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「ああ、あんたか副領主さん。なんかようかい?」
開拓班が森を切り開いている。現状開拓領地はそれなりに領地として大きくなっている。それでも、まだまだ必要な木材、燃料、人の住む場所などの確保は必要だ。特に現状では賢哉が他の亜人を連れてくることを考慮に入れている。もちろん他の亜人が住みよい場所は彼らに聞かなければわからないので単純に切り開いて場所を確保すればいいというわけではないが、他の亜人の内容的には森を残す必然性はないだろう。あればいいというのであれば別の場所を確保すればいい。開拓領地の予定としてはそれぞれの区画のようなものを作りそちらに住まわせすみわけしたいという考えである。
ともかく、開拓班はかなり働いているが……しかし、そろそろ開拓班も森を切り開き木材を確保する仕事以外も任せたいところであった。
「ああ、実は開拓班からいくらか探索できる戦闘能力を持つ人間を育てたいかな、と。領地の防衛みたいなこともできるようにしたほうがいいし」
「おー……もう木を切るだけの仕事ばかりしかしなくていいってわけじゃなくなるのか」
「退屈だったか?」
「同じことの繰り返しで詰まらねえ、って意見はあったがな。ま、俺らはもともと盗賊だから生かしてもらってるだけありがてえし、盗賊であったころよりも食えてるわけだから悪いことじゃねえんだけど。それでももっといろいろとやってみてえやつはいるわな」
同じことの繰り返し、というのは確かに退屈なところかもしれない。しかし、衣食住がそろい、安全に過ごせることは彼らにとってはありがちあ。その命を賢哉に握られているとはいえ、奴隷のように無茶無理無謀をさせられることもない。そんな状況に贅沢を言ってはいけないが……まあ、少しくらい愚痴はあるのである。
「でも森の探索かあ……」
「どちらかというと鍛えて領地の防衛に参加してほしい、ってところだな。だから森で活動できるようにというよりは戦えるようにするのが主体だが」
「いいのか? 俺たちに力を与えて」
「……まあ、契約はあるけど、いずれ領民になったら解くだろうな。その時に裏切られれば……まあ、困ったことになりそうだが。だけど裏切るつもりのあるやつはどれだけいるんだ? 仮に裏切ったとして、どうする気だ? この開拓領地を捨ててどこに行くつもりだ?」
「そういわれるとなあ……ま、裏切る気は俺にはねえし、ほとんどの奴にはねえだろうけどよ。それでもあんたに恨みがあるやつもいなくはねえ。一応念のために気を付けとけよ?」
今が過ごしやすい状況とはいえ、盗賊時代の危険のある、悪事を行う反社会的な状況を好んでいたものもいる。それを賢哉はぶち壊しにした。当時部下を持つような立場の者も今ではほかの仲間と同じになったりと、盗賊時代から立場の変わったものもいる。そういったものたちにとってはまた盗賊に戻りたいと思うものもいる。そういったものに力を与えるのは危険だ、という話である。まあ、賢哉ならば安全を図ることはいくらでもできるだろう。
「それで、探索に連れていきたいんだが、だれかいい候補はいるか?」
「ああ……どうだろうな」
「お前は?」
「俺はあいつらをまとめる役目があるからな。面白そうだがちょっと無理だ。いくらか見繕っておくから後で来てくれ」
「わかった」
ひとまずグルバーの意見を受け入れ、しばらく賢哉は探索の準備をする。そして再度グルバーのもとを訪れ、人員を確保し探索に向かった。今回人数を連れて行くのは探索場所が近傍ではなくなるからというのと、ついでにほかの人間を鍛えるためである。いつまでもナルク一人だけを連れて、というのはよろしくない。
と、いうことで今賢哉は空を飛んでいる。それに伴いほかの人間、ナルクと元開拓班の人間である。
「ちょっ、ちょっと副領主!? 空、空を飛んでるんですが!?」
「自由に飛べなくて悪いな。流石に飛行を自由にすると落ちる奴もいるだろうし、逃げようとするのもいるかもしれないし、俺の魔力の消費も大きいだろうかrあ本当に移動するだけにとどめてるんだ」
「そういうことでなくて! 皆怖くて固まってますよ!?」
いきなり賢哉の魔法により全員で空を飛び移動している。現状ナルクも含め五人の追従者がいる。
「え? 怖いか? ちゃんと安全は確保してるが」
「空飛んでたら怖いですっ!」
「ま、今は我慢してくれ。流石にあの山のところまで行くのに歩きだとどれだけ時間がかかるか……」
「そりゃそうかもしれないですけどっ!」
コルデー山。エルフの集落までも結構な距離があるが、そちらから見ても結構な距離のある場所に存在する山だ。当然開拓領地からはかなり遠い。今ではエルフの集落まで道を作りあまり移動に時間はかからないが、流石にコルデー山まではちょっと違ってくるだろう。ましてや森の中、大人数となると困りものだ。
「空を飛んでいくなら探索に連れていく人数増やす必要はあったんですか?」
「近場の獣は数が減ってるだろうからってのもあるんだよ。ドワーフのところの周りにどれくらい獣の類がいるかもわからないが、こちらよりは多いかもと思ってな。本当は近い場所で鍛えてからのほうがいいんだろうけど……そもそも、人数を増やさなかったのは武器や防具の問題もある。戦闘となると消耗がな」
賢哉の魔法は万能だが、しかし限度もある。鉄を作り出すことは極めて大変であるし、それを加工し武器や防具とするのも大変なことだ。今は土や石で作り出したものを使っているが、もう少しまともなものを使いたいところである。
「だからってなんで今……?」
「ドワーフって話だからな。交渉して向こうで何かもらえるかもしれない、と期待してるのもある」
「いや、亜人ですからねっ!? 簡単に交渉とかできる相手じゃないですよ!?」
ナルクの言い分ももっともだろう。賢哉は亜人とのかかわりを少々軽く見ている。
「ま、なんとかしてみるさ」
軽い返事である。まあ、賢哉ならなんとかできるのでは、と現在の開拓領地の人間は思うだろう。それくらい賢哉の出鱈目さを開拓領地の人間は理解している。もっとも、その開拓領地の人間でも賢哉の出鱈目さにまきこまれれば結構困る。今空を飛んで固まった元開拓班の人間たちのように。
「……はあ」
ナルクは特に一番巻き込まれている立場である。まあ、現状賢哉の部下のような立場なので仕方がないのかもしれない。




