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「それで、ドワーフたちはどういう判断をした?」
「結論に行くのが早い……と、言いたいところだが。まあ、あまりきっちりとした判断ではないが、現時点では決断できない……というのがこちらの判断だ」
「…………現時点では、か」
「そうだ。現時点では、だ」
つまりは問題を先送りにしているようなもの……ということなのだが、実際少しの期間話し合っただけですべてを決められるほど物事は単純ではない。協力することを選んだ結果、にっちもさっちもいかないことになるかもしれないし、協力しないことを選び苦境に立たされる可能性もある。賢哉だけならば一応それなりにどういう相手なのか、ある程度の把握はできるが本当の意味でその人柄を把握しているわけでもなし、協力相手となる開拓領地に関してもそのすべてがわかっているわけではない。いきなり来て協力関係を築きましょう、と言ったところでお互いのことがほとんど分かっていない状態であっさり決められるほど単純に話を進めることはできないだろう。
「ところで、そこにいるエルフだが……」
「彼女はエルフの村の長の孫……だったか?」
「………………そう」
「で、彼女のところのエルフの村とは協力関係を結んでいる。村までの道も作っているし、向こうからこちらに来てもらっているエルフもいる。そんな感じの間柄で……彼女も、俺の所で魔法に関して学んでいたりしてる」
「エルフと協力関係だと? 既にほかの亜人とつながりがあったのか……」
「ああ。実はドワーフの居場所に関してもエルフのほうから話を聞いて知ったわけだ」
「…………そうか」
少し睨むようにドワーフの男はネーシアを見る。流石にその視線に少し怯えるように身を固めるネーシア。まあ、ネーシアが全面的に悪いというわけではないのだが、同じエルフのやったことであり、同じ村の長の話したことであり、他にそういう怒気をぶつけられる相手がいないというのも一因だろう。ドワーフの男も流石に八つ当たりのようなもの、という理解はあるし、賢哉のしたことは彼らにとっても損しかないというわけではない。人間との協力関係に関しての選択を迫られる、という彼らにとってはいろいろと面倒なことに関しての話はあったがそれだって断ったから問題となるわけでもないわけであるし。
「それで、決断に関しては保留ということになっているようだけど……つまりは条件によっては協力関係を結んでもいい、ということなのか?」
「ああ。そういうことになるな」
ドワーフの人間との協力関係は決断できない……つまりは断ると言っているわけではない。しかし、逆に言えば協力関係を結んだわけでもないわけである。しかし、ならばどうするのか……ということになる。当然ながら協力関係を結んでもいい相手かどうかの判断をするための情報が求められることになる。だが、問題はその情報収集の手段だ。それをどうするか……というと、当然できることはかなり限られる。相手とかかわらなければ情報収集の手段など存在しないだろう。
「それで、どうするつもりなんだ?」
「……ドワーフの中からお前たちの元に幾らか派遣する。彼らがお前たちの所でどういう生活をし、またどういう技術や情報を求められたか、どういった協力を得られたか、そういったところで判断することになる」
「まあ、そうなるのか……」
「ドワーフが住むことのできる場所は用意してくれるんだろうな?」
「それはもちろん」
賢哉たちは亜人を迎え入れるための場所を用意している。ただ、エルフは普通に村を作っていたわけであるが、ドワーフは洞窟に住んでいた。そのあたりの違いがあるため、ドワーフの住処をどうするか、という判断になってくる。
「……だが、ここみたいに山は向こうにない。洞窟暮らしみたいにはならないんだが」
「それは困る。一応俺たちも済む場所に関してはそこまで文句は言わないが……ふむ、似たような場所にはできないのか?」
「作ろうと思えば地中に作ることはできる。それでいいというのなら……って感じになるが」
「地中か……」
ドワーフたちは別に特別洞窟の中でなければいけないというわけではないが……しかし、種族的に鉱石や大地と言った物の傍にいたいという欲求がある……のかもしれない。そういった種族の本能的なものがあるのだろう。資質的な意味でも、鉱石にかかわるのは彼らにとって重要なわけであるし。
「わかった。それでいい。もちろん崩れないようにしっかりとした作りにしてくれるんだろうな?」
「それは当たり前の話だ。こちらとしても協力関係を結ぶ相手に悪いようにするつもりはない」
「道具の提供などはしてもらえるか?」
「それができないからドワーフに頼みたい、と言った感じなんだけど……」
「ふむ……」
別に亜人と好を結びたい、と思っているから亜人との協力関係を築きたいというわけではない。いや、全くないとは言わないのだが、賢哉にとって亜人に協力を求めるのは開拓領地をよりよくするための技術が欲しいからだ。ドワーフたちの扱う道具が開拓領地にあるようならそもそもドワーフにそこまで協力を求めたりはしないのである。
「……簡単なものでいいなら、作れるかもしれない。素材は……ここで収集していく必要があると思うが、用意できる」
「そうか。それはお前がやるのか?」
「ほかにやれる人材がいないからな……基本的には魔法である程度賄う形になる」
「最初にやるのは俺たちが扱う道具作りか…………」
唸るようにドワーフの男はつぶやいた。そこにネーシアが口を挟む。
「……………………別に全部を金属で賄う必要はない」
「ネーシア? えっと、それはどういう……」
「鍛冶まで行くと手伝えない。けど、多少の細工なら……木工から使える……かも」
金属はたしかに加工するうえで便利だが、たとえばハンマーをその全てを金属で作るわけではないだろう。鍛冶で金属を鍛えるための槌は金属製でなければならないが、そういった場所以外でなら木槌でも何とかなる場面はあるだろう。もちろん金属と木材では金属のほうが圧倒的に強いわけであるが、単純に加工と行っても色々な形がある。鍛冶を行う前の事前細工、という形ならある程度は何とかなる…………かもしれない。
「…………まあ、エルフには植物関連では世話になるけど」
「木工器具か。使えるかって言われると怪しいが……まあ、金属器具を作るために使う分にはまだいけるかもしれんな」
「鍛冶は流石に無理だし鋏のような切断もできないが、もうちょっと単純で大雑把な形はなとかなるか。鍛冶に関しては金属じゃなくて煉瓦とか粘土とかで土関連になるかな……」
ネーシアの提案はともかく、金属関連で物を作る前に色々とやるべき手間は多い。とりあえず、賢哉がドワーフたちを一時的に受け入れ、その彼らの扱いや開拓領地の様子を見たうえで、その情報を持ち帰りドワーフは今後協力関係を結ぶかどうかを判断するようだ。
「……………………ドワーフたちの住処、見てみたかった」
「流石にそれはダメだったみたいだな」
ネーシアは残念ながらドワーフたちの作る物や生活をみることはできなかった。まあ、飛行するという体験自体は彼女にとってなかなか楽しめることであったが。
「………………ところで」
「なんだ?」
「ドワーフたちは空、大丈夫………………?」
「……さあ」
問題は、開拓領地に向かうドワーフの運搬。流石に歩いていくには遠い。いずれはコルデー山へと道をつなげるつもりではあるが、それでも遠いしまだ先の話。つまりドワーフたちを連れていくのは賢哉になるわけだが……その時、彼らはドワーフ出始めて空を飛ぶこととなるだろう。その時彼らはどのようなことを考えるだろうか。




