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開拓領地に一度起きた問題、詐欺被害に関して。賢哉がその大本を絶ち、詐欺を行った商人も検挙して起きた事件自体はある程度解決したと言える。しかし、その前提の法整備、罰則の制定などがされていないのは問題があった。そういった様々な問題が起きて初めてこれをしなければいけない、あれをしなければいけないとわかる点も多い。まあ、そもそも開拓領地を治めるフェリシアもその補佐的な役目を担う賢哉も、他の多くの人間も領地を治めるノウハウなんてものは存在していないわけである。何か起きてからでなければ問題なのかどうかもわからないものも多いということで、そうした問題を知り、それらの解決のためのルール制定を行うに至る。
しかし、そういったルールもあまりがちがちに縛ってしまうと随所で問題が起きる。商売ごとに関するルールはあったほうがいいのは確かだが、ルールを定めることによってできなくなってしまうことで問題となることもあるし、定めるルールが正しいかもわからない。正しいことが正しいとも限らない。場合によっては悪いことも容認する必要性はあるし、どちらかというとよくないことも受け入れる必要がある。わかりやすい例であれば飲む打つ買うの三つとか。なのでルールは定めるものの、その遵守を厳しくするわけではなく、また場合によってはルールを変えられるようにすること、例外の設定など様々な所を考慮する必要性がある。
まあルールを守らなかった場合罰を与えなければならないというのはやっておかないとそのルール自体に意味がなくなるのでやらなければいけない。そういう点でもルールの制定に関してはいろいろと面倒だ。そういう点も含め領主としての仕事なのだが。
フェリシアはアミルと頑張っていろいろと考え、また場合によっては賢哉ともどうしたほうがいいかと相談し、開拓領地における法を制定する。まだ税に関しては決めていないが、いずれやらなければいけないことでもある。とはいえ、今の所問題となったところから徐々にこれをしてはいけないという制限をかける形になる。一度に全部をやる必要はないのだから。
と、そんな開拓領地の法の話はさておき、開拓領地にはフェルミット商会からいろいろと訳ありだったり困窮していたりする人間が送られてくる。まあ、彼らは元々開拓領地に来るような本当に後がない人間ではないあ、今の状況ではどうしようもないという人間が基本である。そういった人間が送られ、開拓領地で過ごし生活も改善され、また最近開拓領地に導入されている貨幣経済の浸透とお金の流動にも彼らが参加するようになり……いろいろと商売ごとの匂いがし始めるころ。かなり最初のうちからフェルミット商会という立場で後援に近い形で参加するアルバートが開拓領地における一番で唯一の商人であったわけであるが、それもずっとそうであるわけではない。商売ごとに法によるルール、決め事守り事、ある種のマナーに近いようなものはあるが、基本的に商売は自由であり国境はない。商人は儲けを得るために何処にでも良き、どんな人間とも付き合い、どんな商売も行う。そこまで行くと少々極端かもしれないが、商人である以上自身の利を追求するものだ。そして利がありそうならば、そこで商売しようと考えるのも普通なこと。つまり、開拓領地によそから商人がやってくるようになってきている、と言うことである。
「……アルバートさん以外の商人がやってきて商売の許可を求めている、ですか」
「まあ、そういうことになるな」
「…………それを断る意味もないと思いますが」
「一応話はしておいた方がいいかなと。それにフェリシアが決めることだし」
「許可がいるんですか?」
「領地によるんじゃないかと思うが……」
開拓領地では別に特別商売をするのに許可を必要としていない。はっきり言ってそのあたりは明確にルールが制定されているわけではなく、アルバート以外の商人が今までいなかっただけでしかない。一応詐欺と言う形ではあるが商売をやった人間はいる。その詐欺行為に関する内容は問題視し法にその問題にかかわる内容を加えているが、商売に関しては特に何も制定していない。つまり商売をしようと思えばできるわけだが……まあ、他の領地ではどうだったのか、などで彼らも勝手な行いをあまりやりたくないのだろう。それにその地に元々から住んでいる人たちとのかかわりの問題もある。いきなりよそから来た商人が商売をしたくとも信用がないため商売しようがないということもあるだろう。それにその地の商売をまとめる商人と衝突することになれば商人とつながりのある領主との関係も悪くなるかもしれない。その地における一番の権力者である領主の許可を事前にもらっておくほうがいいのである。
「えっと……なぜ私も呼ばれているんです?」
「そりゃあアルバートは開拓領地の商人の筆頭だしな」
「……そもそも私しかいませんから」
現状開拓領地にはアルバートしか商人はいない。そもそもそんなに商人がいる必要性がない場所なのだから別にそれで特に問題はないわけであるが。
「別に私に断らずとも領主様と副領主様で話し合って決めればいいことだと思いますが……」
「いや、フェルミット商会には恩もあるわけだし、あまりそちらに損になるようなことをするのは問題だろ?」
「確かにお世話になっているわけですから……」
「いえ、そこまで気にしてもらわなくても……現状でこちらの利のほうが大きいでしょうし」
「ケンヤ様、お嬢様、お互い十分利益があるということで今回は話を流しましょう。それよりも商人たちの商売の許可に関しての話ですよね?」
「ああ、そうだな」
本題に話を移すアミル。実際お互いを持ち上げるような話をしたところで仕方がない。重要なのは商人の扱いに関する話。
「とは言っても、別に許可っていうのは特に必要性がないというか、そういう法が開拓領地にあるわけじゃないし」
「ですが領主の許可を取って置けば商人としては商売が認可されているという証明になるわけです。つまり商売に問題がないと認められるということですから堂々と商売をしやすくなる利点があります」
「なるほど」
「そうなんですか……」
「でも、商売の内容を吟味して許可を出す、っていうのは俺たちじゃ難しそうだな……」
商売ごとに関してフェリシアも賢哉も詳しくない。そもそもそれが商売として違法であるか、取り扱っている物が法に触れているか、そういった点についてはわからないし許可を出した後のことを追えるわけでもない。結局のところ今のアルバート一人に任せているだけのほうが精神的には楽である。まあ、ずっとそのままというわけにはいかないだろうが。
「…………よし、アルバートにそういう開拓領地における商売に関する行政的な役目をやってもらうというのはどうだろう?」
「はい?」
「……それは無茶ぶりが過ぎるのでは?」
「でも、そういうことができる人間がいないわけだしな……今だってお金に関しての流れとかはアルバートにやってもらってるわけだし、商人の管理や許可に関しても同じ商人であるアルバートにまとめてもらった方が楽だしわかりやすいし判断も正しいんじゃないか?」
「いやいやいや!? 一介の商人に対して領地の商売に関する権限を丸々与えるのはどうなんです!?」
「今更な気もするけど?」
「……いえ、まあ、確かにそうなのかもしれませんが」
「アルバートさんは信頼できますから、いろいろと任せても構いませんよね」
「お嬢様まで……」
賢哉はある程度理解して言っているかもしれないが、フェリシアは恐らく素で言っていそうなので困るところである。まあ、副領主と領主の権限自体がなくなるわけではなく、あくまでアルバートに任せるという状態である。つまりいつでも不正を行えばアルバートの首を切ることができる……物理的に。封建的と言うほど厳しくはないかもしれないが、それくらいに領主側の権限は強い。まあ、フェリシアは一応貴族なりの覚悟は有れども、そこまで厳しいかと言われると微妙な所だ。ただ、賢哉は本当に容赦しないだろう。それこそ不正の一から百まで全部見つけて叩き潰しに来る。なので最終的に二人から半ば強制的に仕事を任されたアルバートは頑張ってきちんと仕事をするしかなくなったのであった。




