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「………………あまり活発ではないですね。そもそも、ケンヤ様に我々はかなり助けてもらっています。いくらケンヤ様がどこの誰とも知れぬ人であるとはいえ、それを排除しようなどと簡単に言えるはずもありません。それとなく、話題にあげたり言葉の節々で示唆するくらいです」

「そもそもなぜケンヤ様を追い出そうとするのですか? 現在の開拓領地の多くはケンヤ様がいなければ成り立ちません。食事をとってくるのも、植物を育てるのも、川からの水源の確保も、その…………ふ、不浄の処理も、ケンヤ様いなくては成り立たないでしょう?」

「ええ、言ってはなんですが、ケンヤ様いなくては開拓領地は成り立ちません」


 現状の開拓領地は賢哉の扱う魔法に多くを頼りきりである。一応開拓領地はそれなりに発展し、ある程度は自活できる体制を整えている。しかし、それは元々ここにいた住人が、質素な状態で倹約して生活するならば、というくらいの状態でならと言う前提である。現状開拓領地に人が増え、物づくりの体勢ができている状態ではさすがに賢哉なしで活動していくのは厳しい。できないとは言わないが、多くの別の物を犠牲にしなければならない。流石にそれでは不満も出るし、今のように人の流入を増やせる状況にはならない。

 そもそも、現状目に見えてわかる部分以外でも賢哉の力を使っている部分は多い。開拓領地における獣の侵入を拒む結界、元盗賊たちに使っている害意への対処の契約、そういった細かい様々な部分でも魔法を使っている。フェリシアの言った通り、様々な開拓領地における細かな作業にも魔法を使っているのでそれがなくなれば結構大きな痛手だろう。


「まあ、開拓領地のことに関しては今後俺がいなくてもやっていけるようにはするつもりなんだが……」

「今は無理、ということですね。そもそも一年であらゆることができるようになるのが異常ですが」

「それに……エルフやドワーフに協力をとりつけたのもケンヤ様ですよ? 私たちも信頼されていないとは言いませんが、ケンヤ様を追い出した場合彼らとの協力関係はどうなります?」

「…………恐らく、厳しい状況になりますね。そもそも道が繋がっているとはいえ安全は確約されておりませんし、私たちだけでは彼らに対し偏見を抱き、対等につきあうことは難しいでしょう。お嬢様はできますか?」

「……努力はしますけど、出来るとは限りませんね」


 エルフやドワーフなどの亜人とのつながりは賢哉が言いだしたことであり、賢哉がいなければ成立しなかったであろうこと。そもそも開拓領地に訪れているネーシアやアルグレイスは賢哉がいなくなれば元々住んでいたところに戻りかねないだろう。彼らに対し一切偏見のない……悪い意味での偏見のない賢哉がいるからこそ、彼らは開拓領地にきているといえる。一応フェリシアなど彼らも付き合いのある人間は多少信頼を寄せていると思われるが、それでも賢哉ほどではないだろう。さらに言えば、賢哉の魔法の手助けが彼らに入る。ネーシアも賢哉の扱う魔法を学んではいるが、この世界において普通に使える魔法を賢哉が使う魔法でつかえるようになったくらいでまだまだできないことの方が圧倒的に多い。というよりも、ネーシアなんかは賢哉がいなくなれば戻るのは確実である。彼女は賢哉の扱う魔法を教えてもらいに来ているのだから。


「ケンヤ様の力は大きく、私たちは未だにその力を必要としています。追い出すなんてありえません!」

「……まあ、普通はそうなのですが」

「なぜケンヤ様を追い出そうというのですか?」


 フェリシアは元々賢哉を副領主に任命するくらいに賢哉に対して信頼を寄せている。そして開拓領地の発展に伴い、その力の大きさを垣間見て、その力が開拓領地のために必要なことも理解している。まあ、仮に開拓領地の発展に賢哉が貢献しなくとも、賢哉に助けてもらったことから頼りにはしそうだ。それくらい、フェリシアは賢哉のことをそばに置きたがっている。

 フェリシアはそうであっても、他がそうであるとは限らないのだが。これに関しては一応アミルもそちら側であったはずだ。


「それは…………」

「外様。そもそも俺は貴族でも何でもない、怪しい旅人の魔法使いだからな。見た目も若いし、実際年齢も若いほうだし。実績も特になくいきなり現れていきなり副領主に任命され、領主であるフェリシア、主人であるフェリシアから好意的な目で見られ信頼を得ている。いきなり現れた若造のくせに、フェリシアに擦り寄っていい目を見ている……って感じだろうな」

「ええ、まあ。嫉妬が理由の中核でしょう。本来副領主に就けるのは私たちお嬢様に従う臣下であるべき、と考える者もいるでしょう」


 賢哉と言う存在はあまりにも怪しい。そのうえ、フェリシアを助けてその信頼を得て、またフェリシアは賢哉に対し……異性に対する類の好意も向けている。開拓領地の運営の中核にかかわり、開拓領地の行く末を決めるようなことを来ない、もしかしたらフェリシアにとって代わってこの領地の支配を行えるのではないか? そう思うくらいに開拓領地における賢哉の権力は大きい。

 主人の心配、賢哉の存在に対する不信…………ではなく、多くはその賢哉の現状に対する嫉妬が大きい。なぜなら、賢哉の現状はフェリシアに好意持たれ、場合によっては貴族になりえるくらいに成果を出しており、もしかしたら彼女の夫として開拓領地の領主となりえるかもしれないくらい。まあ、さすがにこれは多少行き過ぎた妄想だが、フェリシアの手助けを行い、信頼を得ていい立場を得る可能性に関してはフェリシアについてきた従者たちもそんな可能性が、と考えていたことである。その立場をいきなり現れた人間に掻っ攫われた、と考える者がいてもおかしくはないだろう。

 もちろん賢哉は類稀な魔法の力を持って、開拓領地に多大に貢献してきたからこそその地位にふさわしい権力、信頼を得ているともいえる。しかし、実際にどうであるかはそういった嫉妬を抱くものには関係ない。彼らに必要なのは賢哉と言う存在が持っている事実、そして自分が賢哉の就いている立場、置かれている立場に就けなかったという事実だけだ。


「面倒な話だな」

「ええ、面倒な話なんです……」


 現状簡単に対処できる事柄ではない。事実を語ったところで感情で考えている物事を覆せるはずもない。そういった物事に対する対処は結構に面倒なことなのである。それが問題として挙げられるくらい、一部では大きくなっているのがかなり大きな問題であるということになる。


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