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 冬。開拓領地も冬は寒く中々行動しづらい。とはいっても、開拓領地はいろいろと必要なものが多く、寒いから仕事をしないというわけにもいかない。これが大雪でも降って多くの場所が雪で埋まるなら、それこそもう少し考えようもあるが、この世界では冬でも別にそこまで雪が降るわけではなく、仕事のしようはある。しかし、雪が降らずとも寒くなるのは事実であり、森に果実は実らず、草花はあまり生えず、森の獣を含めた多くの生物は冬眠したりあまり住処から動かず出てこない。そのため、出来ることはそれなりに限られている。

 食料に関しては事前にため込んでいた分があるのでそこまで大きな問題にはならない。開拓領地はそういう部分ではかなり大変だが、フェリシアおよび賢哉たちが何か起きた時のために確保していた分があるため、最悪冬で何も作れないという状況になっても当面は問題のない状態となっている。


「…………むう」

「やっぱりできる魔法とできない魔法があるのか……才の問題だろうな。できないのはこちらの魔法に直して似たようなものを使うしかないか」


 賢哉のネーシアへの自身の魔法の教授はだいたい終わっている。とは言っても、その多くはネーシアに扱えず、魔法言語に関してもネーシアはとりあえず理解したというのが現状であるのだが。やはりこの世界において賢哉の扱う魔法、そして賢哉の持つ魔法の才は独特の物であり、この世界の人間に賢哉の扱う魔法の多くは扱えるものではないようだ。仮に賢哉の扱う魔法が他の魔法使いでも自由に扱えるようになると大きな技術革新となるのだが、そう簡単にはいかないようである。

 まあ、もし技術革新が起これば開拓以上に人間同士の戦争や、対亜人に対する迫害や奴隷化などの問題のほうが大きくなる。賢哉の今まで扱った魔法を見てきてもそういった悪用方法が多様に存在するものであるため、それこそ現状その技術を伝えているネーシア意外には教えないのが賢明であるかもしれない。今のところは賢哉の魔法に興味を持っているのがネーシアだけなのでその技術を広めないで置くのに全く問題がなくてよかったといったところだろう。


「ま、教えるべきことは教えたから、これ以上学ぶ必要はないけど……」

「これ以上ケンヤ様が教えることがないのですか? では、こちらに魔法を学びに来ている彼女は村の方に戻るということになるのでしょうか?」


 ネーシアの目的はあくまで賢哉の魔法を教えてもらうこと。そういう点ではこれ以上ここに残っている意味はない。


「…………まだまだ扱う分には問題が多い。その点に関して指摘をしてもらいたいから残る」

「そうですか…………」

「それに、こちらで見られること、知り得ることにはまだまだ面白いことも多い。村にいてもどうせ退屈なだけだから、こちらに残っていろいろと学びたい」


 ネーシアはとりあえず村に戻るつもりはないようで、こちらで賢哉、ほかにも開拓領地のあれこれを見て回り、知って、いろいろと学ぶつもりのようだ。以前見損ねたドワーフの色々もまた興味はあるようだし。


「さて……ネーシア様の件はともかく、皆様が集まっているのですし、開拓領地のこれからについて話し合いましょう」

「アルバートは?」

「流石に冬は戻ってくるのが大変でしょう……雪で道がふさがれているということはありませんが、寒い中の移動は大変ですから」


 現在アルバートは開拓領地の外にいる。なのでこれからのことを話すにしても、アルバートなしでの話し合いとなる。なのであくまで大まかな方針となる。一度アルバートは物を売り、それから戻ってきて売買で得たお金を開拓領地に置いていっている。そして今回出て行ったのは二回目の売買だ。これに関しては単純な売買だけではなく、アルバートの所属するフェルミット商会にも販売物を持ち込みいろいろと話をしてどうするか、と言うのを決める目的でもある。一回目はとりあえず売りさばきお金を獲得することが目的だった。

 貨幣経済、お金のやり取りを開拓領地に持ち込むのは簡単ではないが、とりあえず次の春、来年度からお金を開拓領地の人間に提供しある程度様子を見ることにしている。とはいっても、完全にすべてをお金でやり取りする、というわけにもいかない。そもそも開拓領地以外の場所でもすべての場所で完全に金銭的やり取りを成立させる状況に放っていないだろう。なんだかんだでこの世界、この国を含む多くの場所は中々に大変な所なのである。


