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「………………これは?」

「魔法文字だな。普通の魔法はよく知らないが、この魔法文字を一瞬で描き魔法を使ってる。実際には杖を振る必然すらない」

「……魔法文字?」

「こちらにはあるのかないのかは知らないけどな。魔法を使う上で意味を込めた文字で、それを魔力で記述することで魔法発動の……」


 ネーシアに対し賢哉が個人授業をしている。何故かその話をフェリシアが聞くことができるように、もしくはネーシアという存在に対しフェリシアが興味がありいつでも話せるようにとの配慮か、はたまた賢哉という存在がネーシアにとられることを危惧してか、三者が同じ部屋にいる状態でだ。賢哉としてはネーシアとマンツーマンという状況でかなり空気の重い状態になるよりは気が楽で、ネーシアも直接目を合わせた相手と二人きりよりも気分的に楽なのでむしろ歓迎するくらいである。

 一度目を合わせる、しかも賢哉が無理やり前髪をよけさせて、という状態であるため実に気まずい感じはあるものの、賢哉とネーシアの関係性は比較的良好である。そうして授業を行えている。まあ、この世界の魔法使いと賢哉の扱う魔法は基本的には別ものであり、幾らか魔法の知識のあるフェリシア、エルフでも魔法を学ぼうとする気概のあるネーシアでも賢哉の説明はまったくと言っていい程理解できないのだが。


「ふう……」

「皆さん水です」

「飲み物ですね、ありがとうアミル」

「…………水」

「水か。水かあ……」

「何ですかその反応は? いらないのならいいんですよ? ケンヤ様のものだけ回収しますよ?」

「いや、いる、いるから。でもお茶とかはないのか?」

「茶の葉がありません……」

「そもそもお茶は比較的高級品ですから。お金が……」

「ああ……」


 賢哉はあまり水は飲むのが得意ではない。飲めないとは言わないが、どうしても味付きの水でないと苦手意識が強いようだ。それでお茶の話をしたが、この世界においてお茶は比較的高値である。庶民向けのものではなく、基本的には貴族が手を出す高級なもの、そのうちの使い物にならない一部が商人たちでも買えるような比較的安い者として売られる。これは大々的に作っている産地が少ないのが原因、つまりは生産量が少ないので高値になっていると言う感じである。技術の独占によるものだったり気候の問題であったり、そもそも種であったりといろいろと問題はある。


「………………飲み物に使う草なら森にある」

「それは……お茶か?」

「わからない。でもある」

「……お茶を作れる、というのは大きいかもしれませんよ?」

「そうですね。名産……とまではいきませんが、他の領地に売り出せる可能性はあります」


 開拓領地でも名産を作る、その必要性はある。ネーシアが口に出した情報はフェリシアたち開拓領地の発展を目指すものにとっては大きな情報だ。


「お茶とは限らないよな。でも、草か……香草茶? まあ、あれも茶といえば茶なのか? 茶という名称を使っているだけで別にお茶じゃないような……まあ、それはいいか。お茶以外にもコーヒーとか、ココアとか……気候的にカカオやコーヒー豆ってあるのか?」

「カカオ? コーヒー? ココア?」

「豆……豆からお茶が作れると?」

「いや、豆というか……種子、果実の種子? 俺も詳しくは知らないんだけど……」

「よくわからない。でも、欲しいなら取れる」

「…………ひとまず、エルフの人にその飲み物に使う草、とやらを採取してもらうのもありか」

「そうですね。実物を見てみないと分かりません」

「でも、お茶を飲めるのは嬉しいかもしれません。こちらに来てからは全然そういうものを飲めていないので……」


 嬉しそうにフェリシアが言う。貴族の令嬢として生活している時は全然気にせず飲めるくらいの贅沢品ですらない代物であったが、今のフェリシアの状況ではそういったものは手を出せないくらいの高級品。それがもしかしたら飲めるかも、となれば嬉しそうなのも仕方がない。


「ああ……そういえば」


 賢哉が思い出したようにつぶやく。


「ネーシア、この暗黒領域に関して知識はあるか?」

「…………?」

「えっと、どこに何があるのかとか……」

「私は……知らない」

「そうか」


 残念そうに賢哉は言う。ネーシアはエルフとして森に住んでいたが、どちらかというとまだ集落外に出て活動できるような年齢でもなく、さらに言えば知識を学ぶ感じであれこれと手を出していたせいもあり、探索や周辺に関する知識はあまり知らない。どちらかというと頭でっかちで様々な知識に手を出している感じである。だからこそ賢哉から魔法を学びたい、ということになったわけであるが、そのせいもありこの暗黒領域の森に何があるのか、どこに何がいるのかとかそういうことは基本的に知らない方である。


「聞くなら……お爺様」

「まあ、そうなるか」

「ケンヤ様、なぜそのようなことを?」

「ああ。ほら、エルフの里に行ったろ。他の所に関する知識をエルフなら知っているかもしれない。できれば他の亜人の所に行って其方とも協力関係を結びたいし、仮にそれができなくともどこに何があるかを知っておけばこれからやりやすいし。聞く機会はあったはずなんだが、いろいろやってて忘れてたってのもあって今ネーシアに訊いてみたんだ。まあ、知らないならカルバインに直接聞いてくるしかないな」


 賢哉としては色々とやることが多い。なので意外とそういった余裕が無かったりもする。まあ、色々と手を出しているうちに忘れてしまうのも一因ではあるが。


「…………ああ、そうだ。フェリシア」

「なんでしょう?」

「フェリシアも一緒に行かないか?」

「……え?」

「お嬢様を亜人のところに……連れていくつもりですか?」


 アミルの賢哉に向ける視線が鋭くなる。アミルは亜人という存在に対しまだ警戒が強い。まあ、アミル以外の者もそうだが、アミルの場合はフェリシアに関わることなら殊更警戒心が高くなる。未だにアミルの賢哉に対する警戒心が高いくらいである。


「……アミル、ここにはネーシアもいるんだが」

「っ……申し訳ありません、別にエルフのことを悪くいうつもりは……」

「いい。人との関係は知ってる…………しかたがない」


 別にネーシアは気にしていない。そういう対応も仕方がないと思っている。むしろ賢哉が異常なくらいである。


「でも、いったい何故?」

「亜人の偉いさん、長だし、一番偉い人が挨拶をする必要があること、あとこの暗黒領域の知識を得る上で知っておいた方がいいだろうと言うこと、あとあちらでできればこの国のことに関してもいくらか纏めたくてな」

「……この国のこと」

「ああ。フェリシアなら、それなりに詳しい……と思ってな」


 開拓領地の事だけを把握していればいいわけではない。どちらにどのような国があるのか、どういう形で国が成り立っているのか。色々と知識を仕入れた上で開拓領地のこれからの検討もしたい。そういう意味でフェリシアを連れていきたいのだ。


「エルフの長に挨拶……確かに領主である私がするべきでしょう。一度行ってみたいです」

「お嬢様……」

「よし、なら行こう。大丈夫、俺が守るから」

「お願いします!」

「……はあ」


 アミルの心配をよそに、フェリシアは元気に賢哉に返事をした。



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