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 開拓領地に戻り、賢哉たちは普通に開拓領地での日々を過ごす。ドワーフの居場所はわかり、必要なことは伝えた以上すぐにそこに行く必要はない。ドワーフたちにとっても人間との関係は話し合わなければいけないだろう。それ以上に、ドワーフたちがその話し合いになるかどうかもわからない。ある程度の人数が賢哉たち開拓領地の人間がドワーフと交流を結びたがっているのを知ったとしても、それを伝えそれが話し合いになるかどうかはわからないのである。仮に話し合ったとしても、最終的な結論は人間との協力関係を結ばないという可能性になる場合もある。まあ、それは賢哉が行った行動が何かいい方向に働けば、という想いがある。

 その結論が出るのはまだ先、ということで賢哉は開拓領地周辺でドワーフたちのもとに行ったとき一緒に連れて行った元開拓班の人間たちを育てている。育てるといっても、結局は森の中を探索させる程度である。やること自体はあまり変わらないのである。


「…………魔法」

「やっぱり既存の魔法以上の物はできないか」

「………………ケンヤの使う魔法の大半ができない」


 ネーシアに魔法を教えている賢哉であるが、賢哉の使う独特の魔法はそのほとんどが再現できていない。魔法文字とやらも教わり、それらを使おうともしているが、この世界に存在する彼女を含め、基本的に性質が合わないのかもしれない。そもそも魔法文字とはなんなのか、という具合になるのだが、賢哉自身彼の持つ賢者の才を異世界召喚にて覚醒してから理解できるようになったものであり、その理屈から全てを把握しているわけではない。それでも賢哉自身がそれを元に自分独自の魔法から独自の魔法文字の開発にまで発展させることができている……が、それは彼がそれだけの才を持つからゆえの物であり、他者が利用できるものではないのだろう。

 そもそも魔法文字自体彼が杖を振って展開させて魔法として使っているが、その魔法文字の展開自体他の魔法の力、才を持つ者ができるかどうか怪しいくらいである。賢者の才、彼の持つ賢者の才は普通の人間の持つ魔法使いの才とはまた別物であり、特殊な物。そのうえ才としては異世界召喚される可能性のある高い才だ。同じくらいの魔法使いの才がなければ扱えないのではないかと思うくらいの物であってもおかしくはない。

 それでも、ネーシアは賢哉のオリジナルに近い魔法のいくらかは使える。それはこの世界にも存在するような魔法であるがゆえ、と言えるだろう。それが賢哉の扱う魔法と同じとは限らないが、似通り近しいものであれば問題なく使えるようだ。まあ、そこはネーシア自身が賢哉の魔法に興味を持ち熱心に学び、そしてネーシア自身の魔法の才が高いからだろう。エルフの豊富な魔力も要因かもしれない。


「しかし、どうするか……」

「何をですか?」

「開拓領地。発展のしようはいくらでもあるんだろうけど……」

「何か問題でもありました?」


 開拓領地の状況改善はそれなりに進んでいる。水路もでき、田畑の開発もでき、開拓領地の大きさも広げ、建物も立てることができている。元々の開拓領地の状況からすればもう楽園と言っていいくらいの状況改善となっているだろう。とは言っても、まだまだやるべきことは多いといえる。発展に際限はない。満足したところでもっと上を、もっと上をと求めるのが人間だ。その欲求に限界はないのである。

 とはいえ、出来ることに限度はあるだろう。例えば生産性をあげるにしても人間の数が簡単に増えることはなく、生産するための技術や道具の開発にも、そちら側の限界がある。どれだけ求めたところでできることには限界がある。この開拓領地がまだその限界に到達しているわけではないが、今いる人間でできる限界というものが存在する。人は簡単に増えない。

 と、いうのも。この開拓領地、状況は改善しているが結局のところ大本の開拓領地を発展させた状態であり、他の領地と比べ全くと言っていいほど体制が整っていないのである。わかりやすい点でいえば、未だに貨幣経済の導入ができていない物々交換性であるということ。まあ、これに関しては開拓領地に亜人がいることを考えるとそちらのほうが都合がいいというのもあるが、貨幣を導入するうえで商売があまりうまくできる状況にないというのもある。具体的に言うと商人がこの開拓調理には居ない。


「招致とかってできるのか?」

「それは……」

「開拓領地に来たがる人間がいません……商人でも、商機の見えない開拓領地には来ないでしょう」

「今もか? 道は整備されたよな?」

「道が通じていれば人が来るというわけではありません……仮に来たとしても、開拓領地から持ち出せるものがありません。お金も存在しませんし」

「そこなんだよな。商人が欲しいのはお金の流通と管理の面でもある」


 昔ながらの物々交換が主流の状態をどうにか止めたい、というのが賢哉の意見だ。現状では他の領地、他の場所との隔絶が激しすぎる。貨幣経済の世の中で物々交換のみを行っている状態は健全ではない。とはいえ、お金を作るのもお金を手に入れるのも簡単な話ではないだろう。


「売れる物か……現在開拓領地を広げるうえで切り出している木材、暗黒領域に存在する草花や果実……薬草の類、飲み物に流用できる植物類、ドワーフの済んでいる所のコルデーさんからとれる鉱石、鉱物……川魚、獣……」

「目玉になるものが今のところありませんね。希少なの物が取れるならば話は違ってくるでしょうけど」

「やっぱりドワーフを引き入れたいよなあ」


 賢哉としてはドワーフを引き入れ、彼らの鍛冶技術から作られる金属製品を目玉にしたいところである。確かに他の所ではドワーフを引き入れている場所というのは基本的に存在せず、それゆえにドワーフの作る代物はここの開拓領地独特の代物となるだろう。


「…………エルフには頼らない? いらない?」

「何かやってくれるならこちらとしても頼みたいところだけど……」


 ネーシアたちエルフも、ドワーフと同じように独自の技術がある。ただ、彼らのそれは木々や薬草などの植物関連であり、それゆえにどうにも地味に感じるものだ。まあ、全く売り出すことのできないものではないだろう。そういう意味ではエルフたちを頼ってもいい……が、やはりドワーフのそれよりはあまり目立たないという感じか。


「まあ、今はいろいろと考えていかないとな。開拓領地をどうするか。人の問題もあるし」

「人の問題……」

「人数がなあ……開拓領地自体そもそも人が来ない場所だし、子供ができるにしても即戦力にはならないしな」


 開拓領地に住む人間の数が増えない。領地としては領民を増やしたいところであるが、それは簡単には行かないだろう。食料があれば人が増える、住むところがあれば人が増える、住みよい場所なら人が増える……にしても、急にぽこぽこ人間が湧いて出ることはなく、日々の営みで子供ができて増える、ということだとしても、一家庭に年に一人のペースで増えるにしても簡単に増えるわけではない。子育ても大変であるし、子供がいるとその母親は子供が育つまであまり仕事に出られない。仕事の戦力が減ることを今の開拓領地の状況で許容できるか、許容するにしても仕事をどうするかの問題もある。

 ともかく、開拓領地の発展はまだまだやるべきことは多い状況であるようだ。まあ、今はドワーフがどういった決定をするかがこの先どうするかを決める要素になり得ることだろう。


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