の仕組みは完璧ではない。

 ゆえに、外部からの亜人の来訪もあり得ないわけではないということになる。


「まったく……おい! お前たち、戻ってろ!」

「あ、レッセルさん……」


 開拓領地の森寄りの場所で、何人かの農具で武装した領民がいた。そこにレッセルが来る。流石にこの辺りは元々開拓領地の人間だったレッセルが対処しやすい……彼らは元々開拓領地に過ごしているときからそれなりに森には行ったりと活動している。それゆえに、幾らか森の中に亜人や魔族がいることは知っている。彼らは基本的にそれらにかかわることはしてこなかった。そうする方がどちらにとっても安全で問題がないからである。 

 しかし、今はその関係が崩れている。開拓領地は広がり、開拓領地は亜人とのかかわりを作るようになった。それゆえに、亜人という存在を単純に放置はできない。森の中で出会った場合は多少話しかける程度だが、一応そこは本人たちの事情や関係性も考えて過剰なかかわりを作ることはないだろう。賢哉とのかかわりのある人間ならば賢哉に報告はするかもしれないが、賢哉自身でもなければ、まず簡単に亜人とのかかわりを作ることはできない。


「……とりあえず、話を聞こうか。今の開拓領地の領主はお前たち亜人に対してかなり寛容的だからかな」

「そ、そうなのか?」

「なら、せめて話だけでも、話だけでも聞いてほしいっ!」


 亜人……その中の彼らは獣人である。身体能力が高く、魔法の資質が低く魔法使いが少ない……種として魔法使いの能力を持つ存在が生まれることが少ない。しかし、身体能力は獣の性質を持ち、様々な身体的特性を有する。まあ、それは重要な話でもないだろう。そんな彼らだが、森を移動してきてかなり疲れている様子だ。そして怪我もしている。だが、それは彼らという存在にとっては少々おかしい。彼らは少なくとも森の獣や魔物にやられるほど軟ではない。そもそも、彼らの怪我は何かの武器や魔法によるものに見える。


「村が、俺たちの村が魔族と争いになったんだ!」






「どういう話だったんですか?」

「獣人と魔族の抗争……かな? 色々と理由はあるみたいだけど、結局お互い戦争関係に近い状態になった、みたいな感じだ」

「…………戦争ですか」


 彼ら獣人が開拓領地まで来たのは、魔族との争いに対抗するための支援を求めたから、である。単純にあっさりと獣人が負け、滅ぼされるというようなことにはならない。基本的に、始まったばかりの状態ではほぼ拮抗、と言ったところだろう。しかし、魔族はその性質上魔物の特性を有していたり、魔法使いに近い魔法の資質を有する。それゆえに、長期の戦闘を行う場合どうしても魔法という特殊な力を使える魔族側の方が生き残りやすく戦いへの継続性も持ち得る。獣人は肉体の性能は高いし、特性もあるが、しかしやはり継続的な戦闘は難しい。それなりに回復力はあるが、さすがに重傷を治しきれるほど単純な回復力はない。時間をかける場合獣人側の振りとなる。

 これまでも獣人と魔族の戦いはあった。彼らは住んでいるところが近しく、資源を喰い合う関係にあったためである。しかし、それで行われていたのは今まではせいぜい小競り合い程度の物だった。だが、ここ最近資源が少なくなったからか、争い合う回数が増え、その内容も徐々に激化していき……最終的に全面的な戦争関係にまで発展したというわけである。


「それはまた大変な話ですね……それで、ケンヤ様はどうするおつもりでしょうか? 争いに加担すると?」


 流石に両者の戦争関係に人間が割って入る、というのは問題があるのではないか。アミルはそう思い咎めるような強い口調で訊ねる。そうはするなとでも言うように。賢哉も別に争いをしたいわけではない。人間と亜人、魔族との関係を分かっているからこそ、単純に加担し相手を撃滅するようなやり口は良くないのもわかっている。そもそも、一方を滅ぼすのはあまりよくないとも思っている。


「……どちらか一方に加担することはしない」

「つまり、彼らはこのまま追い返すのですか……?」


 手助けせず、負ける可能性の高い戦いを続けさせる。ここまできた獣人たちに希望を持ち帰らせることはせず、獣人の村まで追い返す。それはどれほど絶望的なことか。フェリシアはそうしたくない気持ちが強い。自分自身、かつてはかなり絶望的だった。その絶望的状況を賢哉が救ってくれた。そのことがあり、自分だけではなく他の誰かも同じように救えれば、という気持ちがある。もちろん開拓領地のこともあるので誰でも無計画に救う、なんてことは言わないが。


「いや、結局のところ争いを続けさせること自体が良くないかな、と思うしな。俺が向こうに行って、両方とも止める。それなら一方への加担とはならないだろう」


 賢哉が出した意見は争い自体を止めること。賢哉にとっては一方と仲良くなるのではなく、両者と仲良くなる方がよほど都合がいいのである。ゆえにそういった選択をしたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