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「さて……登るか」
「えっ!? まだ登るんですか!?」
「だって登らなきゃ原因の根幹をどうにもできないだろ。ドワーフたちもかなり大変そうだし、恩を売ることもかねて倒しておいたほうが後々得だ」
今この場でドワーフたちにとって問題となる存在を処理しておいたほうが後で色々と楽である、というのが賢哉の意見である。それに対し彼らが感謝するかは不明であるし、問題が解決した状態になると彼らも人間に対し交流を持とうとはしないかもしれない。とはいえ、下手をすればドワーフたちが大変なことになるとわかっているのに放置するのも問題だし、仮に交流を持たないにしてもこのコルデー山にはまた来るかもしれない。そのときに問題になることは先に排除しておいた府がいいだろうという考えである。
「でも、ついていけそうにはないですよ? そもそも山の上のほうに登るとなると体力的な問題も……」
「ここでゆっくり休めばいい。入口に近づきさえしなければドワーフも攻撃してきたりはしないだろうし」
「いや、そうじゃなくて……それも心配かもしれませんが、それ以上にこちらの安全もですね」
今のナルクとほかの元開拓班では確実についていくのは無理だ。ここまででの体力の消費、身体の疲労の問題もあるし、仮に置いて行かれ場合身の安全もどれほど確保できることか。そもそもそういった武力面に関しては未だに賢哉だよりである。ナルクも森での探索によりそれなりに体力や実力がついてはいるものの、この場でほかの全員を守って、となると大変だ。一応ほかの面々も元々盗賊をやっており森で暮らしていた以上まったく実力がないわけでもないが、それでもこの人数でとなるとなかなか難しい。武器や防具もあるが、それでも大変なことには変わらないだろう。
「ああ、それなら安全のために結界を張っておくからそれがあれば大丈夫だろ。敵対者の侵入防止あたりにしておけば、外に出ない限りは危険がない。それを張っておくからその中にいて俺が戻ってくるのを待てばいいさ」
「………………はあ」
仕方ないといった感じにナルクはため息をつく。こういった時、賢哉は基本的に周りのことを気にしない。いや、元からあまり周りに事は気にしないほうである。なので既に賢哉がこうすると決めている以上止めようがない。実際賢哉を止めることができる者がいるとすれば、一応は上司にあたる領主、フェリシアくらいである。まあ、そんな彼女でも賢哉が頑なに決めたことは止められないため、あまりストッパーにはならないのだが。
「とりあえず俺が登ってくる。流石にまとも登るのはあれだから飛行するが、それでもついてきたいというのなら……」
「いえ、いいです! ここで待ちますから!」
結界があるとはいえ危険なこの場所で待つのは不安である。だが、それよりも飛行による恐怖のほうがよほど上であるようだ。まあ、自分の意思で自由に動けないまま空中を飛行させられるのはそれなりに恐怖なのだろう。ゆえにナルクはここで待つという宣言をする。ほかの面々は賢哉の行動になれていないので判断はつかないのだろう。
「よし、なら……」
賢哉は杖を振る。それにより地面に魔法陣……を含む円陣が描かれ、うっすらと光を放つ。
「そこの中で待っていてくれ。流石に戻ってこないことはないと思うが……もし戻ってこなかった場合……どうしようか」
「いや、そこはどうしようか、じゃなくて……」
流石に賢哉が戻ってこない、ということは彼らも想定はしたくないだろう。とはいえ、賢哉自身自分が絶対安全とは言えないわけである。彼の魔法はたしかに強力なのだが絶対の安全を保証するものでもない。
「とりあえず、最後の手段で開拓領地に帰還できる魔法を……っと」
杖を振って魔法を封じた丸い玉を作り上げる。もはや何でもあり、今までもそうだが賢哉の魔法は何でもできるといっても過言ではないくらいに出鱈目すぎる能力ではないだろうか。本人はそうでもない、手間のかかることはその分コストが高いとか言い出すが、逆に言えば単純な内容であればほとんどのことはできるということでもある。今回作ったこの玉は開拓領地への帰還の魔法を封じており、それを破壊することで戻ることのできる玉だ。仕組みは単純で、帰還の魔法を発動対象を決めない状態で待機させ、それを封じ込める魔法で一時的に覆っただけ。魔法は衝撃で破壊できるようにしており、それを破壊することで周囲に存在する人間またはそれに類する存在を開拓領地へと戻す、というものである。実に面倒な内容に思えるが、使っているのは帰還の魔法と魔法を封じ込める魔法だけだ。仕組みはいくらかあるが機構自体は単純である。
「夜まで戻ってこなかったらこれを壊して戻れ。開拓領地は……まあ、今張っている結界とかそういうのは生きているし、いくらか環境自体は何とか整えているから後は努力次第で何ともなる。だから俺がいなくても一応はやっていけるはずだ」
「いやいや、戻ってこればいいだけですからね?」
「戻ってこれるとは限らないから言ってるんだ。まあ、ほぼ戻ってこれるだろうけど、それでもそういった危険は零ではないだろう。それだけはちゃんと中止いなければいけない。わかるな」
「………………」
どれだけ事前に安全を図っても絶対の成功はない。それゆえに賢哉は安全策をいくつも準備するのである。まあ、あくまで賢哉基準であるが。
「それじゃあ言ってくる」
そういって賢哉は杖を振り空中に浮かぶ。そしてそのまま山の上のほうを登って行った。
賢哉はすでに山の上に存在する者についての情報は得ている。それに関しては賢哉がドワーフの存在を確かめるために使った魔法でその所在を把握していたためだ。また、ドワーフたちが来た方向からもおおよその推測はできるだろう。少なくとも彼らが傷ついた状態で自分たちの住んでいる場所に気づかれないように注意を払った行動ができたかというと怪しい。つまり彼らが着た方向にその存在がいるということになるわけである。
まあ、再度魔法を使えば容易にその存在を把握できるわけであるが。
「っと、ここか」
山頂にまであともう少し、飛行する賢哉にとってはかなり楽に来れる場所であるがまともに登ってくる場合は結構な時間がかかるだろう場所である。そこにはそれなりに広い空間があり、かなり動きやすい、移動しやすい場所が合った。近くには水の溜まる岩場があり小さな池のような感じになっている。流石にカルデラ湖みたいな感じではないが、結構な広さだ。水には困らない。
そして、奥のほうには採掘の痕跡のある壁とそこに存在する洞窟。そしてその洞窟の中に侵入している存在がいた。それは賢哉の存在を察知したからか洞窟から出てきている。
「グルル…………」
三頭の獣。それぞれ山羊、獅子、蜥蜴の頭部を持つ存在。体躯は大きく翼も生えており、尻尾はまるで蛇の頭部のようなものがついている。
「キマイラでいいのかね。しかし、大きいな……」
体躯が大きい。先ほどのドワーフたちは人間と比べ少し小さいが、人間と比べてもキマイラのほうが大きいのである。しかも三つ頭が着いているということは三倍賢い……とまではいかないかもしれないが、それでも能力は高くなるだろう。そもそも特殊な獣、魔物という時点でかなり強力なのだ。魔法を使ってくるかもしれない、特殊な能力を使ってくるかもしれない、危険は多々存在するのである。
「ま、とりあえず……なんとかしますか」
そういって賢哉はキマイラへと挑む。もっとも、賢哉の能力を考えれば、それほど難しい話ではない。今までやってきたことの数々を思えば、たとえ強くともキマイラの一頭くらいどうとでもなることだろう。




