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「……どうしたらいいかしら?」

「……明らかに怪しいのですが。でも、彼のあの謎の力、あれを私たちに使っても彼にとっては問題ないはず。こちらに対し使わず、従わせることもしない。もちろん心証を良くし手を貸してもらいたい、という可能性もありますが……」

「私は……彼は悪い人には見えないけど」

「ええ、まあ、確かにしていることもそうですが、性格的に悪人には思えません。少し悪ぶっている風を装うようには見えますが」


 二人には賢哉の存在が悪人には見えない。そもそも実際にやっていることは盗賊退治と二人の救出。それに対する要求も雇って面倒を見てほしいと言う具合だ。もう少し大きな望みを要求しても構わないとも思えるようなものである。まあ、彼のもともとの人生、生活から考えればそれくらいの願いでもおかしくはないのだが、この世界、それも貴族の側での思考である二人は自分たちの対価にしては安いのでは、と思ってしまう。貰える時に最大限貰う、むしり取るのが普通の文化なのだから。


「ですが、雇い入れるとなると……流石に身も知れぬ相手ですから」

「だけど…………あの力は、助けになるのではないかしら? 今だって……っ! そう、今も!」

「お嬢様……? あ」


 ばっとフェリシアが賢哉の方を振り向く。


「ケンヤ様! あなたを雇い入れることは構いません。どうかそのお力をお貸しください!」

「……決まった?」

「はい。ぜひとも我が家……いえ、もう家と呼べるものもないのですが、私のところで雇わせてもらいたいと思います。ですが、いきなりの話になるのですが……今すぐ、そのお力をお貸しいただいても構いませんか?」


 フェリシアは賢哉を雇うことに対し了承の意を示す。ただ、その代わりという風に、すぐに賢哉の持ち得る力を貸してもらうことを提案する。そもそもなぜ彼女たちはこの場所に来るに至ったのか? 何故盗賊に追われていたのか。どこから盗賊に追われていたのか。そう言ったことに考えが至れば当然その前に起きた出来事、盗賊たちが彼女たちを襲撃した事実も予測はつくだろう。そして、当然だが彼女たち二人だけでこんな森の近くに来るのもおかしな話。他に誰か一緒に来た家族や仲間、従者や供の類がいるはずだろう。

 まあ、賢哉はそこまで頭がいいと言うわけではないのでその考えにすぐに思い至ることはない。だが、賢哉にとっては自分の思考は割とどうでもいいことである。貴族の雇われになるのであれば、自分の力を相応に振るうのは当たり前であると考える。


「もちろん。何をしたいのか、何をするべきなのか。指示してくれるのが一番だが、頼むだけでも十分。赤子の世話から水汲みまで、誰かの暗殺から国に喧嘩を売っての戦争まで、どんな内容でも何なりと」

「……それは流石に不可能でしょう? いえ、話が飛びすぎじゃないですか?」

「やれと言われればやりますけど? まあ、流石に命じられるとは思わないが……まあ、それくらいの気概、意気込みでやるって話だな」

「……はあ」


 あまりにも大言壮語で賢哉に頼るしかないフェリシアとしても少々不安になる。しかし、フェリシアには彼くらいしか頼るものがない。一緒にいる従者のアミルは従者としての能力はあっても誰かを助けることも、フェリシアを守るだけの力も足りない。不安があろうとも賢哉の力が必要である。


「とりあえず、お願いします」

「本当に大丈夫でしょうか?」

「でも、他に頼れるものもないですし……二人で森に置いていかれても困るわ」

「確かにそうですが……」


 またも湧き出る賢哉への不安。まあ、流石に賢哉の言動は少々不穏というか、不安というか、本当に頼ってもいいのかと思う所はある。しかし、彼女たちは賢哉に頼るしかない。不安なまま、賢哉に移動を頼む。賢哉は拘束した男三人を引き連れながら、二人の案内を受けながら彼女たちがこちらに向かう発端、盗賊の襲撃を受けた馬車の場所へと戻っていった。






「酷いもんだ」

「っ……マルトー! ゼルク!」


 馬車に戻った三人。捕まったまま連れてこられている収穫物の男三人は人数に含めない。賢哉達三人が馬車で見たものは、ボロボロに荒らされた馬車とその残骸、そして数人の男の死体である。


「人数はどれほどいたんだ?」

「そこまで多くはありません。男性の方たちは……まだいたはずですが」

「女なら盗賊共も使い道があるから全員攫って行くのはわかるが、男もか。そっちの趣味ってのもあり得るが……まあ、売り払うのか玩具か。わからんな……ダメか。流石に死んでたらどうしようもない」

「治せないと」

「ああ。怪我ならまあ、傷はいくらか残るし後遺症もあるだろうが、死んでなきゃほとんどは何とかなる。ま、そんなことよりも……何をしてほしいんだ、お嬢様?」


 賢哉がフェリシアの方を向く。賢哉自身はこの場所自体には用がない。そもそもここに来たのは二人が連れてきたからだ。彼女たちにはこの場所の馬車に持ってきたものがあるし、従者たちもいた。しかし現在残っているのは馬車のみだ。


「……私の従者たちを取り返していただけますか? 荷物も全部持っていかれてます。どうにかしないと、私達がこの先まともに過ごすこともできなくなってしまう。馬車も何とかしてほしい所ですし……馬もいなくなってる」

「要求が多い……ま、それくらいは何とでもなると言えばなる。とりあえず、馬車から応急修理するか」


 賢哉が杖を振る。がらりと周囲に散らばった馬車の破片、壊された馬車が勝手に動き出し、元の体勢を取り始める。


「なんといいますか……」

「……現実とは思えない光景です」


 いくらなんでも現実にはあり得ないような光景である。勝手に物が動く、勝手に物が直る。もちろんそれは本当の意味で勝手に直されているわけではない。賢哉が杖を振るったこと、それにより魔法を行使したことがその理由だ。


「いったいこれはどうやっているのですか?」

「うーん、そうだなー。魔法、かな?」

「……これが魔法ですか?」

「私は見たことがありますけど……こういうものだったかしら?」


 フェリシアは実際に行使された魔法を、アミルは知識としての魔法を、それぞれ一応魔法という分野に少しは知っている。しかし、それらに対し目の前の光景はあまりに違いすぎる。魔法と言ってもここまで大規模で技能的なことはできない。それに、ただ杖を一振りするだけでここまでのことを熾せない。基本的に魔法は魔法陣や詠唱などの儀式的な工程が必要不可欠で、それで行われることはかなり単純な内容に限られる。それでも通常の人間ではできないようなことができるので魔法使いは育てるのも、その技術を持つ者も、才覚がある者も基本的には国に保護され管理されている。そういう意味では賢哉のような存在は稀少であり、またその能力が極めて強力に過ぎると言う点で恐怖の対象となり得るものだ。


「さて……直したし。今度はどうする? とはいっても、まあなんとなくわかるけどな」


 すぐに修復される馬車。もっともあくまで応急的な部分が強く、すぐに動かせるものではない。そもそも、馬車だけが直ったところでそれを動かす存在、馬がいない。その馬を操る者もいない。荷物も載っていない。ならばそれを取り返すことが先決です。


「盗賊たちから従者を、荷物を取り返しに行きましょう」


 自分たちから物を奪ったものを取り返す事。今行うべきことはそれになる。


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