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「ふむ、情報か……」
「ああ」
エルフの里、フェリシアとアミルを伴いカルバインの下へと訪れている賢哉。既にフェリシアとの対面、挨拶を済ませ本題に入っている。即ち情報収集である。賢哉も森を歩き、森を探索し、色々と情報を集めているが、それでもエルフとは年期が違うだろう。そもそも開拓領地側で森にあまり入っていない人間側と、森で暮らしているエルフでは明らかに持っている情報が違うわけである。
「これを見てくれ」
「………………ケンヤ様? それどこで」
「これは……紙?」
「この白くて薄い……これは……紙、なのか?」
賢哉の持ちだした紙、果たしてどこに隠していたのやらと思う所であるがそもそも賢哉の魔法であれば製法などを知らずとも紙の作成は出来る。その大きさや量、コストや時間、手間の関係でそれほど作れないが、この場において情報をまとめるために利用する上でならば問題ないものだ。
「確かに紙だけど……これしかないし作り方も知らないからな? まあ、いいんだけど。まず、ここに開拓領地が」
「あっ!」
「こんなに白い紙に!? もったいないことを!」
「なんという冒涜…………」
「…………稀少さはわかったから、話進めたいんだけどいい?」
他の三人の妙な反応はともかく、賢哉は話を進める。
「ここが開拓領地、太陽の方向……紙の地図、上を北として、えっと方角方角……っと、とりあえずこんなところで、ここにエルフの集落」
「エルフの集落は開拓領地から東南東、といったところですね」
「フェリシアの所属する国の中心、もしくはもっとも近傍の領地はどの方角だ?」
「国の中心、王都になりますと……西南西、一番近い領地になりますと通じている道の関係上南西になります」
「西南西、南西っと……」
賢哉が地図に情報を描いていく。地図には開拓領地を中心としてそれぞれの方角に何があるのか、距離まではわからないので大雑把に記入されていく。一応近傍の別の貴族の領地には賢哉も一度行っている身ではあるが、その時はあまり場所の関係や方角などを気にしなかった。
開拓領地は王国において東の方にある。いや、正確にはフェリシアの治める開拓領地は東にある。王国の王都を中心として考え、東北東にフェリシアの開拓領地、他におよそ南南東に一つ、南南西にもう一つ、という感じになっている。王国と接する別の国は北側と西側、東側は未開拓の暗黒領域だ。
「ふむ……それなりにわかりやすいな」
「とはいっても正確性は低いだろうけど。図解にすると把握はしやすいが……」
「そうなんですか?」
「縮尺があってないしな。その気になれば正確な地図も……っていうか上から見るのが一番把握する上では早いんだが、流石になあ……」
賢哉の魔法であれば空を飛べる。空からみた図をそのまま地図にしてしまえばいいのだが、それはそれで賢哉にとっては大きな負担だ。いくら万能に近い魔法使いでも高高度の空中飛行魔法は手間もあるし、自身の生存をはかるうえでも面倒が多い。そもそも地図自体があまり作るには不安の大きいものである。正確性の高い地図はとても大きな情報で軍事機密にしなければならないようなものだ。
「とりあえず、カルバイン。どこに何があるか、どこにどんな亜人がいるか、できれば知っていることを教えてほしい」
「……そうだな。まず、あれを見てくれ」
そう言ってカルバインは窓の方を指さす。そちらには森があろうともよく見える標高の高い山が見える。
「あれは……コルデー山ですね」
「人間がどう呼んでいるかは我々の知ったところではないが、あの山の麓にドワーフたちが住んでいる……らしい」
「らしいとは?」
「我々はあそこまで行かぬ。あくまであそこに向かうドワーフがいてその者から聞いた程度の物だ。もともと我々も人間以外の他種族と仲がいいわけではない。幾らか交流を持ったことはあるが結局物別れに終わっている。ただ、その過程で幾らか相手のことを知ってはいる。だからこそ場所が分かるのであるが」
カルバインの知っているドワーフのいる場所はあくまで知識としてだ。実際にそこに行ったことはない。本当にいるかは知らないし、もしかしたらもうどこかに移動している可能性もある。また、場合によっては素手に全滅している可能性すらあるだろう。
「コルデー山……あれは開拓領地からも見えるな」
「はい。確かほぼ東に見えていたはずです」
コルデー山を記入し、どこにドワーフについても記入。ドワーフ関連の話もいくらか聞きたいところであるが、今回はあくまで場所の情報を把握することを重視している。
「そういえば川があったな……」
「川か。そういえば、この集落から北北東に湖があったはず……」
「ここから北北東……か。開拓領地からの位置関係で記入したいところだが、とりあえず情報として書いておくか。川はこっちにあったはずなんだが……」
川と湖の位置関係的に川と湖は関係ない感じに記入されている。川は開拓領地から北側で西に流れているのを賢哉は確認している。湖はエルフの集落から北北東に存在すると集落からの矢印で記入、実際にそこまで言ったうえで開拓領地の場所を把握しなければ正確にはわからない。
「ふむ……確か、山の向こうに魔族がいると言う話があったはず」
「それはエルフの集落から考えて山の向こう側か?」
「正確なところは知らぬ。しかし少なくともこちら側ではなかろう」
「エルフの集落側ではない、コルデー山の向こう側に魔族の集落……」
「魔族ですか……関わるおつもりがあるのですか?」
「場合によってはな」
亜人と比べ魔族に対する扱いは人間側ではより難しいものとなるだろう。これに関しては亜人と魔族を区別している点からもわかる。
「我々も魔族とはあまり関わらないようにしている。もっともそもそも見かける事自体が少ないのだがな」
「他の亜人は見かけるのか?」
「それもまた少ない。まあ、こんな場所では遠出も難しいからな。我々の行ける範囲と彼らの行ける範囲が被らないというのもあるだろう。それを考えても魔族と出会うと言う事自体が少ない。ないわけではないが」
「どんな感じだ?」
「基本的にはお互いに関わろうとはせぬ。亜人同士もそうだが我々の間にもいろいろと歴史があるのだ。我々でもそうなのだから人間相手ではより酷かろう」
「…………」
「…………」
「実際のところは?」
「知識としてはありますが、人間の敵、ということ以外は……」
「あったことのある人が少ないでしょう。そもそも、今の王国の人間で会ったことがある人がいるかと言われると……全くそのような話がありませんので」
「絶滅したとかないよな?」
「それはない」
「はい、それはないです」
「……確か、戦いの果てに逃亡したと。暗黒領域に彼らが逃げ込んだと言う可能性は高いでしょう」
「そうか……」
そういった事情に関してはある意味エルフなどの亜人とはまた別の独特なもの。とはいえ、今の人間の話ではなく昔の人間の話であり、今を生きるフェリシア達も詳しいことは全くと言っていいほど知らないのである。魔族の方はどうなのだろう。エルフは寿命の関係で知りえる者もいるが、魔族は果たしてどうか。それに関しては魔族についてわからない以上判断しようがない。