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 年度も変わればそれなりに色々と変わることもある。時間の経過と言うのは中々に大きい。人の成長、物事の受容、場所の移動。


「エルフたちが全員こっちに移住してきた?」

「…………そう。村にはもう誰も残ってない」


 賢哉はネーシアに対し今もまだ魔法に関していろいろと指導している。まあ、今はネーシアもそこまで賢哉に色々と教えてもらう必要もないし、ネーシア自身他にやりたいこともある、賢哉も仕事があるで本当に時々になる。これは単に指導を受けるという意味合いだけではなくネーシアから最近のエルフのあれこれを訊ねる意味合いもある。賢哉はエルフたちとそれなりに話せる関係だが、師と弟子の関係としていろいろと教えていたネーシアが賢哉にっとって一番話しやすい、情報を取得しやすい相手である。

 そのネーシアと話していて言われたのがエルフは既にこの開拓領地に全員……ネーシア達の住んでいたところにいたエルフ達は全員開拓領地に来たらしい。流石にその話を聞いて賢哉も驚く。エルフたちがこちらに来るようなことになるとは思わなかったからだ。彼らは人間のことをそこまで信用しているとは思えない。


「それは問題があるんじゃないか? 普通は全員まとめて移動したりしないだろ」


 基本的に人間のいるところに居を移すにしても、元の場所に何人か、半分くらいは残してもいいだろう。もしかしたら人間に奴隷にされたり殺されたりしかねないのだから全員で移動し全滅のリスクを負うようなことはしないはず。もちろんエルフは彼らしか残っていないわけではなく、どこかの暗黒領域の誰も到達していない未発見の場所にいる可能性は低くはない。それでも自分たちの仲間の全滅の可能性がある全員の移住は少々おかしい。いくら賢哉を信用していてもあり得ないと思うだろう。


「…………普通は確かにそう。でも、ここは住み心地がいい」

「まあ、環境を頑張って整えたから住み心地が悪いといわれると困るんだけど……」

「………………ここでの生活を体験したら、仲間に自慢したくなる。戻ったエルフが自慢した」

「ええ…………」

「…………ここに来た仲間は楽に過ごしているのに自分たちは大変。不満に思ったからこっちに来たって」


 人間がいる場所で過ごしている仲間は彼らが話す限りではかなり住み心地がいい、と言うか、過酷な環境ではないとの話。楽に過ごせるし、トイレの大変さもないし、食料の確保も楽だし、援助もある。そんな場所で過ごしているのを聞くと羨ましいと思うのは普通だろう。


「…………それに、もう道があるのに残っていても仕方がない」

「ああ……向こうに行きやすくなってるから向こうに残っていざという時の安全確保は確かに難しいか」


 賢哉はエルフたちの住んでいるところにつながる道を作ってしまっている。そんな状態で向こうにエルフが残っていたところでどれほど危険に対処できるだろうか? いや、そもそも賢哉がいる時点でエルフ達は逃げられない。そんな状態で向こうに住んでいることを維持していて何になるだろう。意味もなく無駄に大変な環境で過ごすより、自分たちの住み易さ、住み良さを追求したほうがよほどいい。そういうことでここに移住してきたらしい。


「つまりは俺のせいなのな…………」

「…………別に悪いことじゃない。協力関係を築く以上いつか選ぶことになった」


 エルフたちも人間に見つかり、人間と協力関係を築いた以上どこかで人間と一緒に過ごすか、それとも完全に離れるかを選ぶことになっただろう。しかし、援助や手助けがある前者と、暗黒領域の奥深くに移動しなければいけない後者、どちらを選ぶかと言うと……それは当然前者になるだろう。後者を選びどれだけ生き残ることができるか、そしてちゃんと生活できるところをどの程度確保できるかもわからない。


「しかし、村一つが空っぽか……別に森に戻したとかそういうわけじゃないよな?」

「…………そんなことやろうとしてもできない」


 エルフに特殊な力と言うのは基本的にない。彼らなりに発展されたエルフたちの技術、知識はあれども、エルフしか使えない魔法とかそういうのは基本的に……たぶんない。彼らは持たないだけで他のエルフが持っている可能性は完璧に否定できるものではないが。


「ってことは村自体は残ってる……場合によっては移住も考慮したほうがいいか? 使わないともったいないし、移動の安全さえ確保していれば、何かの前身拠点として使えないか……?」


 森の中にある村。賢哉によって安全を確保しておけば、そこは特殊な使い道ができる可能性はある。木材の確保、離れた地域として現在の開拓領地とは別の開拓領地所属の村とする、特殊な栽培の実験、隔離所として犯罪者を置くための場所にする、ゴミ捨て場、使おうと思えばいろんな使い道が思い浮かぶが、すぐにどうにかできるものではない。


「相談案件かな……」

 

 フェリシアやアミル、場合によってはレッセルやグルバー、アルバートとの話し合いも必要だろう。


「そういえば村長とかも作っておいた方がいいかな?」


 今の所領主のフェリシアと副領主の賢哉が治める開拓領地だが、これから他に村も作っていくのであれば場合によっては村長などのその場所にいる人間をまとめられる人間を作ったほうがいい。まあ、現状では送られてきた人員に対し広げた開拓領地の大きさが見合っていないのでそこまでのことをする必然性はなさそうであるが。


「…………そういえばドワーフの方はどうなんだ? エルフが来たならドワーフが来る可能性もあったり?」

「………………私に聞かれても」

「あ、そっか」

「…………でも」


 ドワーフのことはドワーフに聞くべきだ。しかし、ネーシアとしてはなんとなくドワーフ側の考えは推測で来ている。


「…………ドワーフは住んでいるところが特殊。彼らの活動に鉱石が必須。だからこちらには来にくい」

「……そうか」


 ドワーフたちは基本的に彼らの行う活動に必要とする鉱石量が多い。鍛冶やら細工やらを行うために金属がいる。それは開拓領地単体では決して用意できるものではないだろう。どうしてもコルデー山で採掘を行わなければ手に入る者ではない。


「……それに彼らは洞窟に住んでいる。ここで地面の下に住むのと比べるとどう感じているかもわからない」

「ああ…………確かにそうだな。本当は山でも用意出来ればいいんだが」

「…………できるの?」

「ちょっと厳しいかな。無理じゃないだろうけど……」

「できるの?」


 ちょっと驚いた様子を見せるネーシア。まあ、山を用意できるといわれて驚かないはずもない……のだが、さすがに賢哉の異常性は理解しているのだろう。実際用意できてもおかしくないと今までの賢哉の実績から考えられるようだ。


「大変さはちょっとかなり違うけどな」


 いくら魔法でも山を用意するとなると必要とする者が多い。魔力、山を作るための材料、立地、様々な点を総合して考えなければならない。また、一日で全部を作りきるというわけにもいかないだろう。時間をかけて作らなければならない……まあ、そもそも作れる時点でおかしいという点に関しては突っ込んではいけない。


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