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 賢哉はエルフの長、カルバインに自分たちの現状について話す。賢哉だけではどうしても人間たちの現状、フェリシアの所属する国のことすらよく知らない。なので話せることと言えば現状のこと、すなわち開拓領地のことに関してのみである。なお、賢哉の知識の無さにいくらかナルクの方から賢哉のように何も知らない人間ばかりでないと言う指摘が入るものの、ナルクの持つ亜人像、エルフ像と現実のエルフの違いなどが発覚するためカルバインも人間側に伝わっている情報のあまりにも不明確な伝達に呆れている。とはいえ、エルフ側も人間との怨恨に関しては色々ある物の、今の人間が亜人種族に対しそのような見解しか持っていないとなるとまたいろいろと逆に面倒で、同時に関係を新しくできるかもと思う所でもあった。まあ、やはり人間は何処まで行っても人間であり、そもそも他種族という時点で付き合いを作るのは難しい。別にエルフと人間だけではなく、他の亜人種族だってそうなのだろう。同じ人間同士ですら国や人種で争い合うのだから他種族となると余計に争いになる可能性は高い。

 とはいえ、その関係を作り上げなんとか維持するために賢哉が努力する、というのが賢哉の意思である。賢哉の場合その極めて異質で有能な魔法の才がある。その魔法であれば、エルフに対し人間が行う悪行も、エルフから人間に行われる悪行も、その全てを押さえつけることも不可能ではない。安全の管理もその魔法で維持できることだろう。あくまでそれは賢哉が生きている場合に限られるかもしれないが、それでも数十年は維持できる。そしてその間に人間と亜人同士の繋がりを作り新たな関係を構築して共同体制を作る。もちろんその後に関しては保証できないが、それでも現状を改善しかなり生活は良くなるのは間違いないだろう。


「……………………」

「どうだ? 実際にやってみないと分からないことも多いし、思ったよりも反発が大きい可能性もある。だけど、今のままずっとこのままってわけにもいかないだろう。いずれはこの暗黒領域も開拓される。十年、百年では無理でも、千年とかそこまで長い目で見たらどうだ? 人間はエルフのように長生きできないから想像もできないが、エルフの中にはあんたみたいに長生きしているのもいるんだろう? そういう視点から見て長い目で見た場合どうなるか、っていうのも想像は出来るんじゃないか? 今は無理でもいずれ、将来、本当に未来にはいずれお互い出会うことになる。その時戦いになるか、それとも友好をとれるか。今ここで話をなかったことにしてもいいが、その場合その時のことがわからなくなるだろう。なら今いい関係を作っておいた方がいいんじゃないかと俺は思う」

「本当に人間にそこまでできるとは私には思えん……が、お前の存在は少々異質だ。お前がそれをすると言うのであれば、否定はできないかもしれない」


 カルバインから見ても賢哉という存在はあまりにも異常で異質に過ぎる。その存在に関しては最初は色々と訝しく思っていても、実際に軽く魔法を見せられればそういう反応となってしまう。老エルフから見てもそうなるのであれば確実に異常な存在であるだろう。それが行う、というのであれば正直彼に否定しきるのは難しいものとなる。

 もちろん賢哉のいうことはあくまで想像……いや、妄想だろう。現実に人間がそこまで立派な行動ができるかと言えば正直人間に対し期待しすぎと言わざるを得ないだろう。しかし、賢哉のいう通りかなり先まで考えれば、実際に実現できないとは言い切れない。まともに開拓されるかはわからないものの、多くの捜索における人間の欲は極めて醜く大きなものとされており、この世界でも多くの国を持ち、多方面に広がり繁栄していることからもその欲のもつ向上性がわかるだろう。別にそれは人間だけではないが、人間は特に強いとされる。


「しかし、それが可能かどうかの問題もあるだろう」

「まあこの話に関してはあくまで俺の独断でもあるからな。俺は副領主で上に領主がいる。この話を持ち込んで駄目だと拒否されてしまえば開拓領地としてはエルフとのつながりを作るのは実現できない」


 フェリシアがこの話を受け入れるかどうか、そうでなくとも領地に住まう領民たちが受け入れるかどうかの問題もある。まあ、領地の運営は貴族であるフェリシアに委ねられるため、多少の領民の反対があったところで押し通そうと思えば押し通せる。それに人と亜人という種族違いの問題はあるものの、開拓領地の生活がよくなるのであれば自然と反対は少なくなるだろう。もちろんなくなるとは言えないが。


「……そのような状況でよく話を進めようと思ったものだ」

「確かに問題は多いかもな。だが、領地としては許容されないとしても俺個人が行う上では問題ないだろう?」

「なに?」

「俺個人でエルフの手伝いをして、エルフからその分の報酬として育てられるような野菜野草の類を貰ったり、エルフの手伝いをしながらエルフの持つ技術を学んだり、その逆でこちらから伝えたり。そういうことをする分には別にいいんじゃないかなと思ってる」


 それは人間側にとって、場合によっては裏切りとみられるような行為かもしれない。とはいえ、賢哉としても秘密裏にそのような行いをするのは極めて容易であるし、そもそもこれは拒否されエルフとのつながりが作られない場合の想定である。


「まあ、そもそもお互いの関係性がきちんと作られれば問題はないんだ」

「……確かに。我々の方でお前たちを受け入れられるかどうかはわからないが、話だけはしてみよう。我々も今の生活を望んでいるとはいいがたい。より良い生活ができるのであればその方がいい。死者も少なくなることだろう」

「俺もこの話を持って行って了承を貰わないとな……」


 結局のところ、彼ら個人だけで話し合いがなされたところで全体としてその話の内容が受け入れられるかが問題である。賢哉の場合はフェリシアの説得、場合によっては領地に流布する必要がある。カルバインの場合、一緒に暮らしているエルフたちの説得が問題となるだろう。場合によっては人間と仲良くしようと言う主張をするエルフによってカルバイン自体が追い出されかねない危険もある。しかし、彼らエルフもずっと今の危険と隣り合わせの生活を望んでいるわけではない。その方向性からカルバインは話をするつもりである。何も協力関係ではなく、相手を利用する関係になればいいのである。ただ相手からも利用される関係、つまり利用し利用される関係に。ただ、利用されるという部分は他のエルフにはわからないように誘導しなければ難しいだろう。

 と、そんな話をして彼らはこの話についてお互い話すべき相手に話し、意見を統一すると言うことになった。そうしてエルフの集落からナルクを連れて賢哉は開拓領地に戻っていったのである。エルフの集落に結界を置き土産にして。


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