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 いきなり賢哉に話を振られたフェリシアは戸惑う。賢哉の提案である以上賢哉の意見が重要であり、賢哉が望むのであればそれを通すのもいいとフェリシアは考えている。賢哉は副領主である。ならば賢哉が領地に関する様々な方針を決めてもいい。


「お嬢様」

「アミル……」

「お嬢様の仕事ですよ」


 だが、フェリシアは領主である。この開拓領地の領主、最高位の決定権を持つ者。確かに賢哉が好きに決めて良いこともあるのかもしれないし、必要ならば賢哉だけで決めるべきこともある。場合によっては賢哉がその場でしなければならないこともあるだろう。しかし今回のことは賢哉が起こした出来事を発端として、賢哉の意思や構想が大きく絡んでいるものの、フェリシアに話され領主に対して提案された案件である。すなわちその件に関しては賢哉の方でいくらか活動し根回しをしているものの、フェリシアが最終的に否と決定してしまえば流れてしまう話だ。つまりフェリシアに最終決定権があるのである。


「…………」


 フェリシアはどうしても領主としてはまだ慣れていない部分が多い。この最終決定に関しても、自分で決めると言うことは難しく、間違っていたらどうしようと苦しい思いになる。だが、それこそが彼女の役割、領主である彼女の仕事である。正しかろうと、間違っていようと、領主である彼女が決めなけれが開拓領地のことは始まらない。


「……ケンヤ様の提案を採用します」

「お嬢様……」

「……ただし」


 フェリシアの言葉にアミルは何処か心配そうにフェリシアを見つめた。それはこの採用の決定をしたことでフェリシアが抗議を受けることになるかもしれないからだ。それにより今の領主の役割すら剥奪され貴族ですらなくなる危険もあるかもしれない、だからこそ不安である。彼女にとってフェリシアが良く過ごせることが望みであるがゆえに。

 だがフェリシアもただ賢哉のいうがまま、採用することを決めたわけではなかったようだ。


「このことに関してレッセルを呼び相談したいと思います。そのうえで彼が難しい、不可能だ、駄目だとこの案を聞いていった場合、採用しないことも考えます」

「……それは現時点で決定しないってことか」

「そうなりますね」


 あくまで採用する、という意思は見せたが最終的にこの時点での決定はせず、開拓領地に関して詳しい、まとめ役であるレッセルの意見を聞いたうえで最終的に決定する、ということをフェリシアは告げた。本来フェリシアのように貴族であれば、領主であれば、下々の意見など聞く必要はなく無理やり押し通してもいい。もちろん反発などがあるかもしれないが、本来貴族に一般的な領民は逆らうのは難しい。反対を表することはできてもあくまで意見を言うくらいであり、貴族の決定を覆すことは難しい。

 しかしそれは普通の領地での話だ。この開拓領地においては人の少なさや領地の状況の問題、人心の関係やそもそも以前から開拓領地には貴族が存在せず、貴族の影響力が極めて低いことの問題がある。そのため開拓領地のことに関しては元々開拓領地にいた人間にある程度まかせる方が運用上かなり楽である。もちろん放置していていいわけではなく、賢哉を通してフェリシアも幾らか領地に対して干渉し、より良い発展のために活動している。その行動の成果もあり、今では開拓領地領地の纏め役であったレッセルと話し合い意見を聞いたり運営方針を決めたりできるようになっている。今回いないのは単に賢哉がフェリシアに話を持ち込んだだけであり別にこれからのことを決定する会議とかそういうわけではなかったからである。つまりあくまで個人的な話だったわけだ。


「まあ確かにレッセルから意見を聞くのも必要か……もうちょっとこの話合いに参加できる人物を増やしたいところだな」

「信頼できる人間がいない、話を聞くほどに重要な立場なものが少ない、それほどに能力を持つ人間がいない。そういう人間が欲しいのであればそれだけの能力を持つ人物を探してきてもらえませんか?」

