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 開拓領地は特にどんな時もあまり状況的には変わりがない。現状、エルフとドワーフが開拓領地の仲間に加わっているがその影響力はそれほど大きなものとなっていない。現在賢哉の行う大きな仕事は開拓領地からコルデー山へとつながる道の開拓。ドワーフたちもまた山まで一っ飛びというわけにもいかないだろう。それに、ドワーフたちの使うための道具を作るために必要な鉱石を運ぶためであったり、開拓領地でも金属素材から作られた道具を使いたいわけで、それらを作るために功績は必須だろう。それらに関しては別に賢哉だけでも運べるわけであるが、ずっとそれ頼りと言うわけにもいかない。賢哉がいなくなった後のことを考慮し、普通に自分たちだけでも到達できるよう、運搬できるような道のりは必須である。そういうことで賢哉が道を作っている状況だ。

 まあ、道を作った後の運搬の大変さを考慮するともっといろいろと必要になるだろう。そういった道具や、運搬車両などの存在、鉄道かトロッコかそういう系統の物を作るのをドワーフに頼むつもりでもある。道づくりも、広げるだけでただ道を作るだけではなく、柵や移動途中の休憩所的な場所を作ることも考えている。そもそも今の開拓領地は本当に開拓領地だけしか存在しない領地。通常領地と言えば、小さな領地でも複数の街があるべきではないだろうか。開拓領地は本当に開拓領地だけ……一応エルフの村やコルデー山のドワーフの集落を街と考えれば複数あるわけだが、さすがにそれは少し違う気もする。

 そういうことで賢哉提案の開拓領地の新たな街を作ることが考慮されている現状である。まあ、そもそもこれに関してはどうしても問題のほうが多い。開拓領地の新たな街を作る場所は確実に暗黒領域、森を切り開かなければいけない。現状賢哉の住まう周辺とは別になるため、そこの安全をどうにかして作り上げなければならない、そもそも街を作るために森を切り開くのも大変で新たに建物を立てるのも面倒で、何よりも人がいないという現状の開拓領地の大きな問題がある。開拓領地は根本的に人手不足が現状にある。外部から人が入ることはなく、開拓領地の人間が少なく先行き不安、子供を作るにも男女比が偏っており、まともに恋愛をするのも難しい。まあ、それに関しては幾らか対策を講じて人を仕入れてきていたりするが、それで間に合うくらいの状況ではないわけである。つまり外から入ってくる人間の存在が必要になるのである。

 現状開拓領地は外からの人間を受け入れるための土壌が存在しない。元々は開拓領地は外からの人間を受け入れる場所ではあった。ただ、それは元々自分の住んでいた場所ではどうしようもない人間が、最後の最後に逃げ込める場所、という意味合いでのものである。そんなとんでもない窮状に陥っている人間がどれほどいるか。仮にいるにしても、今の開拓領地には逃げ込みにくいところではないだろうか。逃げ込むにしても、開拓領地の場所が場所。フェリシアたちのいる開拓領地意外にも開拓領地はあり、そちらに逃げ込む可能性もある。それはそれで別のフェリシアの両親の住んでいるところに逃げ込む場合もあるので問題はないのかもしれない……いや、それはそれで問題はありそうだ。ここの開拓領地は賢哉のおかげで現状かなり住みよくなっているが、フェリシアたちが最初に来た時のようにとてもひどい状態になっているのが基本。だからこそ逃げ込む場所としての機能があるわけである。誰もその場所を見ない、だれもその場所に気を払わない。人の世から離れた厭世地。それが開拓領地である。まあ今のフェリシアたちのいる開拓領地はかなり発展した特異な場所と言えるわけであるが。

 さて、そんな開拓領地は特に変わりがない。季節もそれなりに過ぎているが、まだフェリシアがこの地にきて一年もたっていない状況である。この世界においては季節と言うものはないわけではないが、そこまで大きな環境的変化はあまりない。まあ、冬に寒くなり春に草木が生え、秋に実りができ夏は暑い、というのは近しいが、その環境的な影響力はそこまで極端にはっきりしたものではない、というわけだ。冬も寒くはなるが雪が降ることはあまりなく、天候的にはそれなりによく晴れた日が続く感じだ。まあ、時折山側など場所によっては雪がよく降るし、数年に一度どしゃっと雪が降ってくることもある。環境的に一年に四つの季節が巡る、という感じでなく数年周期での季節の巡りと考えるべきか。

