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「現在アルヘーレンの領地はアルヘーレンの家の……元当主である方が治めていますね」

「お爺様ですね」


 アルヘーレンの家自体は現在散り散りになっているため厳密な意味で当主や元当主というのはないような気もする。ともかく、現状アルヘーレンの領地で会った場所を治めているのはフェリシア・アルヘーレンの祖父である人物だ。父母とフェリシアはばらばらにそれぞれ開拓領地へと向かわされている。


「……アルヘーレンの領地はこの国と隣国の国境に接する領地です。それゆえに国防のために重要な領地です。アルヘーレンは代々その土地を治め、隣国との決定的な衝突を食い止める役割を担ってきました。せいぜい小競り合い程度で済ませていることが多かった」

「そうですね。お嬢様はそこまでご存知ではないと思いますが、それなりにありましたね」

「……一応私も、知識としては知っています。かかわることはありませんでしたけど」

「まあ、フェリシア様がかかわることでもありませんからね。今もアルヘーレンの領地はアルヘーレンの元当主様が治めています。しかし、それは今までと同じであるというわけにはいかない」

「本来はお嬢様の御父上が領地の兵を使い対処しているのですが……元当主様ではさすがに老齢です。守勢に回るとしてもかなり厳しいことになるのではないでしょうか?」


 アルヘーレンの領地が担う隣国との争いを防ぐという行為だが、それを行っていたのはフェリシアの父親である。一応フェリシアの祖父もかつて同じことをしていたが、寄る年波に勝てず、またそもそも現場から離れて長い時間が空いている。それがいきなり現場復帰したとしてどれほどの力を発揮できるだろう。まあ、全く役に立たないということはない。経験もあるし、完璧に衰えたわけでもない。それでも無理はあるが。


「ええ。でも、それなりに経験もあるでしょうからとりあえず問題にはなっていません…………問題はそこではないんです」

「どういうことですか?」

「現在アルヘーレンはかつての権勢を失い、持ち得る力が少ない状態にあります。まあ、当主にその配偶者、娘が開拓領地に。娘のうち一人は処刑。そんな状態で以前と同じ勢力を持てるかと言えば、そんなはずはありません」

「………………」

「そうですね。以前と同じだけの権力を行使できる方がおかしいでしょう」

「ええ。それが問題なんです……公爵家というのはどれだけ善良に活動していたとしても、相応に敵がいるものです。他の貴族との関係性の問題、派閥的な問題、同じ国内の貴族相手でも……いえ、むしろ同じ国内だからこそ余計に対立するかもしれませんが。つまりはまあ、貴族同士の権力争いと言うやつで……」

「それは……普通のことですよね?」

「ええ、普通のことです。よくあることです。問題は、それがアルヘーレンの領地をめぐっておきているということです」


 アルヘーレンはかつての権力を失った。その領地自体を欲しがるものもいるし、領地の権威を欲しがるものもいるだろう。旧アルヘーレンの領地を自分の領地にできれば結構大きな力となり得る。同時に現状のアルヘーレンの力をほとんど無くすことができる。現状アルヘーレンの派閥はほぼ機能していない。ここで領地もなくなればほぼアルヘーレンの派閥の吸収もしやすくなる。現在のアルヘーレンの領地を治めるフェリシアの祖父がいなくなれば実質的にアルヘーレンという家はなくなるのだから。そのためそういった動きが出てきている。


「…………それは」


 さすがにフェリシアもその内容は理解できなくもない。しかし、それが自分の家の関係者との間で起きているとなるとかなり複雑だ。


「まあ、問題はそこではなくて」

「…………何が問題なんですか?」

「それによりアルヘーレンの領地が混乱状態になることです」

「…………国防の問題か」

「はい、そうです」


 アルヘーレンは隣国と接する領地。当然国防において大きな役目をはたしている。その領地が自分の支配下に置きたいと様々な貴族の手により翻弄されてしまうとなると……どうなるかというと、国防に影響が出る。仮に今アルヘーレンの元当主がいなくなれば、アルヘーレンの兵士たちをまとめる人間がいなくなる。その状態で攻め込まれた場合どうなることか。

