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「他にも獣人もいるようだが、彼らは色々なところに散っているのでわからぬ」

「散っている?」

「獣人と人間はひとくくりにするが、それぞれの種で違いが大きいからな」

「……ああ、なるほど」


 単純に人間は獣人と呼ぶ彼らも、草食動物の要素が強い獣人と肉食動物の要素が強い獣人では生存できる環境が違うし、必要とする食事も違ってくるだろう。性格的な不一致の問題もあるし、また肉食動物と草食動物の関係か、本能的な忌避もある場合だってあり得る。そういうことで彼らはそれぞれで纏まり別れ住み分けしていることが多い。

 それ以前に、人間でもそうだがそれぞれの国のようなものも存在し、集落別ということもある。これに関しては獣人だけではなくエルフでも別の集落が存在し、そちらとこちらでエルフとしては同一でも別々の社会性を営んでいたりする。

 ではエルフと獣人でどう違うか、というとその総数の関係だろう。エルフの場合は繁殖能力や頻度の問題もあるかもしれないが、絶対数が他の亜人種族と比べ獣人は多い。増えやすい多産の傾向も一種あるが、それでも彼らはそもそもの種が多いと言う特徴がある。そのうえ人間のような知能の高さもあり、また人間よりも身体能力的には高い。それなのになぜ彼らが人間に追いやられたのかは諸説色々とあるが、人間がより欲深く、より狡猾であり、より高い技術力を作り上げることができたなど色々と理由はあるのかもしれない。

 ともかく、獣人に関してはこの暗黒領域でもそれなりに数はいるはずだ。彼らに関しては中々本能的な生存能力も高く、多少過酷な環境であっても結構な場所で生きられるからだ。しかし今まで獣人に賢哉達があったことはない。それはなぜか。


「でも散っている、という割にはあったことがないな」

「……恐らくだが、彼らのいる場所はお前たちの開拓領地からは遠い。確か……こちらの方だったか?」


 カルバインが示しているのはドワーフのいる可能性の高いコルデー山からさらに東の方だ。


「……これって魔族の範囲とも被っている可能性があるんじゃないか?」

「かもしれぬ。ならばより東に行っているか、多少南下しているか……または南東に歩を進めているかもしれぬ。詳しいことはわからぬが、少なくともこの山よりも東側寄りの方にあるだろう」

「こうしてみると結構それなりに分散はしているんだな……」


 亜人たちの住んでいる場所はそれぞれでばらけている。ゆえに他の亜人と出会ったりして衝突することもなく、食料の奪い合いということにもあまりならないようだ。まあ、それ以前に暗黒領域はそこにいる獣など命の危険がある場所であり、またそれぞれの食性と生活環境、探索範囲の違いなど様々な要因が重なっている結果だろう。今彼らが訪れているエルフの集落でも、道を整えた上でも開拓領地から結構な距離がある。夜の森は危険が多く、あまり遠くへの探索ということは出来ない。そういったこともあって遠出も難しいだろう。それが他と出会うことの少なさにつながった。

 稀に出会うことはあったが、実のところそうして出会う場合は相手にとっては死亡リスクの高い状態だったりする。そんな状態でも亜人は人間とのかかわりの危険状人間相手に助けを求めることは少ないだろうが。本気で生き延びたいギリギリならまた違ってくるかもしれない。亜人同士でも、あまり積極的な接触はしないだろう。まあ、そもそもこの暗黒領域で助け合いの精神は仲間内以外では育ちにくい。生きるので精一杯、生きるので必死であり、他者を生かすための努力はやりにくいのである。


「そういえば、湖近辺にはリザードマンなどがいる可能性もあるだろう……彼らの場合水辺が生存に適しているからな」

「湖……川はどうなんだな?」

「川か。場所にもよる。ただの川ならばおらぬだろう。洞窟などがありそうな場所ならばありえなくもない。流石に川の横に居住地を作った場合他の亜人や人間、それに獣たちに見つかるリスクもある。水辺ということで獣も寄ってきやすいからな。隠れられるような場所がないのなら住まうことは少なかろう」


 人型に近い形態をとるとはいっても、それらのすべてが人間と同じような生活をするわけではない。例えばエルフは家を建てているが、ドワーフは山に恐らく横穴を掘って洞窟のような感じの居住地を作っている可能性が高い。リザードマンなんかはどちらかというとそちらに近い生態をしているが、彼らの場合は技術力の関係上あまり建物などを作ったりはしない。人間の手と違って彼らの手はあまり細かい技術を扱うのには向かないのである。


「ああ、だが一応注意しておくぞ」

「なんだ?」

「彼らは人間の言葉を話せない可能性が高い。人と同じような体のつくりではないことがおおいのでな」

「……そういえば言葉は色々と疑問だったが、エルフは人間の言葉を話せるんだな」

「厳密に言えばこれは人間の言葉ではない。亜人も含め、人の種族は元々今ほどにバラバラではなかった。その当時から使われている言葉だ。とはいえ、多くの種族が個別で過ごすようになり、その結果この言葉を使わなくなっている種族もあるようだがな……」


 そのあたりの種族の関係のごたごたは人間との間だけの特別なものではない。人間との間に起きたごたごたが一番多いとはいえ、歴史的にそれぞれがそれぞれの理由で色々とあったのである。


「へえ……」

「そういうことがあったのだ。あまり亜人と関わろうとはせぬ方がいいぞ?」

「そうだな。会ってから決めることにするよ。情報の提供、感謝する」

「まったく……」


 賢哉は開拓領地において、亜人たちを引き入れ開拓領地を大きくするつもりである。歴史的な色々も含め、確実に様々な衝突が起きることは目に見えているが、それはそれ。むしろ今ある程度それぞれが関係を持たなくなり、知識も古くなった状態で、開拓領地という好きに弄れる場所がある。その状態だからこそできることもあるだろうと賢哉は考えている。


「ケンヤ様、色々となされるのは構いませんが、お嬢様に確認を取ってからにしてくださいね」

「……わかってる。俺はあくまで副領主だからな。領主様にちゃんと必要な決は貰うさ」

「えっ、あ、はい、そうですね……」


 この場にフェリシアもいたが、どうにも話について来れた感じはしない。フェリシアも賢哉の行おうとするあれこれに関する知識はあるものの、賢哉ほどはっきりとした予想図がない。そのせいもあり、話の途中でついていけなくなっている。まあ、あとで賢哉がまとめ、求められれば詳しく何をするか説明し、話し合い、最終的にフェリシアがその内容を許諾することになるだろう。

 ともかく、エルフの里で情報を集め、この暗黒領域のどこに何があるのか、幾らか判明した。その情報を元に、開拓および亜人との関わりの発展を賢哉は進めていくつもりである。


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