 まあ、そんな細かい話はともかく、開拓領地は特に変わりがない。前提として変われる要素が開拓領地にないからである。


「すいません、いいですか?」

「ん……? あんたここの人間じゃないが、開拓領地に逃げてきた人間か? なら歓迎するぜ。ここは元々いた場所に比べるとかなり楽園だぞ。まあ、今はだがな。前はすっごく大変で……」

「いえ、私は商人ですので。ここの……アミル、という人に呼ばれてやってきた商人です」

「アミル……?」


 アミル、と聞いてすぐに誰かは開拓領地の人間はわからない。彼女はフェリシアについているメイドであるが、彼女はあまり表に出ないタイプの仕事人。賢哉やナルク、レッセルなどフェリシアと会う機会の多い人間はその存在を知っているが、基本的に開拓領地にいる多くの人間はその存在を知らない。


「えっと……フェリシア様は知ってます?」

「ああ、もちろん。ここの領主様だからな……なんだ、フェリシア様の関係者なのか?」

「ええ、恐らく。取り次いでもらっても?」

「あー、俺たちはその辺よく知らないんだが……ああ、レッセルの奴に話を通せばいいか。あいつは領主様の所に話しなけりゃいけないことがあるってよく言っているみたいだし。ちょっと待ってな」


 そういってその場から去っていく開拓領地の村人。村……町や街と言うにはまだまだ開拓領地は小さい。人数も、規模も。それでも、周りを見回せばそれなりに楽しそうに生活している人間の姿が見られる状況ではある。この場所に来た商人、アミルに呼ばれた商会の人間である彼は開拓領地をみて驚いていた。


「……どんなものかと思ったけど、開拓領地とは思えないな。大きくはないが……かなり発展してる? いや、そんなこともないが……開拓領地にしては、かなり状況がいいな。確かフェリシア様はアルヘーレンの末娘……まだ教育もあまり受けていないはずだが、一体どうやってここまで……才能があったとかなのか?」


 商人はフェリシアのことを知っている。正確にはフェリシアを含むアルヘーレンの家の人間について知っている、ということだが。フェリシアはあまり表に出てこない……いや、正確に言えばまだ表に出るような年齢ではなかった。姉のほうが話題性としては大きく、また今回の大問題に関しても姉の話はあるがフェリシアに関しては全く話題になっていない。アルヘーレンの家、と一括りに見れば話題がないわけではないが、フェリシア単体の話はないわけである。

 まあ、今のフェリシアの治める開拓領地に関しては、道が通じたことからその発展に関してある程度どうなっているのか、的に話題にはなっている。ただ、開拓領地はいろんな意味で手出しの難しい場所であり、国からもほとんど関わりがない、関わろうとしない、関わりづらい場所。なのであまり情報が出回っていない状況であるため、結局フェリシアに関しては知られていないのだが。


「まあ、直接話して見ないとわからないか。そもそも今回呼ばれたのはアミルさんにですからね……」


 商会に手紙が届いたはいいが、フェリシアからの手紙ではないので判断は難しいところである。とはいえ、その手紙の届き方が妙と言うかおかしいというか、異常であったということもあってそういう意味合いでも判断の難しい者であったのだが。まあ、フェリシアは商会について知っているとは思えないのでフェリシアから届く方が妙に思われただろう。アミルはフェリシア付きだがアルヘーレンの家の仕事もして、商会の人間とも関わりがあったのでなるほど、と思えたわけである。届き方はともかく。

 と、そんな感じに商人が開拓領地に来た。開拓領地の人間が呼びに行き、やってきたレッセルに彼は手紙を見せて話をつけ、アミル達のいるフェリシアの家へと案内されていった。


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