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フェリシアの家、そこにアルバートは来た。そうしてフェリシア、アミル、およびそのほかその場にいる人物たちに自己紹介する。
「初めまして、フェリシア様。私はアルバート・フェルミット。フェルミット商会からこちらに派遣されてきた商人です。以後お見知りおきを」
「ええ、よろしくお願いしますアルバートさん…………フェルミット商会?」
フェリシアはその名前に関して何やら聞き覚えのある様子。そんなフェリシアの様子にアルバートは苦笑しながら言う。
「一応私どもの商会は何度かフェリシア様含めアルヘーレンの家にお世話になっているのですが……」
「…………その、私自身はあまり商会から直接物を買う機会がなくて」
「フェリシア様はあまり利用していませんし、そもそもあなたとは会うこともありませんでした。いつもはあなたではなくもっと上の人間が来ていたでしょう?」
「ええ、まあ。父が行っていましたからね」
「フェルミット商会……アルバート・フェルミット…………家系、なんだろうが。これじゃ重要視されているとみていいのか?」
「…………えっと」
「ああ。俺は加倉井賢哉。一応フェリシアの部下、みたいな感じで、あとはここの副領主をやらせてもらっている人間だよ」
賢哉もアルバートに対する自己紹介をする。
「他の方々は?」
「この開拓領地においてそれなりに重職の人間です。まあ、今の所この開拓領地に人がいないので彼らがやっている、というのもあるのですが……」
「とりあえず自己紹介」
アルバートを連れてきたレッセル、奴隷だが賢哉に連れまわされていろいろ役目を背負わされそなナルク、この場所にきているエルフの中で一番立場上では上位者のネーシア、元盗賊で現開拓班のグルバー、そして新しくこの地に最近来たドワーフのアルグレイス。この場にいるのはアルバートも含め九人。全体としてみるとこれだけの人間が重要な立場……かどうかは不明だが、少なくとも開拓領地にとっては大きな役目を持つ人間たちがこの九人である。まあ、あくまで現状での話だが。
「亜人もいるんですか……?」
「この開拓領地で人間であるかないかはあまり問題じゃないぞ。そんなことを気にしている余裕もないんだからな」
「そんなに開拓領地は大変ですか……そうは見えませんでしたが」
この開拓領地に来たばかりのアルバートはかなり大変な状態だった時の開拓領地を経験していない。来るための道もきちんとした道になっているし、危険度合も少なく、開拓領地も今はかなり良い状況になっている。それゆえにアルバートには亜人を受け入れる理由はあまりわからないだろう。まあ、そもそも亜人を受け入れるという発案に関しては賢哉が主体となって決めたことであり、彼らとの対話も賢哉が主導だったわけでフェリシアたちが心の底からその提案を受け入れたかと言うとそうでもないわけだが……まあ、人間側に彼らとのかかわりを決めるだけの余裕はない。開拓領地は極めて大変な状態にあったからである。だからこそ受け入れることが容易にできたともいえるのだが。
「そりゃあかなり改善したからな。俺がフェリシアとこの場所に来た頃は道も整理されておらず、建物はボロボロ、盗賊なんかもいて、森も開拓されていないし畑は獣が襲って食料もあまりない。今は水路も通ってるが、その水路もなかったわけで。人ももっと少なかったからな」
「そ、そうなんですか…………」
あらためてその賢哉の発言を聞くと、よくこの短期間の間にそれだけの問題を解決で来たな、と思うところである。
「亜人……彼らドワーフとエルフを受け入れているのは、彼らが未開拓領域に住んでいること。これから開拓していくと確実に彼らが住んでいる場所にぶつかる。その時向こうと対話できないと争いになる可能性がある。まあ、そうなる前に先に話し合いをして協力関係を、ってのが今の方針。それと、彼らの持っている技術をこちらに取り入れるのも一つの目的だ。その逆でこちらの技術を教えるのもまた目的にはあるけど」
「なるほど。確かに彼らの持つ技術は私たちの持つ技術よりも高い技術がある、という話もありますし……」
「開拓領地には特産品の類がないからな。ドワーフやエルフの強力から作ったものを売り出せればそれを他の領地輸出できるものになるのではないか、という考えもある」
「ほう」
商人であるアルバートは賢哉の発言に対し少々興味がある様子を見せる。まあ、商人としては他の商人が持たない商品を持てるというのは結構大きいことだろう。なぜならそれは他の商人と競争することなく、求める者に対して売ることができる者。独占商売になるし、やろうと思えば値段を吊り上げることもできる。まあ、値段の吊り上げはあまりやっても特になることは少ない。金さえ求めればいいというわけではないのだから。
「それが全部フェリシア様の手腕…………ですか?」
「………………いいえ。私はこの地の領主ということですが、私の力なんて大したものじゃありません。この開拓領地を広げることに力を注いでいるのはケンヤ様ですから」
「…………彼が、ですか」
賢哉の姿を見ても、フェリシアの言うようなこの開拓領地を広げることのできる能力を持ち得るとは思えない。実際に賢哉の魔法を使う能力を見ないとそのあたりは信じることは難しいだろう。
「それよりも。フェルミット商会に連絡をしたのは私ですが、商会のほうではここ開拓領地でどのように活動なされるおつもりでしょうか? あなたが来たということは、それなりに重要視されているとみていいのですか?」
アルバート・フェルミットはフェルミット商会の長男。長男を送り込んでくるということはこの開拓領地にフェルミット商会の商店を置くつもりで、特に重要に考えているのでは、と思えるところだが。
「それは現状では何とも……アルヘーレンの家に対して私どもの商会は結構な恩があります。ですが、今のアルヘーレンの手助けをするのは流石に我が紹介でも難しいですから……こちらとしても利益が出ないのに手助けするのは無理ですし」
「まあ、それは商人ですから仕方がありませんが……」
「一応この開拓領地を見る限り、そこまで悪い判断をすることになるとは思いません。ある程度、こちらで商売をしてみて……それから判断することになりますかね」
現状で開拓領地でどうするか、というのはまだ決まっていない。しかし、まあ何をするにしても色々と様子を見てみないとわからないといったところだろう。そういうことでまずアルバートがこちらで商売をしてみる、という予定らしい。まあ、開拓領地で商売するのはまず無理なのでいろいろとそれができる状況を整えることが先になるだろう。