 もちろんいなくなったとしても他の貴族が領地を治めることになるだろう。それもまた一つ問題があるといえる。なぜなら今まで国防を担当していたアルヘーレンの家がなくなるということはそれまでのノウハウを失うということ。開拓領地に送ったフェリシアの父に協力を仰げば話は違ってくるかもしれないが、それを行うのは難しい。それはアルヘーレンの家に借りを作ることになる。自分たちで奪い滅茶苦茶にしたのにその尻拭いを奪った相手にしてもらうというのは流石にありえないだろう。貴族には相応にプライドと言うものがあるのだから。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


 流石にその内容に無言になるしかない。


「まあ、俺たちでどうにかできることじゃないな、それは」

「ええ、まあそうですね」

「…………どうしようもないですね」

「そんな…………」


 フェリシアたちの現状では手を出すこともできない。それはしかたのないことだ。開拓領地を治める……現在開発中のフェリシアでは貴族的な権力はほぼ持ち得ていない。開拓領地を開発し、そこを治める貴族として正式に任命されるまでは元貴族という立場でしかない。アルヘーレンの家自体ほとんど潰れているようなもの。その権威はほぼない状態である。


「…………ああ、そうだ。他の開拓領地について話しましょうか」


 流石にこのまま暗い雰囲気で進めてはいけないとアルバートは考え、ここの開拓領地以外の開拓領地について話をする。開拓領地は別にこの場所だけではない。未開拓地域に接した開拓を行う領地が開拓領地であり、それは他の場所にも存在する。暗黒領域はとても大きな範囲に広がっているのだからそうもなる。


「他の開拓領地ですか?」

「ええ。フェリシア様の父母様の話とかもありますよ」

「本当ですか!」


 少しうれしそうにフェリシアが言う。まあ、彼女も父母のこととなると気になるだろう。


「現状他の開拓領地は……さすがにここと同じと言うほどではないですね」

「まあ、むしろ自力でここと同じくらいにされる方がおかしいと思うけど」

「ええ、そうですね……他の開拓領地はお金で無理やり開発している状態です。比較的前の開拓領地よりもいい状況にはなっているようですが、さすがにそれだけです。むしろこの領地みたいに他の領地から人を、なんて状態にはなっていません」

「そうですか……」

「当たり前ですね。むしろここがおかしいんです。誰かさんのおかげで」


 そう言いながらアミルは賢哉の方を見る。


「ええ、まあここがおかしいんですが……流石領地を治めていただけはあるのか、開拓領地でも相応にその手腕を発揮しているようです。部下もいるようですからそれほど困ってはいないんでしょう」

「私のお父様やお母様ですから」

「……しかし、部下とかいるのか。こっちとは偉い違いだな」

「お嬢様にもちゃんと従者がついてきています。流石にお嬢様に当主様たちの部下がついてくるのは……何か違うでしょう」

「まあ、そうなのかもしれないが……娘に領地運営を任すのはどうなんだ?」

「それを言われると……」

「ケンヤ様、しかたありません。お父様とお母様も自分たちのことで精一杯だったのでしょう。お姉様のこともありますし……」


 すべての元凶はフェリシアの姉、およびその姉の婚約者の王子。あとその王子に惚れられた伯爵家の娘。最後は本人に責任があるかは大いに疑問である。まあ、そういった事情もあり、いろいろフェリシアの父母も立場的に困る状況だったのだろう。


「まあ、向こうはそれなりにと言った感じみたいですね」

「普通の開拓領地、ってことか」

「ケンヤ様。ここが異常なだけです。誰のせいでそうなってるかは言いませんが」

「アミル……」


 ここの開拓領地の現状は賢哉の手によるものだ。そしてその賢哉の力は異世界の魔法によるもの。それが異常でないはずもない。まあ、悪い結果ではないのでそういう部分では構わないところなのかもしれないが。


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