49
「商人ですか……」
賢哉の挙げた提案、商人の招致。実際にはそれは難しいとして否定したが、必要性はあるだろう。それが理解できないほどではない。ゆえにアミルはフェリシアたちに話す前に、いくらか自分で話をつけるつもりで色々と考えている。アミルはあくまで従者としての役割が重要であり、フェリシアの仕事の手伝いなどは本来の役割ではないだろう。相談役や身の回りの世話が基本であり、参謀みたいな感じや領地経営の手伝いとしての役割は本来彼女の役目ではない。しかし、この開拓領地には彼女以外にまともにつかる人材がいない。連れてきた人材も今は前よりも数は減り、残った人材はフェリシアの住む家の管理に回している。まあ、それだけではどうしようもないので開拓領地の畑の開墾など、ちまちましたこともしているのだが。
そういう話はさておき、アミルは商人のことを考えている。彼女は一応その伝手、話を持ち掛けることのできる相手を知っており、その中から吟味している。いくらフェリシア付きとはいえ、アルヘーレン、貴族の中でもかなりの家柄のところで仕事をしていたメイド。一応それなりに伝手というものはある。ただ、まあ、それらの伝手も安易に頼るのは難しい相手ばかりだ。今のアルヘーレンはその名が残っているだけに近く、そんなアルヘーレンの家の者に手を貸すというものは少ないだろう。手を貸す者も、そこに裏の事情を持っていてもおかしくはない。または一応フェリシアは貴族であり、その収める地である開拓領地の金銭のやり取りを牛耳ろうなどと、裏で色々と画策する可能性もある。まあ、商人はお金を儲けてなんぼというところはあるのでいくらかそういうところは仕方がない点なのかもしれないが……それでもあまりそういったことを歓迎したくはない。
「一応、いちばん安全なのは彼でしょうか。まあ、話し食らいはとりつけてもいいかもしれません。すぐにすべてを決める必要もありませんし」
すべての事柄を今決める必要はない。そもそも、アミルには決定権など存在しない。あくまでアミルのする行動は話を持ち掛けること、招致に関する情報を提供することだ。その中でいくらか開発領地の利点、得られる品物に関して、現状に多少触れるかもしれないが、それをばらすような人物ならば初めから対象に含まないでもいいだろう。そういう意味でもいくらかの相手の様子を図れる手であもる。
それに、必要なさそうなら断るのもいいだろう。まあ、商人や商会の一つくらいはあってもいい。これからのことを考えるならば。
「さて、連絡をつける必要があるでしょう。紙を用意して」
そうしてさらさらと彼女持ち得る連絡用の手紙につかうような紙に色々と書き始める。しかし、その途中でふと、彼女は気づく。
「……これ、どうやって届ければいいんでしょうか?」
この地には流通がない。物の動きがない。開拓領地のことは開拓領地内で回り、外へとその流れが出て行かないのである。アミルがいくら何かを書いたところで、それを届ける手段が開拓領地にはない。そもそもそういった物がないからそういった販路、流通の流れを作るために商人が欲しいわけでもある。人のつながりは領地から別の領地へと伸びるつながりだ。
「手紙のやり取りすらままならないとは……! いえ、これは流石に問題ではないでしょうか? そもそも国からの連絡も受け取りづらいのではないでしょうか。本当に、全く手を付けられておらず、介入もされないのはいいことなのかもしれませんが……逆にこれはちょっと、と思うところですね」
はあ、とアミルは大きくため息を吐く。税をとらない代わりに国からの干渉はない。これはまあ、いいことなのかもしれないが、しかしそれは逆の意味合いでもある。何か困ったことがあっても国は関与せず、自分たちで頑張りなさい、そういうことなのだ。もっともそのおかげで賢哉のことを隠せているのだし。通常は利点ではないが色々突合はいい状況であるだろう。
「直接この手で届けに行く……とまではいかずとも、隣の領地に出向きそこで渡してもらうように頼むのもありですか。いえ、それはそれで連絡はつくかは怪しいですね……どうしましょうか、賢哉様に頼みますか?」
この開拓領地で一番役に立つのは賢哉だ。いきなりあらわれフェリシアに慕われ副領主となった立身出世した魔法使い。実際その能力は極めて高く、アミルもその恩恵に預かっている人間だ。怪しいは怪しいが、悪いことは基本的にやっていない善人。そしてそのチート具合はすさまじい。
「手紙を届ける魔法とかあるものでしょうか?」
ともかく、まずは賢哉に来てみないとわからないこと。その前に内容の書き出しだ。その中身でどれだけのことまでなら伝えていいか、仮に来なかった場合伝わっても大丈夫な情報だけを選出して書く必要があることなど、いろいろと考えることは多かった。
「…………行く」
「え? ネーシアもついてくるつもりなのか?」
アミルが商人のことに関していろいろと考えている一方で、ネーシアは賢哉に迫っていた。別に何か深い意味があるわけではなく、そのうちドワーフのもとへと向かうことを賢哉が決めており、それに対して同行したいと申し出てきだたのであある。
「理由は?」
「………………ドワーフ、興味ある」
「興味かあ」
「特殊な加工、ドワーフの秘技術、珍製品」
ネーシアの目的は開発領地のためになることではなく、ドワーフに関することを実際にその眼で見たいということである。普段は彼女は部屋で本を読んだりしながら、魔法に関してできることをしており、基本的にはあまり活躍するようなものでもない。なのに今回はネーシアのほうから言い出した、と思ったのが、どうにもドワーフんことに関して知りたいという想いであるらしい。一種のフィールドワークのようなものだろう。
まあ、賢哉としてはネーシアがついてくることに関してあまり損はない。一応亜人である彼女が近くに言えれば、亜人との関わりやつながりを象徴としている人物として話ができる可能性もあるが……まあ、そう都合よくいくほど世の中は単純ではないだろう。問題があるとすれば彼女運ぶ手段が、飛行の魔法に頼らざるを得ないという点だろう。
「……向こうに行くとき、危険や時間短縮の関係で恐らく空を飛ぶことになるぞ?」
「…………望むところ」
そういってネーシアは賢哉をみる。その眼はきらきらとしており、どこか楽しそうだ。彼女はまだ賢哉の持つ魔法の技術に簡単に触れた程度であり、飛行の魔法を含め多くの簡単な魔法ですら使用できないものが多い。まあ、賢哉だからできる魔法もあるのだろう。しかし、だからと言ってそれらの間だ使えない魔法に興味がないわけではない。なぜ使えないのか、どう使うのかがわかれば使えるようになるかもしれない。そういう意味でも知りたがっているところだった。
まあ、ネーシアは基本的に知識を追い求める本の虫、知識の食らい手。興味を持ったならば、意外に押しが強く一気に攻め入ってくる。しかしそれくらいだけ、でもある。なんにせよ、とりあえずネーシアがついてくることには問題がない。
「ネーシアがついてくる……フェリシアは今回は無理だな。距離がありすぎるし問題が多い。代わりにアミルを……いや、さすがにそれは無理か。やっぱりいろいろと問題はあるなあ……」
いくら決定権のあるフェリシアだとしても、いきなり亜人の処へとは連れていけない。まだまだ問題はいろいろと残っているというのが現状だろう。ともかく、そういった様々な問題の解決のため、アズラットはいろいろと頑張っているのである。




