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新規事業の出発を行われたフェリシアの治める開拓領地。問題はそういった新しく行う事柄で多く見られているが、それ以外の部分でも多く見られる。特に今年度からフェルミット商会の手助けもあり、今までよりも人間が増えるとなると、今まででは見られないような問題も増える。例えば人間関係もいきなり見も知らぬ人間が増えれば問題が大きくなるのは間違いないだろう。開拓領地における状況、それにうまく慣れず、また今までとは違う様々な仕組みに困り、この地に最初からいた人間とぶつかることもあり、またそもそも職業柄合わないもの同士がぶつかりあったり、ほかにも住んでいた所が仲の悪いお隣の領地とかそういう問題でぶつかりあったり、フェルミット商会から送ってこられる人間は多種多様で様々、それぞれが抱える事情も色々で結構問題が大きい。まあ、その解決能力がフェリシア含め開拓領地を治める人間に求められている。これくらいはできて当然ということでもあるのかもしれない。
また、それとは別に。宗教的な問題も一つの内容としてあがってくる。
「この国宗教ってあったんだな」
「……ケンヤ様のいたところには宗教はなかったのですか?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、今までこっちでそういうのを見ることはなかったから……」
開拓領地の人間も別に無宗教無信心というわけではない。一応この国を含め人間に信仰されている宗教とその神に対する信仰はある。しかし、開拓領地ではそもそもそういった神に祈ったところで別に彼らを助けてくれるわけでもなく、そういった信心を向ける前に自分の生活で手一杯、祈りを捧げるも精神的な余裕もなく、開拓領地にはそういった宗教関係の人間もおらず、そのためあまりそういった部分には触れることはなかった。今まで祝い事もろくになく、宗教的な神事の類も行う余裕はなかったため、全くそういった物に触れられてはいない。
「宗教の建物は領主館の隣辺りに置いておこうか」
「……それはいいのでしょうか?」
「別に場所をどこにしろと言う指定はないでしょう。ですが……お嬢様の館の隣にですか」
「監視の意味合いもあるし、領主の紐付きという認識でいてもらった方がいい。まあ、向こうがどういうつもりかは知らないけどな」
どの世界においても宗教は厄介な物、その宗教家もまた厄介な物。たとえ信仰と信心に生きる根っからの宗教家でも、その狂信が危険であったり、逆に全く信仰などなく宗教を金儲けの物として利用したりする場合もある。ほどほどに教えを学び、その教えの下正しい生き方をとするような宗教家ならばいいが、そうでない面倒な宗教家が来ると厄介であるということになる。その宗教家の様子がわからないからこそ、見える範囲に起き監視、管理を行うということだ。
特に問題となるのが反乱、または洗脳に近い布教だ。流石に不況で洗脳し奴隷に近い形にすることはないかもしれないが、信仰をさせて寄付を求めたりしてくる可能性はある。特に現状お金の使い道があるので求められれば使い道のないお金を寄付する可能性もあるだろう。
「まあ、そこは一応注意して見守っておいた方がいいな……」
この世界における宗教は今の所特にそういった問題は目立っていないが、ないとは言えない。そもそも賢哉はこの世界の宗教事情の正確な所を知らない。ゆえに自分の持つ宗教的知識を元に考えるしかなく、そのための判断である。まあ、うまくいくかはともかく。
そういった宗教的なことも問題だが、それとは別の問題もある。人が増えたことにより、その中に混じる別の地の間者……つまりはスパイである。流石に破壊工作、扇動などは行うつもりがないようであるが、情報収集くらいはしていくつもりであるだろう悪意の強いよその人間が増えているわけだ。フェルミット商会でも、さすがにそういった人間の完全把握はできない……また、そもそもフェルミット商会で送られてきた人員とは別で、開拓領地に入り込むつもりがあった人間がフェルミット商会の送ってきた人間と同じタイミングで来ただけと言う可能性もある。元々開拓領地は人が逃げ込むための土地という側面もあり、そういった存在が入りやすい場所である。まあ、開拓領地の状況から普通はあまりまともな人間は入ってこれないため、そういった存在はばれやすいしあまり居つけないのだが、今のフェリシアたちのいる開拓領地はその存在がわかりにくい状況にある。まともな人員を受け入れているからこそ、そういったスパイの存在が把握しきれない状況にあるということだ。
「…………スパイですか」
「そういった人もいるんですね……何をしているんでしょうか?」
「たぶんここのことを調べに来たんだろうけど……まあ、恐らくはこの国の人間だと思うんだが」
現状そういったスパイに関して、恐らくはこの王国の人間であるという予測が立っている。まあ、そもそも他国に接していない開拓領地にわざわざ他国から人を繰るはずもない。現在の開拓領地の現状を調査する目的で来ている可能性はあるだろう。
「………………」
「アミル? どうしました?」
「いえ、ちょっとした可能性を考慮しているだけです。スパイがどういう人間かわからない以上、推測にはあまり意味がないので……」
「一応調べておく。たぶん後で聞くことになるかもな」
とりあえずスパイに関してはそんな感じで話が終わる。大きな問題は宗教的なもの、この開拓領地を調べようとするもの、そして…………この土地にいる人間の問題。内部の問題が最後である。
内部と言っても、開拓領地にもともといた人間に大きな問題があるとかそういう意味合いの物ではない。いや、彼らも色々と問題を抱えているが、個人の物やフェリシアたちがどうにかするものではなかったりといろいろだ。そういったものではなく……フェリシアたちの内部事情における問題、内紛的なものだ。
「実は私たちの連れてきたフェリシア様に従っている者の一部から……ケンヤ様を排除しよう、という動きがあるのです」
「……それはどういうことですか?」
賢哉よりもフェリシアのほうがアミルのその言葉に対する食いつきが強い。賢哉自身は前々からそういう視線を感じているため別にその発言に驚く様子を見せない。そもそも副領主という本来賢哉がつけない役職についている時点でそういった嫉妬はあるだろうと考えており、それが実際に顕在化した程度の話でしかない。
「具体的にどういう状態なんだ?」
詳しい内容を賢哉はアミルに訊ねる。