「ともかく、話し合いましょう。現状開拓領地は大きく発展しています。もちろんそれは開拓領地としては、という但し書きが着きますが」

「それはいいことですよね?」

「ええ。いいことです……問題は、ただ広げたところであまり意味がないという点です」

「………………働き手が足りていない」

「俺たちはあまり関与していないが、人間の数が少ないのはわかってるからな。物を作ってやる機会も少ない」

「はい、そういうことです……」


 人が足りないというのが開拓領地における最大の問題だろう。開拓領地で結婚し子供を増やしたとしても、一年で子供が大人まで成長するわけでもない。現状遺っている人間の中にも子供と言うのはそれほどおらず、その成長を期待するのも難しく、ましてや戦力となるほどの成長が急速に行われるわけでもない。これから子供を積極的に作り増やすとなると女性の働き手の数も減るだろう。もちろん妊娠中も働けないわけではないが、出来ないことが増えることには間違いない。

 働ける人が増えず、逆に働き手の減少が起きる可能性があるのにただ開拓領地だけを大きくしたところで使い道のない土地が増えるだけ。そのままでは土地が荒れるだけであまり意味はない。どうにかしてこの開拓領地の人間を増やす必要性がある。


「まあ、他の領地から人を持ってくるしかない……ということになるんだが」

「それができれば苦労はしません。前回の娼婦の身請けや奴隷の購入でもなかなか難しいものです」


 人の移動は本来簡単なものではない。そもそも開拓領地に移動する人間などよほどの事情を抱えていないと難しい。もっとも、それは以前の開拓領地においての話であるのだが。


「ですが……今の開拓領地はかなり環境が改善しています。比較的住みやすくなっており、仕事もある、食うに困ることは恐らく少なくなり、この地に来るまでの道も整理されています。前にアルバートさんが領地の名前を、と言っていたのはそういう点でもあるのです」

「開拓領地と言うと聞こえが悪いから、か」

「はい。名前のある領地、もしくは名前を名乗っても問題ないくらいに十分発展している領地となれば移動するのも多少は躊躇がなくなる……という考えがあるでしょう。彼自身物売るにも何処で仕入れた者かがわかりやすいほうが都合がいいというのもあると思いますが」

「でも、それは難しいですよね?」

「はい。ですのであくまで仮に、ということにしかできませんでしょうね」


 開拓領地はフェリシアが領主と言うことになっているが、あくまでそれは仮のもの。開拓領地におけるフェリシアの努力やそれまでの成果で正式に領主として、貴族として認められるかどうかが決まり、開拓領地もそれが行われて初めて正式な領地として認められるもの。まだまだそれは先の話……およそ四年は先の話である。


「……まあ、名前がなくとも今のこの地の話を聞けば、それなりに人は集まるでしょう。もしかしたらアルバートさんがこの地に人を送ることを見越してフェルミット商会に話をつけている可能性もあります」

「……そうか、商会であれば開拓領地に人を送ることもできなくもないか。だけど、それはフェルミット商会の影響力が強くなることになるんじゃないか?」

「多少は仕方のないものとしてみるしかないでしょう。もとより協力を頼んだのは私です……お嬢様には申し訳ないと思いますが」

「いえ、それはいいの。アミルがここ開拓領地のためと考えて行ったことなのでしょう? であれば私はその行いを無駄にしないように頑張るのが仕事でしょう」


 フェルミット商会への連絡はアミルが行ったこと。それ自体が悪いことではない。もし本当に問題がありそうならば賢哉も手伝ってはいないだろう。実際商会などの伝手とのつながりは必要なものだ。フェリシアのような貴族が商売をすること自体難しく、餅は餅屋、商売をするなら商人に任せるのが一番。そういう意味では比較的良心的な商会とのつながりはありがたいところである。


「とりあえず、まずは人を入れることが最優先か……まあ、その前にこの冬を越すことが先だけど」

「そうですね……寒さは大丈夫でしょうか」

「燃料は問題ありません。きちんと各家庭にも配っていますし、見回りも行えば大きな問題にはならないでしょう。そちらは何か問題がありましたか?」

「いや、特に問題はないな……と言っても、残っているドワーフが俺くらいだから問題ないだけだが。今はこちらに居候させてもらっているしな」

「………………私も特には。エルフは元々森であまり火も使わず生活していたからあまり大きな問題にならない」


 そういうことで、各自特に大きな問題もなく冬は越せる感じであるようだ。春になるまで、彼らは大きなこともできず比較的焦りも忙しさもなく、過ごす。まあ、それでも冬に育てられるようなものを育ててみたり、環境的なあれこれを試してみたり、魔法実験なども行ったりしているので何もしていないわけではない様子である。冬であろうとも、開拓領地で何もせずにいられるほど余裕はない。できることをできるうちに始末しておくのが賢明である。


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