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「ふむ…………」


 フェルミット商会の会頭、ジャネット・フェルミット。彼は今自分の所に持ち込まれた商品、販売物を見ている。それは別に彼に対して売り込みと言う形で持ち込まれたものではない。あくまでジャネットにこういう製品が作られているという実例を見せるための物だ。どういう物か、どれだけ作れるのか、どう作るのか、どこで作られているか、何を素材にしているのかなどなど、様々な点からその持ち込まれたものの価値を判断する。もちろん自身の専門分野と言うわけではないので本当の意味での正確な目利きができるとも限らないが、商売人としては作った人間でなくともあるていど性能や質を判断できなければ困る。まあ、ジャネットくらいの目利き能力であればそれなりのレベルではないのだが。

 そんな彼の目利きで、質や性能は十分な代物、と言う判断なのが持ち込まれたものだ。別にそれが悪いわけではない。十分とは言うが、そもそもの基準が高めなので十分とい評価な時点で普遍的な製品よりもいい。だが彼にとっての問題はそこではなかった。一つはその作成技術。彼が見たことのないつくりをしており、またあまり一般的ではない作られ方をしている。少なくともそのあたり入る普通の職人やその関係者が作ったものではない。それこそ一子相伝の特殊な技術をもつ職人が作ったようなものだ。そしてもう一つはその値段と数。持ち込んだ販売物の数が増えれば値段は安くなる。供給が増えれば値段は安くなるものだ。もちろん需要の数も重要になってくるのだが、それを考えても持ち込まれたものの基準の値段が普通よりも安い。もしこれらが広まれば他の職人が金銭を得られる仕事を変えなければならない危険があるほどに。


「アルバート。これをどこで手に入れた? いや……お前には確か、開拓領地に言ってもらっていたな。ということは……」

「はい。その開拓領地で仕入れたものです、父さん」


 これらの物を持ち込んだのはアルバート・フェルミット。フェルミット商会の会頭であるジャネットの息子である。まさか自分の息子がこんな色々問題が起きそうな代物を持ってくるとは、それも物の性能相応ではない値段をつけて。それは少々おかしな話だ、とジャネットは思っている。アルバートはまだまだ若く年季が足りていないにしても、ジャネットの息子として相応に能力はある。それは育てたジャネット自身がわかっている。しかし、実際物につけられている値段があれなのがおかしい。


「ふむ……だが、少々安すぎではないか? これだけの物が安い値段で手に入るようになると、他の職人が困ることになる」

「わかっています……一応、いくらかこちらでももう少し高く売ってもいいのではないかと思うんですが、今はまだ安めでいいということらしくて」

「向こうが安く売れと言ったのか……」

「今は、らしいですが」

「一時的な安売りか。つまり、販売する物を売ってその知名度を上げたいのか。開拓領地であればそれも仕方のない話かもしれんな」


 たとえいい物があったとしてもそれを知られていなければ買い手がつかない。ならば安値でいい物を置き、まずはその物の存在を知らせる、そして売れればそれなりに口コミなどで広がり知名度がつく、そういうことである。


「しかし、開拓領地にこれほどの職人がいたのか」

「それは……」

「何か不味いことでもあるのか? まあ、開拓領地にいるとすれば様々な問題がある者ばかりだろう……それでもこの技術を持つ存在を排斥するなど考えられん。多少の問題は有能さで打ち消される。よほどの問題を抱えているのか?」


 言うべきか、と迷う様子を見せるアルバートであるが、黙っていてもあまりいい結果にはならないだろう。父親がどう判断するかわからないが、少なくとも完璧に拒絶することはないだろうと考え、アルバートはあまり大っぴらには言えないことを話す。


