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 そうして開拓領地からアルバートがドワーフやエルフの手によって作られたものを持ち出し商売することが決まる。もちろんそこで得られた金銭はその幾らかがアルバートに払う給金となるが、それ以外は開拓領地に入るお金となる。本来ならば作った人間……この場合は亜人に対し還元するのが正しいのだが、彼らがお金を受け取ったところで使い道はないし、彼らに対し開拓領地が支援している状況に近いためその辺はまた少々特殊である。

 何を持って行って売るかに関してはアルバートが選別している。実際開拓領地にいる人間に領地の外に何を持っていけば売れるかの判別はできない。なのでアルバート任せになる。本来ならアルバートにすべてを任せるといろいろとちょろまかされる可能性があるが、開拓領地には賢哉がいるためそのあたりの心配はあまり気にしなくてもいいだろう。

 なお、この何を持っていくかの判断の際、アルバートから今すぐ決めなくてもいいという話で事前に言われていることがある。開拓領地をいつまでも開拓領地と言うことに関しての問題についてだ。一応開拓領地が正式に領地として認められるのはフェリシアがここに就いてから五年後という話になっている。しかし、それまでずっと開拓領地で通すというわけにもいかないだろう。一応一つだけとはいえ、亜人たちと共有気味とはいえ、村か街になりつつある地ができ徐々に大きな領地になってきている。通常の領地ならば街一つで領地ということはないだろうが、開拓領地はその点でも少々特殊だ。

 とはいえ、領地に正式に名前を付けるというわけにもいかないのであくまで通称に近いものとなるだろう。まあ、この開拓領地の様子ならば後々の国の判断は悪い者とはなりえない。特に賢哉の存在なしでは維持できない可能性が高く、安定するまではフェリシアと賢哉が残る可能性は高い。賢哉に関しては取り上げられる可能性はあるが、国にいいように使われるのを彼が許容するだろうか。フェリシアに言われても、理不尽なことを命令されそうになれば逃げる可能性はあるだろう。そもそも、国にすらやろうと思えば対抗できるのだから扱い自体が難しいはず。そしてそもそも国が取り上げて開拓領地がまともに機能しなくなるのであれば、場合によってはこの開拓領地に住まう者の反抗もあり得る。そうなれば国としても面倒なことになるだろう。まあ、そんな判断は本当にいずれの話でかなり先に決まることになるだろうが。

 と、そんな感じに開拓領地は発展しようとしている。ただ、根本的に開拓領地に貨幣経済を根付かせるのは簡単ではないだろう。今までが今までで、いきなり新しい制度を作るのは大変だ。また、お金を得るのに関してもいきなり金儲けしろと言われても開拓領地で暮らしていた彼らには難しいだろう。まあ、そもそも彼らは彼らで元々開拓領地にいたわけではないのである程度の心得はあるかもしれないが、それでも開拓領地暮らしが長い状態でのいきなりの制度導入は大変であると思われる。ゆっくり、しっかり、フェリシアたちが主導する形で他の領地と同じような感じにお金を使える状況を作るのが肝要となるだろう。


「……寒くなってきたな」

「山の方にはそろそろ雪が降ってくるころ合いだな」

「………………こちらではあまり雪が降らない」

「そうなのか?」


 この世界でも季節は存在するが、賢哉の知っている自分の世界の季節とは違う。比較的この国では季節による大きな差はない。気温の差、天候の差はいくらかあるものの、そこまで極端な環境の変化にはならない。しかし、実際に寒くなったり暑くなったりはする。フェリシアのこちらに来たころから既に半年以上は優に過ぎており、そろそろ冬の頃合い。もっとも、寒くなる程度で住みづらくなるとかはない。


「……年による。そもそもあまり季節で天候が悪くなることもない」

「へえ……」

「俺たちの所は山だからな。どうしても天気が変わりやすいんでな」

「そういえば、ドワーフたちは戻るのか? 雪が降るなら入口がふさがったりするかもしれないと思うんだが」

「そうだな……家に戻りたい奴は戻らせることになるだろう。俺はこちらの様子を見てなきゃいけないから戻ることはねえが……」

「じゃあ、一応今のうちに効いておいてもらえるか? 戻るのも……」

「あの空を飛ぶ奴は遠慮しておく。地上を行かせろ」


 流石に空を飛んで戻るつもりはないらしい。まあ、アルグレイスは戻らないが、他のドワーフたちが戻るとき空を飛んでいくことになると彼ら敵にいろいろとつらいだろう。もう一度来るときも今度は空を飛んで来るつもりもないだろう。あんなとんでもない恐怖体験は彼らにとって一度でいいはずだ。まあ、今ではある程度コルデー山に通じる道は作れてきているので行き来にそこまで不安はないだろう。一応は賢哉の手助けなく移動することはできそうだが、念のため賢哉がついていくことになるだろう。


「雪が降らないなら冬の準備は……あまり必要ないか」

「そうですね。建物も開拓領地にいる人たちの分はきちんとまともな建物ができていますし、彼らの持ち物も十分です」

「でも、薪の類は足りるでしょうか?」

「開拓領地を広げる際にたくさんの木々を斬っているので特に問題はないですね」

「そうですか…………他には何が必要でしょう?」

「食料の確保は?」

「今のうちにやっておいた方がいいですね。雪が降らなくとも寒いとこちらも活動しにくいですし、動物の方も冬には冬眠してあまり見かけなくなるでしょうから……植物に関しては別に冬だから育たないというわけではありませんし。物によりますが」

「………………果実類は大きく減るから今のうちに確保する」


 物資不足、ということには基本的にならないだろう。賢哉がいる限り植物の成長にも特に問題になることはないし、やろうと思えば環境を一定期間他の季節と同じくらいにできる。なので特にこれと行って問題にはならない……まあ、賢哉がいるからこそだが。今のところは賢哉がいることを前提とした運用でもいいだろう。しかしいずれは賢哉なしで回せるようにしなければならない。その下地づくりを季節の代わりを経験しながら賢哉が作っていく、というのが開拓領地の現状である。


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