「まあ善処するよ。仮に今回の提案が通ればエルフから少し持ってこれる可能性はあるな」


 現状フェリシア、アミル、賢哉、レッセルの話し合いとなっているのは領地に関して話し合いができる人間が少ないからだ。それだけの知識、纏められるだけの能力と経験、開拓領地の発展に関与できる能力、そして領地経営という物事に寄与できる立場。そのあたりを歩いている一般人を連れてきたところで領地の発展は出来ない。領地に関わることをするならそれに必要な能力を持っていなければいけない。一応賢哉は開拓班の元盗賊の人物や、森の探索に引き連れているナルクなどもいるが、それらもいずれは使えるようにして会議に参加できるようにという考え方で育てている。もっとも今はまだ無理だろう。


「じゃあレッセルを呼んでくる」

「お願いします」


 そうして賢哉がレッセルを呼びに行った。






「亜人か……」


 レッセルは難しい顔をしている。まあ、亜人という存在に関しては誰だって難しい顔になるだろう。元々の歴史的な問題や関係性の問題がある。


「それに関してはレッセルが話してくれたと思うんだが」

「いや、そうだけどよお……まさか本当に見つけて、しかも交流してくるとか誰だって思わねえだろ……」


 レッセルのいうことももっともである。通常亜人に対し話し合いを持ち掛ける、亜人に対して協力関係を築けるほど信頼関係を作れる、というのは中々発想の自転から難しい。そして仮にそれを考えることは出来ても信用されるかどうか怪しい所だ。それだけ人間と亜人の関係は悪かったのだ。だが、その点に関しては賢哉は賢哉だから、という点で納得がいくだろう。亜人と協力することに関して賢哉ならばできてもおかしくはないというくらいに賢哉は出鱈目なのである。


「それで……どうですか?」

「…………まあ、俺らもいろいろと亜人に関して知っていることはある。そこから考えると、複雑なところではあるな。だが……別に亜人と喧嘩してるってわけでもねえ。森で見かけたが、お互い関わることはなかった。少なくともそういう点においては悪印象は抱いてねえ。だから交流しようと思えばできなくもねえだろうな。ただ、ちゃんと交流できるかどうかまではわからんが」

「そうですか」

「……どうでしょう?」

「提案に関しては否定していませんね。ただ、うまくいくかは保証できないということでしょう」


 今回の賢哉の提案、そしてそれの採用に関してレッセルはできない、難しい、駄目とは言っていない。それ自体は開拓領地にとっても様々な恩恵があると言っていい。だが、大前提としてそれが成功するとは限らないと言う点だ。亜人と人間の関係を作ること、かつて作られていたかもしれないお互いの関係を再構築し良好な関係を作り維持する、そんなことは今のところ誰も試していない。ゆえに成功することを保証できない。まあ、それは当然だろう。最初からできる前提の物事はそう多くない。新しい試みならばなおの事。


「……どうする、フェリシア。最終決定は」

「…………」


 不安は大きい。できないかもしれない、間違っているかもしれない、文句や講義が来るかもしれない、フェリシアにとって不安となることは多い。だが、賢哉が努力して交流し、幾らか良い状態で持ち込んできた内容だ。賢哉のフェリシアに対する試練、フェリシアはそう突飛に思考した。実際にはそんなことはない。だがフェリシアは自分が領主として成長するための試練であると思い込んだ。そう思う方が不安は低かった、つまりはある意味逃げの思考だったのかもしれない。ともかくそう考えた結果、やらなければいけないと思ったのである。


「採用します。やりましょう」

「…………わかりました。ケンヤ様、お手伝いをお願いします」

「もちろん」

「俺は皆に話してくるとしよう。まあ、色々言われるかもしれねえが……領主様の判断なら反対はねえだろうよ」


 現状フェリシアを領主として認められるほどフェリシアの貴族としての立派さと言うものはない。ただ、これからの行動の結果、施策の内容と影響、成果によって変わってくる。領地をより良くするために、より良い案を受け入れより良い発展を臨み、領主として立派になること。それがフェリシアにとって必要な領主としての役目であるだろう。



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