「亜人、ドワーフが作ったものなんです」

「………………そうか。それならば確かに納得がいく。彼らの持つ技術、彼らの過ごす場所を考えればな。亜人がつくったとなるとあまり公にはしづらいだろう」

「…………亜人の作ったものを売っても問題にはならないんですか?」

「現在の一般への亜人の認識は昔のそれとは違う。今や多くの人間は亜人の存在を詳しく知らず、昔話や伝聞でしか知らん。ゆえに偏見のほうが強いだろう。しかし、それくらいだ。亜人に対して毛嫌いするという人間は少ない。まあ、あまり言いふらして物を売るのは感心しないが、聞かれた場合亜人が作ったという分には全く問題ないだろう。そもそも、亜人の作ったものは王国にはほかにもある」

「そうなんですか?」

「すべての亜人が王国からいなくなったわけではない。一部の領地では彼らを隠し匿い、その代わりに技術の提供を受けているところもあるらしい」

「なんだって!?」


 基本的に亜人は領民扱いされない、亜人と人間は相容れない、そんな感じのことを言われ、そういう風潮があるのは確かである。しかし、現在の開拓領地のように、亜人と仲良くできない協力関係を築けないと言うわけではない。お互いの利害が一致するのであれば、ある程度の関係は築けるだろう。


「まあ、はっきりと言っているわけではないがな。それでもある程度人とのつながりを作り見て回ればそれくらいはわかる」

「はあ……」

「しかし、開拓領地がこれほどの物を作ってくるとなると……結構大きな話になるな。アルバート、開拓領地は現在どうなっている? お前に行かせたが、様子はどうだ? 確かアルヘーレンの幼い令嬢が治めているのだろう?」

「はい、少々変わった状況になってまして……」


 具体的に開拓領地、フェリシアの収める領地の現状を話す。本来ならあり得ないような開拓領地の状況であるが、ジャネットはその話を聞きそれならばこれほどの物を作って、しかも数をそろえているのも納得である、と言った感じだ。


「なるほど……何者かはわからぬが、なかなか普通にはできない発想をした人間を部下としたか。しかも副領主に就けるとは……大胆な行動だな」

「そうですね……」

「しかし、発展はしているが……それだけか」

「人が足りていないのが現状みたいです。まあ、それも仕方のない話だとは思いますけど」

「開拓領地であるからな……」


 開拓領地は人の逃げ込む先であるが、そこまで追い込まれる人間はそうはいない。それに逃げるのは逃げるので結構な労力がいる。たとえかなり厳しい状況だろうと、それ以上に過酷な危険のある開拓領地に逃げ込む人間はどれほどいるだろう。


「……人が欲しいのだな?」

「ええ、まあ……一応は父さんに話を持ち込んで、どうすればいいか聞くつもりだったんですけど」

「まあ、こちらから人を回そうと思えば回せるのだが…………ふむ」


 考え込むジャネット。人を回せることができるからといっても伝聞を元に単純に決めるわけにはいかない。


「一度こちらからお前以外の人員を送る。支店を作るのであればお前だけでは管理も難しいだろう。その際に幾らか開拓領地で過ごしてもいい、新しい場所で生活をしてみたい人間も送ろう。また、そちらの状況を正確に知り、そのうえでどういう人間を送れるか、どれだけ遅れるかを判断できる人間も送ろう。お前ではそこまで完璧に判断するのはできないだろう」

「まあ、商人ですから……」

「だからと言って商売だけに傾倒しないように。他のこともできるようにならぬと一流にはなれんぞ」

「はい……」


 そういうことでアルバートとジャネット、フェルミット商会の父子で行われた開拓領地への人の派遣。これに関してはアルバートの話から得た情報も一つの要因であるが、商会に届いた手紙の件もある。ありえない方法でジャネットの下へと届いた手紙、その力の重要性に関して。それを見極めるうえでも、多くの情報がいる。人を送るのはそのためでもあった。まあ、息子が頑張って出世できる環境を作るという目的もないではない。なんだかんだで彼も親である。子にはいい未来を歩んでもらいたい。現状でも開拓領地の重要ポジションだが、これからどうなるかわからない。開拓領地の状況次第では何も和えられない可能性もある。ならば開拓領地を支援し、フェルミット商会の得となるように動くのがいい、そういう判断でもあった。

 と、いろいろな理由はあるが、フェルミット商会から開拓領地に人が送られることが決まったのである。


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