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 開拓領地に差し向けられた悪意、フェルミット商会の送り出した人間たちの波によって開拓領地にまで届いた悪人の存在から開拓領地は外へとある程度目を向けなければならなくなった。もちろん現実的にそれができる状況下にはない。そもそも外に目を向けられるほど開拓領地は余裕があるわけではない。そのうえフェリシアではその方面の能力は低いだろう。まだ普通に領主として領地を治める程度ならある程度どうにかなるかもしれないが、裏の方面まで目を向けるとなるとフェリシアにその能力はないといっていい。将来的に育てるのは不可能ではないかもしれないが、やはり本人の気質の問題も大きいかもしれない。

 まあ、そういった裏の帰還、裏稼業を専門とする人間を育てるかどうかはともかく。実際他の領地にかかわる者、外の関係の情報に関してはそれ相応に得る必要性があるだろう。これに関しては単純に開拓領地にかかわる事柄も多い。例えば物価、食料の価格が上がれば食料輸入に問題が出てくるし、どこで何が不足しているという情報があれば輸出でもうけを得られるかもしれない。開拓領地自体は賢哉のおかげでそれほど外からの影響を受けにくいが、それでも将来的にそういった物が必要になることもあるだろう。また、輸出入にかかわる事柄以外にも、世情に関しては重要な物ごととなる。貴族の家の推移、王家の状態、世論、また王国での災害に関係する情報であったり、天候気候にかかわるもの。人の出入り、他国との関係性、様々な点において情報と言うものは必要なものとなる。


「それで……他の領地の情報とか、王国に関しての情報はあるか?」

「そこまではないですね。いえ、今は例の悪人たちがつるし上げられた件で大騒ぎでしたよ? まあ、かなり前の話ですが、今でも結構騒がれてます」


 この世界における情報網というのはあまり大きくない。情報伝達の手段が人から人であり、手紙などの情報伝達に関しても手間がかかるし時間もかかる。特に開拓領地は人の出入りが少なく、商人などがほとんど来ないため、情報自体が入りにくい。現時点ではアルバートが買い付け売りつけに行った際に得た情報、またアルバートの所属するフェルミット商会がアルバートに渡してくれる情報が基本となる。


「……やっぱり情報収集のできる人間はいるなあ」

「そうですね。貴族である以上相応にいるでしょう」

「…………えっと、どうすればいいんですか?」

「そういうのはこっちでやっておく。フェリシアは開拓領地を治める心優しい領主ってのが一番だろうしな」

「…………心優しい、ですか」


 フェリシアが心優しい……と言うのは微妙な所。別にやさしくないというわけではない。基本的にフェリシアは普通の判断で、まともに対応する感じであることが多い。これはフェリシアが貴族として領地を治めるやり方に詳しくないからそうせざるを得ないというのがある。通常貴族はある程度領民に負担を強いるような治め方をすることが多い。税金を過剰に乗せる領主と言うのは稀な話だが、そういう悪徳領主でなくともある程度領民に対する負担はある。それはある意味仕方のないものでもある。この世界生活をするにも結構大変なことが多い。それこそまともに普通の生活を営むのは難しいのが基本だ。ある程度うまくいっている領主でも、そう領民に負担をかけずにいられるところは少ない。その点開拓領地は根本的な基準が低い点と、元々かなりひどい状況下にあったこと、そして賢哉の能力によりそこまで大変な労力なく領地開発を行えているため領民に対して極めて優しい対応がなされているといえる。そもそも開拓領地においては税金を現状取っておらず、領民を養っている状況にある。それゆえに心優しい領主だ、と思われることになる。大半は賢哉、副領主の所業であるのだが、それに伴い領主であるフェリシアの評価も上がっている。

 一方でフェリシアはその評価に納得がいっていない。まあ、自分自身が正しい行いをしているとは思えていないだろう。領主として正しく行動できているとは思えないし、そもそもまともに領地経営できているわけでもない。現在頑張っている物の、うまくいっているのは賢哉のおかげで彼女の力ではない。


「フェリシア様の評価はそこまで悪いものとはなっていませんよ?」

「それはわかります……ですが、私の実力によるものではないでしょう?」

「……それでも、フェリシア様に対する領民の評価であることには変わりありません。自身の力でないことを気にするのであれば、本当に自分の力で良き印象を持ってもらえるように努力すればいいだけです」

「…………そうですね」


 そういった話を続けていてもあまりいい雰囲気にはならない。話を逸らすべきだと考えたアルバートは、そういえばと聞いた噂の中にあった内容を言葉に出した。


「そういえば、以前のアルヘーレンの領地に関しての話も少しありました」

「っ! どういうことですか!」

「気になりますね。教えてもらえますか」

「……………………」


 話を逸らそうとした結果、完璧に地雷を踏んでしまったアルバート。アルヘーレンの家が治めていた領地に関する話はその家の娘であるフェリシアにとっては気にかかることだっただろう。まあ、彼女が将来治めることになったかどうかは……いや、たぶん彼女かその伴侶が治めることになっただろうが、それはかなり先の話、いずれの未来の話。彼女自身には直接かかわること、考えることではなかったが、やはり元々住んでいたこともあって気にはなっていた。それはフェリシアだけではなく、アミルもまたそうである。


「教えてもらえますか?」

「……ええ、もちろん」


 自分で言い出したことであるがゆえにアルバートも今更教えられないということもできない。とはいっても、噂は噂。あくまで伝聞であり、また真実であるかも怪しい内容である。それがすべて真実とは限らないが……とりあえずアルバートはその内容を話し出した。



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