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「ここか」


 賢哉が洞窟の手前で呟く。その後ろではぜひぜひと息を切らしながら登ってくる四人、はあはあと大きく呼吸するナルクがついてきていた。一応ここまでで脱落者はいないようである。まあ、脱落しないようにしているのもあるし、脱落してしまうと下手をすれば本当に置いて行かれる危険性もありそうだ。ゆえに彼らは途中で脱落はできなかったのである。流石に置いていくほど賢哉は無情ではないので気にする必要はなかったと思うが、まあ彼らは賢哉の恐ろしい面を強く意識してしまうので仕方がないかもしれない。


「……人為的な洞窟だな。まあ、恐らくドワーフがいる可能性が高い……仮にそうでなくとも別の何か人間か亜人がいるのは間違いないか」


 事前の魔法による調査でもこの洞窟内に人のような存在がいるのは判明している。なので賢哉のその言葉は間違いではない。問題は安易に侵入できない点だ。賢哉たち人間と亜人は基本的に仲が悪い。相手に招かれてはいったり、危機を助けたりするならばともかく、勝手に侵入すれば必ず何か問題が起きることは間違いないだろう。


「ふむ……どうするかな」


 連絡を取る手段はある。声を届ける魔法、手紙を送る転移魔法、それ以外にも簡単な書置きを残したり、場合によってはこの場で中から出てくるのを待ち構えるというのもありだろう。とはいえ、それは能動的な手段ではなく相手の行動を待つ受動的な手段となってしまう。そこが賢哉にとってはその選択を選びづらい点だ。流石に相手の行動を待つというのは賢哉の仕事の関係上やりづらく、今日中に賢哉はこの場所から去るつもりである。だからできればすぐに行動してなんとかしたいところだが、それもできない。何か手はないか、と思いつつ思考する。

 そうして連れてきた仲間の回復を待ちつつ、入口の前で何やら考えている賢哉に対し怒鳴り声が降りかかる。


「おい! お前こんなところで何してやがる!」

「おっと?」


 賢哉が声のした方向に目をやると明らかに成人しているような男性だが、一般的な人間よりも身長の低い男性の姿があった。豊かなひげを蓄え、その身体はずんぐりとしているものの、しっかりとした筋肉で覆われておりかなりの力と頑強さを有することだろう。普通の人間の鍛え方ではこういった筋肉の付き方はしない。すなわち賢哉たち人間ではない。


「あんたたちは……ドワーフでいいのか?」

「……ああ、そうだ。お前らは……人間か? 人間がここに何の用だ!」


 賢哉たちが何者か、改めてドワーフの男は把握し、再度怒鳴り声をあげる。


「細かく話すといろいろと複雑なんだが、俺はドワーフと友好を築きたいと思ってここに来た」

「友好だと? 人間が俺たちドワーフと?」

「ああ」


 じろじろとドワーフの男は賢哉を見る。そしてはっ、と鼻で笑った。


「そんな話を信じるものか。人間と亜人の関係がどういうものか知らないわけじゃあるまい。お前たち人間にどれだけ仲間が殺され、だまされ、裏切られてきたことか。俺たちドワーフをこんなところに追い出したのもお前たちだろう! そんなことをしたやつらと友好を気づけるわけがない!」

「それは昔の話だろう? まあ、今も人間の多くはあまり変わらないだろうし、昔の話だからって全部なかったことにして許せなんて言うつもりもないさ。ただ、昔の話は昔の話、今の俺たちがそのことでいがみ合うのは違うんじゃないか?」

「お前たちが勝者だからこそ言えることだろう。それに、また俺たちを利用しないとも限らん。人間はそもそも信用できん」

「ま、確かにその言葉は間違っているとも言えないけどな。利用、とは言うが別にそちらに特がないわけでもないだろう? ドワーフだってこの暗黒領域での生活は大変なんじゃないか? 食料の確保、危険の排除、道具を作るのも大変なはず」

「…………ふん! 俺たちは俺たちだけで十分やっていける! お前たち人間の手など借りる必要はない!」


 ドワーフの男はそう賢哉に向けて叫ぶ。だが賢哉はその男の発言、その発言をするまでに少しの逡巡があったことに気づいている。そして視線をそのドワーフの男の後ろにいるドワーフたちに向ける。


「そういう割には仲間は傷ついているようだが? それにかなり疲れている様子だ」

「………………」


 賢哉の私的に黙り込むドワーフの男。現れたドワーフは一人ではない。十人ほどのグループであり、その代表格、リーダーらしき男が賢哉と相対し話していた。それはその男に発言する立場の強さがあるからではあるが、同時に仲間が傷つき疲労困憊であるというのもまた理由である。もし彼らが無事であるのなら賢哉の言い分に対して文句を言ったり、賢哉と話しているドワーフの男の言葉に便乗したりヤジを飛ばしたりしてきてもおかしくはなかった。そして彼らの存在が賢哉の言葉を否定しきれない理由となってしまっている。


「はっ。人間に心配されるいわれはない!」

「そうか? まあ、そう言うなよ。仲間の安全と安心のほうが重要だろ?」


 そういって賢哉は杖を振る。一瞬で魔法陣が構築され、魔法が発動する。その速さをドワーフは何かをした、と察知こそするものの何をしたのかがわからない。これはそもそもドワーフにはあまり魔法に関する技術が少ないのが一つの理由であるが、やはり賢哉の魔法の扱いの技術の高さがあるからというのも理由だろう。とはいえ、このドワーフの男に賢哉の動作は見えたのであるが。


「……何をした?」

「後ろ。仲間を見てみればわかる」


 賢哉の言い分にドワーフの男は自分の仲間を見る。そして目を見開き驚いた。


「お前たち……! 傷が治ってやがるのか!?」

「あ、ああ、そうみたいだ」

「何が起きた? 勝手に治ったぞ」

「………………」


 リーダーのドワーフの男は賢哉に視線を戻す。賢哉はにやりと笑っていた。


「傷を治してみた。こんなことができるわけだが、本当に人間の手助けは必要ないのか?」

「………………」


 リーダーのドワーフは一瞬迷った様子を見せるが、しかし賢哉に対し強くにらみつけ叫ぶ。


「必要ない! 俺たちは人間の手を借りずとも生きていける! 俺たちにかかわるんじゃねえ!!」


 ある種エルフよりも閉鎖的な内容、態度を見せ、仲間を引き連れドワーフたちは自分たちの隅化としている洞窟のほうへと戻って行った。そんな彼らを見送ることしか賢哉はできず、軽く杖を持っている手を振った。


「……副領主、いいんですか?」

「ん?」

「彼ら、行ってしまいましたけど」

「ああ。ま、今すぐ交流をって分けにはいかない様子だけど……彼らの事情に関してはすぐにいくらかわかるかもしれないさ」


 先ほど賢哉が手を振ったのはただ手を振ったわけではない。手を振ったと同時に杖も降られた。別に杖を振らなければ魔法を発動できないわけではないが、一種の条件反射のようなものである。ともかく、魔法を発動し彼らに対し使った。その魔法は声を届ける魔法……つまりは盗聴。賢哉は彼らが内部で話している内容を盗み聞きするつもりであるようだ。



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