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野生動物の家畜化を目指しつつ、その他いろいろの出来事の解決も行う賢哉たち。例えば宗教的な問題もある。もっとも、さすがに開拓領地に宗教的な権威や信仰獲得……つまりは信者とその信者から得る儲けの格得なわけだが、それはあまり期待されていない。開拓領地と言う窮地にある場所であれば、狂信者を得るのは難しくないと思える部分もあるが、ここフェリシアたちのいる開拓領地においてはかなり生活環境の安全と健全化がなされているため、あまり宗教側の出る余地が存在していない。もちろん宗教自体は信仰以外にもその教え、教義や教養の点で大きな役目を果たすし、孤児院的な役割を担ったり、懺悔など人の心の悪い部分の解消など様々な役割はある。もっとも、それほど活用しなくてもいいのが現状である。
今の開拓領地における宗教の役目はやはり祝い事、祭事の類になる。開拓領地では今まで余裕がなく行われてこなかった祝日の祭事の類だが、国における信仰されている宗教の人間が来たことでそれなりに行うことができるものも増える。余裕以前に、詳しくどういった準備をすればいいのかなどを知らなかったものなどもある。そういったものをどう準備すればいいか、何をすればいいか、それがわかるのは大きい。もっとも今までそういったことをしてこなかったこともあり、それらを行うことの布告など、そういった日の存在や祭の存在を知らしめる必要があるだろう。まあ、開拓領地に過ごして長い人間でもなければある程度自分たちの住んでいたところで祭を経験しているはずなのでそれほど問題ではない。
まあ、宗教的な問題はそれでいいだろう。それとは別に問題がある。様々な人間が流入したことによる人間関係、職業柄の問題、亜人云々の問題など開拓領地における解消すべき問題はいろいろとある。これもまた、新しいことを行ったことによる問題の一つである。
「…………詐欺が流行ってるって?」
「そうみたいです……」
アルバートからの報告で判明した事実で、いくらかの領民のお金の行方に問題があるということ。この開拓領地における金銭管理は商人でもあるアルバートの役割とされている。本来ならば、あまりそういったものを外部の商人に任せるべきではないのかもしれないが、そもそもからして人手不足、アルバートのような金銭管理に高い能力を持つ人間を使わなければやっていけない。フェリシアやアミルはまず無理、賢哉もそういった能力は育っておらず、亜人のエルフとドワーフの二人はそもそもお金を使う機会もない。開拓領地ではつい最近まで貨幣経済が使われておらず、金銭管理って何だという話になるわけで。そういったことを任せられるのがアルバートしかいない。まあ、開拓領地で作ったものを全部任せて売ってもらっている時点で今更と言うべきであるのだが。
そんな彼からの報告で開拓領地で詐欺が行われているという話だ。
「そういった陳情は来ていますか?」
「いいえ……ですが、開拓領地では今までお金を使って物を買うということ自体がありませんでした。最近導入された貨幣の使い方、物の価値がわからず安いものを高く買わされたりすることはありえるでしょう。そして、その事実に気づかなければ……」
「話はあがってこないか」
「はい。多くはそうです。ただ、開拓領地にもともといた人々だけではない現状ですから、他の領地から来た人間の中には詐欺に気づくものもいます。私も商売しながらそういった何をいくらで買った、という世間話をしなければその事実に気づかなかったかもしれません」
アルバートは外に商品を持っていくだけでなく、この開拓領地でも商売を行っている。厳密に言えばこの開拓領地で正式に商売を認可されているのは現状ではフェルミット商会だけだ。もっとも他の商会が商売をできないというわけでもない。
「……しかし、詐欺で立件できるのか?」
「わかりません。開拓領地における法律はどうなっていますか?」
「え?」
「…………現在のところ、あまり領地内における法整備はほとんどできていません」
「まあ、たぶんそうだと思ったけど」
「いちおう王国における一般的な法律が適用されると思います……ですが詐欺となると」
犯罪にもいろいろとある。明確に暴行や殺人と言った乱暴行為であったり、麻薬の販売などの違法物品の販売など、そういった物ならば相応に犯罪として捕まえることもできるだろう。しかし、詐欺となるとなかなか面倒な問題がある。本当に適正価格ではないのか、本当に使えないものを売ったのか、そもそも本当に売買があったのか。明確に帳簿をつける、売買契約をつけるなどがあればともかく、開拓領地でそこまでしっかりとした取引を行う場所はない。フェルミット商会でもそこまではやっていないし、そもそも今回の詐欺行為は恐らくそういった商店で商人が商売をする、と言うものとは違う個人のやり取りが主だろう。はたしてそれで詐欺行為を暴き立てることができるか。
もともとこういった犯罪行為というものは以前の判例などを元に、領主などある程度の権限のある人間が裁きを下す大雑把な例が多い。そもそもそういった裁きを下すみたいな大きな案件になる者も少なく、私刑ですまされることもある。現状開拓領地においてそういった警察機関も、あくまで生命を脅かす犯罪行為を取り締まる者がメインでそういった細かい部分は目を向けられていない。まあ、開拓領地の警察機関は元盗賊を兵士に近い運用で使っているものだからしかたがない。ちなみに彼らが犯罪を犯すことはない。一応賢哉の存在が抑止力となる。契約の関係で。
「こちらの商会が送り出した中の者が今回のようなことをして申し訳ありません……」
「いえ、そちらが悪いわけではないでしょう」
「そういう人間をこちらに送ったという点では確かに多少責任はあるかもしれないが、そもそもこちらが人を送ってもらっている立場だからな。文句を言えるわけもない。これくらいこちらで対処できなければいけないことでもある」
開拓領地における法整備がしっかりしていれば対処できた可能性もある。もっとも今すぐあれはだめ、これはいいと法を作るのは難しい。いろいろとやっていく中でこれはだめと判断していくしかないのだから。最初からがちがちにしてしまうと自由に物事をできなくなる危険性が高くなる。また、領民の行動を制限してしまうのも結構問題は多いだろう。
「まあ、とりあえず俺が調べてみよう」
「……どういうことですか?」
「魔法でちょちょい、と。何が起きてどこでどうなったのか。詐欺をしたやつがどいつかはわかってるか?」
「いえ」
「なら、そいつだけでも判明させておく。ついでにどんな犯罪をしてきたかも。余罪があるかもしれないし、詐欺の方でもどれだけやっているか、だれからどれだけ持って行ったのか。わかったほうがいいよな?」
「はい。お金の流れの管理の問題もありますから……流石に外に出ていくのはいろいろと問題がありますし」
「なら、魔法でちょっと調べるよ」
そう言って賢哉は杖を振る。魔法万能説……まあ、これは賢哉に限った話だろう。




