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 二年目。フェルミット商会からの人材派遣、および領民となり得る可能性のある様々な訳アリの人々の派遣、領主から領民への貨幣経済導入についての話および貨幣使用に関する話、今後新たに行う農業や畜産など、新たな手を付ける分野に関してのこと、また他にも手工業的なものからさまざまな技術的分野の導入など、新しい年度に移り開拓領地でも行うべきことは多い。

 今までは開拓領地の領地拡大と畑を作り食料生産、環境の改善が主だったのだが、今後を見据え、また人が増えることもあり単純に食料ばかり作っていればいいという話ではないため、いろいろとやっていくことが決まる。本来簡単に人が増えるはずもないのだが、フェルミット商会が開拓領地に人を送ってくれることが決まりそれらに対する対応が必要となってくるためそういった部分に手を付けなければならなくなった。もともと卵、肉など狩りで得ずともそういった食料を得るための手段、また単純に労働力ともなり得る動物の確保は考慮していたことであるし、エルフやドワーフだけにたよらず人間の持つ技術と生産物を作ることも考えていた。人間が増えれば食料の確保もいるが、全員をそれらに回す必要はなく、人が増えたからころ新しいことに手を付けることができるようになる。

 とはいえ、すぐにすべての人員が送られてくるわけでもなく、送られる予定の人員に対する対応もすぐにできるわけではない。仮の建築なら賢哉である程度できるが、ちゃんとした建物を作るならばやはり大工の能力のある人間がいるし、建築するのに時間もかかる。資材もすべてを開拓領地で得られる材料だけで作れない場合もこれからは起こり得るのだからいざという時に資材確保を行うことも必要となるだろう。まあ、あまり焦りすぎたところでどうしようもない。今できることをやっていかなければいけないだけだ。


「貨幣の使用に関してはどうなってる?」

「皆戸惑っているな。そもそも金の使い道がないのもあるし、元々自分が住んでいたところでは使っていないやつもいる。一応ああいった硬化の使用はどこの領地でも行われているが、あまりに田舎な方ではあまり使うこともないし、得ることもないってこともある。それ以前に開拓領地じゃ使い道がない」

「最近はこちらでも商店を開いてはいますが、客がほとんどいませんね」

「……お金を使い慣れていないんですね」

「そういうのもあるが…………そもそもほしい物ってのがあまりないんだ。今を生きられるだけで十分ってやつが多いからな」


 開拓領地にいる人間は生きるのにも困窮していた。それゆえに現在生きていられるだけで十分幸せであると感じる人間が多い。それは彼らの欲しがる物にも影響しており、現状生きるのに十分な物を得ることができ、畑など仕事をやるうえで特に問題もなく、多くの基本的な問題も解決されており、それゆえに特にこれと言って必要とするものがない状態にある。この開拓領地に今まで娯楽、嗜好品の類がなかったため、いきなりそれが売り出され欲しいならば手に入るとされてもそもそも欲しがろうとしない。それだけこの開拓領地の環境に慣れている。

 今まで貨幣が手に入らなかったことも影響しているだろう。いきなりぽんとお金を渡されたて自由に使っていい、とされてもすぐにそれを使うのは難しい。彼らが生活するのに十分な物はあるのだから使ったところで問題はないのだが、すでに必要なものがあるからこそ使うことに意味を見出せないものもある。また、彼らは開拓領地時代の苦労もあり、いざという時のために……とため込んでいるのもあるだろう。一部の人間はそもそもそういったお金のやり取りに慣れていないものもいる。開拓領地にいる人間は根本的にもともといた場所において問題があってどうしようもない状況にあり、それゆえに逃げてきたという者もいる。その中には家庭の財政事情が最悪でお金に触れたことのない者もいる……かもしれない。


「個々の事情の問題、そもそもお金を使う必然性がないか……」

「それでももう少し嗜好品を欲しがったりするものだとは思いますが……」

「生活するうえでの支援は行うという前提としたうえでもっとお金を渡すべきでしょうか……?」

「いや、それはどうだろう? ため込むままため込んで終わりじゃないだろうか?」

「そうですか? 難しいですね……」

「お金の使い道、使わせる条件……」


 貨幣経済の導入は構わないが、いきなり今まで使ったことのないシステムを使わせるのは難しいだろう。


「まあ……今は置いておこう。そうだな、必要な物……食料の一部にお金を使わせるようにするとか」

「一部ですか?」

「毎日必要とするものではなく、食卓に載せる上で一品増やせるとか。お祝い事……祭りの時に屋台とか出して、っていうのもありか?」

「屋台か。祝い事でも特に目立って何かをしているわけでもなかったしな……」

「人はどうします?」

「別に今すぐ祭りをするわけじゃない。人が増えてから……いつお祝いがあるのかは知らないが、例えば収穫祭的なこととか?」

「そのあたりはこちらで考えることにします。そういうのは領主側の役目でしょうか。お嬢様、頑張ってくださいね」

「えっ!? 私が考えるのですか!?」


 いきなりアミルに仕事を振られ驚くフェリシア。まあ、彼女の領主としての仕事の一つだろう。


「他に何か……」

「動物を飼うって話はどうなんだ? できるのか?」

「すぐにできるようになる、ってことはないだろうけど……飼う分には俺の方で幾らか捕まえておけるから、あとはその飼育法を学ぶとかになるか?」

「…………ふむ」

「それも新しく来た人々に任せるつもりですか?」

「いや、一応もともといる人間にやってもらいたいとは思ってる。まあ、新しく来た人に割り振る仕事としても考えてるが。ずっと畑ばかりやってるって言っても、向き不向きがあるだろ。動物と仲良くなる能力が高かったり、単純に畑仕事には向かないとかもあるかもしれない。まあ、動物の育成が簡単とは言わないが」

「そうですね、そういうのはあるでしょう。私の方でも商人候補はいくらか見繕っています。まあ、商人にする提案を持ち掛けてはいますがあまりいい顔はされていませんけど」

「いつの間に……」

「開拓領地でも新しい仕事を増やさないと、全員に畑を任せるってわけにはいかないし……まあ、大農地を作って農業領地にするとかもありかもしれないが」

「せっかくエルフやドワーフがいるのに農業一辺倒はもったいないでしょう」

「そうだな。やっぱり何か技術的なものがあった方がいいよな」


 話し合いは続く。まあ、いつもあちこち仕事をして回るだけでなく、こうした上の人間での話し合いも時には必要になるだろう。今回の話は開拓領地の人間側が主体の話で合うため、エルフやドワーフ……ネーシアやアルグレイスはいないが、彼らに話を持ち込み意見を聞くのもありだろう。もう少し会議っぽく、と行きたいのだが、こうした話し合いに参加できるくらいに頭のいい人間、まとめ役を請け負っている人間、知識のある人間が少ないので少なくなりがち、またその内容もあまり大きく広がっていかない。それを改善することもまた考慮の一つとして話し合う。すべては開拓領地の発達のため。

 ともかく、まずは貨幣経済、現状の王国で行われている一般的な経済状況と同じくらいの経済的な金回りを作ることが優先である。これから人が増えるのだからいつまでもお金を使わない生活を、というわけにはいかなくなってくるのだから。それに伴い領民への支援、また食料に関することなど様々な事柄も現状から改変することが必要となる。それらの改変の導入も簡単ではない。新しい年度になってするべきことが多く、彼らも天手古舞で大変そうである。


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