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「結局、具体的な動きは見せていない…………んだよな?」
「一応意見具申と言う形でいってきたりはしますが、そもそもケンヤ様を追い出そうという動きはほぼありません。なので特に問題ないといえばないんです」
賢哉の存在はこの開拓領地にとってとても重要な物。気に入らない、権力を持ちすぎて危険かもしれない、フェリシアとの関係が怪しい、そういった様々な理由はあるかもしれないが、追い出すには時期尚早。それ以前に追い出す理由もない。いくら怪しいとかいろんな問題があるとはいえ、魔法と言う点で賢哉はとても優秀である。仮に賢哉が他国に行き、敵に回った場合、その危険を考えれば追い出すなどとんでもない。むしろその力を借り受け頼りにした方がよほど都合がいい。フェリシアとの関係に関しても、フェリシアが望むのであれば別に構わないのではないかと思う者もいるだろう。アミルあたりは複雑に思っているが、本気でフェリシアがが賢哉を望むのならばまあいいか、という思いくらいにはなっている。元々は賢哉の存在を怪しんでいたが、今ではもう一年ほどの付き合いだ。流石にそれまでの付き合いで賢哉の行動、様子を見ていれば賢哉が怪しいとは言えなくなる。他のフェリシアの従者も多くがそうだろう。一部の、それこそ自分の立場が重要であったり、フェリシアを利用しようと考えていたりする裏で悪い考えを抱いていた従者は彼らにとって賢哉の存在が都合が悪いのでいないほうがいいということになるのだが。
「では、ケンヤ様を追い出す人はいないんですね」
「…………まあ、いないと言えばいません。そんなことは不可能です」
「……俺を追い出すことは不可能か」
そう言って賢哉は考える。自分を追い出すことはできない。それならばどうするか?
「………………一応対策はしておくか」
「ケンヤ様? 何をしているのですか?」
ひゅっ、と軽く杖を回す賢哉。その様子にフェリシアは何をやっているのかと疑問を抱く。いつも賢哉は杖を振って魔法を使っているので魔法を使っているわけではないと考えているが、ではなぜ杖を回したのか。軽い運動か何かにしても、そんな運動の仕方があるだろうか? よくわからないと見ている側としては思うわけで。
「ん、別に何でもないさ。とりあえず、フェリシアやアミルは注意しておいた方がいいぞ」
「注意ですか?」
「…………流石にそれはないと思いますが」
フェリシアは賢哉の言葉の意味を理解できていない。一方でアミルは流石にそれはあり得ない、と考えている。話の内容は先ほどからの続き、つまりは賢哉を追い出そうとする存在に関しての話である。彼らは賢哉の存在が不都合。その裏には領主であるフェリシアとの関係、つながりであったり、副領主のような役職的な権力。それに関して、あっさりと手に入れる方法……彼らが一方的に思い描く形で得る方法もある。極めて一方的で、想像通りには絶対に遂行しないだろうやり取りであるが、そういった暴挙に出る人間がいないとも限らない。だからこそ賢哉は注意をした。フェリシアはその内容に思い至らないようであるが、アミルがその内容に思い至るのであれば一応は安全の確保はできるだろうという考えだ。
「とりあえず、話しとしてはそんな感じでいいか。色々と問題については話し合ったし……まあ、俺のことに関しての話が多かった気もするが」
「それだけケンヤ様の存在は開拓領地に重要なのです。お嬢様にとっても」
「ア、アミル!?」
「あ。いえ、なんでもありませんよ? 私たちにとってケンヤ様の存在は重要であるということです」
「ええ、そうです、重要です!」
「…………わかってる」
フェリシアとしては己の賢哉に対する想いは一応隠しているつもりではあるらしい。フェリシアも一応元公爵令嬢。己が貴族であり、その婚姻が自由にできる者でないということは理解している。いくら開拓領地を治める立場に収まる可能性があるとはいえ、その婚姻が自由な立場になる可能性は低い。もちろん賢哉に対する想いを叶えるためいろいろと動くつもりではあるが、それが叶うとも限らない。なのでできれば隠し、最終的にうまくいったとき、その時初めて賢哉に想いを伝え返事をもらいたい。そんな感じで考えている。まあ、隠し方が稚拙であるためフェリシア以外のほとんどの人間はその思いにうすうす気づいている。もちろん賢哉も。そういう部分を見せているからこそ賢哉の排除の動きが活発化しているともいえるのだが。
と、そんなことを話し合い、賢哉は二人のもとを去る。なんだかんだで彼も仕事はいろいろとある。
「森の中で領地で飼えそうな獣をーって言っても無理だろう流石に……」
「それはわかってます。でも探すしかないですよ……副領主様から頼まれているんですから」
「そうだけどよ……」
ナルクやグルバー、そのほか開拓領地付近の森での行動、探索を行う班が森で探し物をしている。彼らの探し物は主に鳥。卵を産む要因として鳥が欲しい、また開拓領地で育てられるような獣の類。できれば牛や豚なんかがいいが、こんな開拓領地付近の人の手の入ってない森にいるのはせいぜい猪くらいだろう。鹿などでもいいかもしれないが、そもそもこの森に飼いやすい生物などいるはずもない。まあ、賢哉であれば、捕まえた獲物に魔法で無理やり首輪をつけて飼いならすこともできるだろう。そういう形でもいいからとりあえず開拓領地で飼い慣らしで使えそうな獣を、と言うことなのかもしれない。一番欲しいのは卵を産む鳥だとも言っていた。まあ、彼の望む鳥とは鶏のことであり、当然ながらそんな都合のいい存在がいるはずもないだろう。
「鳥を取ってこいと言われても困りますよね…………」
「食う分を取ってこいってなら話は早いんだけどな。そもそも、そういうのって余所から持ってこれないのか?」
「さあ……」
はっきり言って、この森の中から連れてきた獣を家畜にするというのはまともな判断ではないだろう。賢哉ならば確かにある程度自由に探索できるし、獣の支配も自由にできるのかもしれないが、他の人間は双ではない。捕まえて連れ帰るだけでも結構大変な重労働である。
「とりあえず、出来る限り持って帰りましょう。いざという時は巣ごと持って行って卵だけでも持って帰るのもいいかもしれません」
「卵を持って帰っても仕方ねえだろ。あれか、食えるからそれを渡してごまかす感じか?」
「違いますよ……もしかしたら孵化するかもしれませんから」
「あー、そういうことか」
卵からの孵化。鳥類であれば刷り込みもあり、一から育成するのであれば家畜化もしやすいかもしれない。そういう見込みだ。まあ、賢哉ならば無理やりの家畜化もできるのでそこまで家畜化しやすい状態を作る必要性もないが……まあ、賢哉がいなくなる、もしくはその力を借りられない状況もあり得るのならば、そういった位置からの家畜化も考えておく必要はあるかもしれない。もっとも、そういうことはナルクの考えることではないが。ともかく二人は森を探索し、獣を生け捕る努力をする。




