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 少年、加倉井賢哉は賢者である。それは別に賢哉が頭がいいとかそういうわけでもなく、いわゆるゲーム的な意味合いでの賢者としての性質が強いかもしれない。彼はそもそも最初からその能力を持っていたわけではない。正確に言えば、彼はその才能を有していた。ある日、教室にいた時に、教室にいた全ての人間を対象とする召喚魔法によって彼は異世界に召喚された。その時、彼は自分自身が持つ才、召喚対象とされた人間の持つ特殊な才能を開花された。同時に呼ばれたのは彼以外に三人、勇者、魔法使い、戦士の才能を持った三人と一緒に、賢者を持った彼が召喚されたのである。

 その四人を召喚した理由はかなり単純なもので、魔王との戦いをし、魔王を倒してもらいたいからである。とはいっても、よくあるゲームのような、魔王が世界の敵であるみたいな展開ではなく、どちらかというと魔族と人間の領土争いという要素が強い。それならば自分たちだけで戦えばいいと言うのに、そうせざるを得ない理由があった。魔王に通用するのは勇者の才を持つ者の一撃のみ。勇者しか魔王を殺すことはできない。それゆえに、勇者が必要だったゆえの召喚である。もちろん他の才能に関しても、魔王を傷つけることは出来ずとも勇者の支援にはなる。魔王以外の魔族を相手にすることもできるだろう。意味がないわけではない。

 そうして、四人は魔王と戦うこととなった。戦闘自体は勇者を含む四人の側が有利だった。だが、その戦闘中に魔王がある術式をくみ上げたのである。それは次元跳躍術式。ようはその術式を受けた相手を異世界に飛ばす術式である。それを賢者である賢哉は気付いたのだ。賢哉の持つ賢者の才は、あらゆる魔法に精通する才能。魔法使いと賢者の才の違いは何なのか? そもそも才自体の差もあるのだが、単純に魔法使いは強力な魔法を使うだけの力を有するものであり、賢者は魔法の開発や術式の構築など、力よりは技術に寄った部分の強いものである。その才もあり、魔王が作り上げている術式を見ただけでその術式を把握、同じ術式を作り上げた。

 そして、勇者に向けられたその術式に対し、同じ術式を持って賢哉は魔王に対抗。その術式同士のぶつかり合いの結果、賢哉は何処とも知れない場所へと吹き飛ばされたのである。


「……ここどこだ。いや、まあ、多分どこかわかんないんだろうな」


 森の中。賢哉は杖を振る。別に杖を振ることに特別な意味合いがあるわけではないが、雰囲気作りに近い。なぜなら賢哉が魔法を使うために使っているのは杖ではなく、その先に展開されている魔法文字。その文字が術式そのものとなり、魔法を展開するのである。そしてその魔法文字を書き上げるのは杖を振った一瞬。別に杖を振る必要もなく、そのままでも扱える。

 そして杖を振ったのは周辺の状況、この世界の環境状況を知るため。幸いなことに、彼の賢者としての才は高く、ここに来る前の世界でかなりの魔法を作り上げた。そして今も即興でいくらかの魔法は作り上げられる程度には魔法の知識と能力がある。世界が違うため魔法が使えないと言う危険もあったが、どうやら問題なく仕える様子である。

 その魔法にて、ここが森であることを知った。そして当然異世界であることも。異世界から異世界に飛ばされた。次元跳躍術式は意図した世界に移動する術式ではなく、次元の狭間に叩き込むような術式であり、たまたま異世界にたどり着いたのは幸運ともいえる。だが、その影響は大きい。元の世界、この場合飛ばされてきた異世界に戻ることもできず、またその異世界に召喚される前の、本当の意味で彼の住んでいた世界にも戻ることはできない。完全に世界をたがえたため、繋がり自体が途切れている状態だ。それを賢哉は理解していないが、しかしおおよそ推測はできる。


「…………はあ。戻れそうにないよな。ま、そうなったものはしかたない。どこか住める場所住める場所っと」


 とりあえず賢哉は自分の過ごせる場所を探す。簡易的に環境を調べたが、そもそもそれ以外の状況はどうなのか。周辺状況をかなり広範囲にわたって調べてみる。そうすると、逃げる人とそれを追う人の存在があった。少女と女性、そして男が三人。


「……あれか、テンプレ的な。うーん、運命的ってやつ? まあなんでもいいか。とりあえずそう言うのを無視するのは胸糞悪い。っていうかやる奴は死ね。屑死ね。よし、助けるか」


 そうして賢哉はその少女と女性を助けに行った。






 それがこの結果である。男三人は賢哉の魔法によってとらえられ、少女は無事、女性は殴られたがその傷は賢哉の魔法によって癒された。


「…………」

「そんな風に睨まれてもな。別に悪い結果にはなっていないだろ。だいたい、あのままでよかったか? こいつらに犯されて、そっちの子も碌な目に合わなかったのは間違いない。それでよかったのか?」

「それは……」


 現状、二人が賢哉に助けられたのは事実である。しかし、やはり賢哉という存在自体が異常なのだ。それに対し恐怖を抱くのは何らおかしな話ではないだろう。


「アミル……大丈夫?」

「お嬢様。ええ、大丈夫です……彼に助けてもらいましたから」

「そうですか。ではお礼を」


 少女が賢哉の前に立つ。それはどこか、アミルと呼ばれた従者の女性を守るかのようでもある。少女は女性が恐怖を感じていたのを理解し、守ろうとして動いたのだろう。


「私はフェリシア・アルヘーレン。一応……貴族の娘です。私と、従者のアミルを助けていただきありがとうございました」

「ああ。別にそこまで畏まられても困るんだけど……俺は加倉井賢哉。多分こちらでは賢哉・加倉井になるのかな。ま、とりあえずどっちで呼ぼうが構わない」

「では……ケンヤ様と」

「ああ、別にそれでいい。それで、だ。そちらさん、フェリシアとアミル、あんたら二人を助けたのは別に無償ってわけじゃない。それなりに代価が欲しくてやったことだ。まあ、あんな状態で助けられなきゃ酷いことになるんだから助ければ相応にお礼があるって思うのは普通だしな」

「っ……」


 賢哉はそもそも慈善事業で彼女たちを助けたわけではない。確かに男たちの行動に対する嫌悪があったが、その中にはその状況にある彼女たちを助けることによる恩賞があるとも考えていた。別に貴族でなくとも、助けられた恩を返すと言うことはよくあること。


「……何が望みですか?」

「そうだなあ……」


 その視線はフェリシアに向く。びくり、と体を震わせるフェリシア。しかし、それは先ほどの男たちのような下卑た視線ではない。


「雇ってほしい」

「……え?」

「いやあさあ。俺はちょっと訳アリでこっちに伝手がないのよ。そちらさん、貴族だろ? 貴族に雇われれば貴族が後ろ盾になるわけだから、かなり過ごしやすい……かどうかは知らないが、まあこっちも結構色々と活動しやすいしな」

「……はあ」

「ま、すぐに決めろとは言わんさ。そっちの従者さんと決めてもらって構わんよ」

「あ、はい……」


 賢哉の望みは一つだけ。かなり単純で簡単なもの。後ろ盾、賢哉自身の行動と立場を守れるだけの権力と、十分に過ごせることの出来るだけの環境。ああ、一つではなく二つだろう、この場合。とはいっても、要は自分を貴族の家で住み込みで雇わせろ、ということである。


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