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 エルフを受け入れることが決まり、開拓班および賢哉は森を切り拓きその場所を作る作業に入る。開拓を進めたとはいえ、エルフたちが住む場所は開拓領地に作るのではなく、明確に別の場所にはっきりとした形で作らなければならない。また、森を中に残す形にもするため今の切り拓いた場所に作るわけにもいかない。なので新しい場所に作ることになるのである。まあ、賢哉がいるので切り拓くにしても効率、速度などかなり楽で速くいくのだが。


「副領主さん、あんたがいると楽でいいな」

「そうか?」


 元盗賊である開拓班、彼らを率いる男はグルバー。盗賊たちの中にいた有象無象の一人である。通常なら盗賊たちの頭やその副官のような人間がリーダー役になるのかもしれないが、なぜ彼になったのは頭がいないこと、副官らしい男がその腰巾着に近い立場であったこと、そして今は彼らは盗賊出ないことも理由だ。盗賊だった時は力や人に言うことを聞かせる力、判断力決断力が重要だったが、開拓班ではそういったものは必要ない。ゆえに気配り上手であったり、仲間を鼓舞する能力を持っていたりと、開拓班の仲間にとっていると元気が出る、ついていきやすいタイプ、というのが重要であるらしい。まとめ役としては微妙な感じであるが、開拓班は賢哉の指示で必要なことをやる人員であり、今はまだ独自の判断を必要としないため現在のところはそれでいいのかもしれない。

 そうして開拓班の力も借り、賢哉が頑張ってエルフの住む場所を作り上げた。作り上げたが、すぐにエルフが大量に来るわけではない。事前に話していた通り、ネーシアというカルバインの孫のエルフ、そして数人……ネーシアを含め全員で八人のエルフが開拓領地に来ることとなった。そもそも元々の村を捨てて開拓領地に来るわけでもなく、出向、留学のような感じであるため人数はそれほど多くはならないわけである。もちろんエルフの数が増えたり、こちらが住みよいから来たいと言うのであればそれを拒むのは出来ないのだが。ともかく、今は八人である。


「まさか我々が来ることになるとは……」

「別にいいんじゃない? あの人間の事を知ってるっていうのは大きいんだろうし」

「まあ、監視みたいなものと考えるべきだろうな」

「……そこまで心配する必要もないと思うけど」

「そうね。わたしはネーシアの監督もたのまれているのもあるけど」


 ネーシア、ヒルック、クルス、ジェイス、ミルシャ、ナターシャ、他二人が開拓領地に来るエルフである。どうやら一度賢哉と出会い、賢哉と関わったためか彼らは賢哉という存在に対し比較的近づきやすい存在だと考えられているようだ。まあ、ナターシャが主導であるとはいえ人間を連れてきたのは彼らであるため、開拓領地に出向くのは彼らに任せるのは一種の罰に近いのかもしれない。多くのエルフにとっては人間の住んでいる場所に行くのは不安の方が大きいだろう。

 そういうわけで彼等とネーシアと他二人が来ることとなった。他二人はどう思っているのかわからないが、まあ彼らがこの場所で色々と学ぶ立場である。


「…………よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

「よろしくお願いしますね、皆さん」

「…………あなたは?」

「私はフェリシア。この開拓領地の領主です」

「…………子供。若い。いいの?」

「色々と理由があるんです」


 開拓領地に来たエルフに領主としてこの地の人間代表であるフェリシアが挨拶をする。エルフ側からはネーシアが代表であるようだ。まあ、彼女はエルフの集落の長であるカルバインの孫であるということから立場はそれなりにあるのだろう。しかし、彼女も挨拶の場面でも普段の態度を変えない。いや、それが素というか、彼女の性格、性質ならば仕方のない所でもあるのかもしれない。一応言葉遣いも対応も丁寧でしっかりとしているのだが。年齢的にはフェリシアと大差はなさそうで、フェリシアが貴族でないためある種対等に近い状況なのが現状悪くない雰囲気になっているのかもしれない。


「……しかし、それ、目見えるのか」

「……え?」

「いや、これ。前髪で目が隠れてるだろ」


 賢哉がネーシアに近づく。前に見た時から気になっていた前髪による目隠れ。ネーシアの目が見えないのもそうであるが、ネーシアからも相手が見にくいはずだ。そういう髪型なのかもしれないが、ゲームや漫画ではないのだからもう少しどうにかならないかと思う所である。目が見えない、というのも相対する立場としては少し色々と相手に疑問的というか不安的というか、目が見えず表情を完全に掴めない、その意志を見きれないのがもやっとする感じである。

 そのため、賢哉はネーシアの目を見ようと近づいて前髪を手で上げる。少々近い、というか、相手の髪に勝手に触れるのは正直言ってマナー違反、セクシャルハラスメント、あまりやってはいけない行為ではないだろうか。特に異性には。


「あっ」


 賢哉の目がネーシアと合う。


「ひゃうあっ!?」

「うおっ!?」

「あうわうあーっ!?」


 眼があった途端、ネーシアが驚き混乱し、滅茶苦茶になって逃げだした。そしてナターシャの後ろに隠れる。


「うひゃうーっ」

「……えっと」

「ごめんなさいね。ネーシアはね、誰かと目を合わせるとかできないのよ、極度の恥ずかしがり屋というか……」

「……それで目を隠していたのか?」


 ネーシアが髪の毛で自分の目を隠していたのは別にファッション的な意味合いがあってではない。ネーシアは対人不信というか、人と目を合わせることのできない性格というか、目が合うと緊張し思考が加速、混乱、暴走し訳の分からない状態になり、まともに話ができなくなるようである。そのためネーシアは自分の目を隠し、相手と目を合わせないように逸らしながら話していた。目をそらしていても隠れているのでわかりにくく、焦点も合いにくい。無口タイプであるが視線さえ合わなければそれなりに話ができるほうである。

 だが、一度目が合ってしまったら、落ち着くまでは訳の分からない暴走状態となり、言葉もまともに話せなくなる。テンパりすぎてどうしようもなくなってしまうのである。


「……面倒くさいことになりそうだ」


 別に目を合わせて話さなくとも会話ができるわけであるが、賢哉はネーシアに魔法を教えると言うことを頼まれている。マンツーマンというわけではない可能性が高いが、目を合わせて離せないような、独特の恥ずかしがり屋の性質を持つネーシアに個人レッスンを行うと言うのはいろんな意味で大変なことになることだろう。まあ、賢哉はそれをやるしかないのであるが。


「………………」


 そんな賢哉の様子を、何やら妙な雰囲気と視線でフェリシアが見つめていた。


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