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「それでナターシャ、話って?」
「流石に人間を集落に連れていくのは……」
「別にダメって言われているわけではないけどね。でも、無理だと思うけど?」
「断固反対する」
「……はあ。うん、私も人間を連れていくって言うのは反対なのよ」
「……え? でもさっき」
ナターシャの反応からどちらかというと人間に対し肯定的な反応をしているように見えた。ナターシャはそこにいる魔法使いの人間を連れて帰ると言うこと自体に対し仕方ないと言った感じで受け入れている。ゆえに他のエルフはそのナターシャの意見に対し反対的な流れを見せていた。しかし、ナターシャはそうではないと自分で言う。
「ええ、わかってる。彼を集落に連れていくと言うことに関してでしょう? 彼以外の人間なら絶対に連れていくとは言わないけど、彼は少し無理なのよ」
「……まさかナターシャ!」
「違うわよっ!? 絶対に違うから! 何か変な勘違いしてそうだから言うけど! 絶対に違うしあり得ないから!?」
「結局何で、ってことを聞きたいんだけど?」
「そうね。どういうことなの?」
あらためてナターシャに賢哉を連れれていくことに対して肯定的な理由について訊ねる。
「まず……最初遭った時点でおかしいとは思わなかったの?」
「何がだ」
「私はあなたたちに置いていかれて、あの人間に助けられた。まあ、そこまではいいんだけど。その後、私はあなたたちに追いついた。これはあなたたちが戦っていて動きを止めていたからになるけど、それでもどこに行ったかが分かるわけでもないし場所もとても離れていた。だけどあなたたちの場所を知っているはずもないのに私たちはあなたたちの場所にたどり着いた。これはどうしてかしら?」
「え……」
「そういえば……」
「……あまり意識してなかったけど、確かにへんね」
「魔法使い、かな?」
「クルス?」
「いや、その魔法使い以外に変なのありえないし?」
「まあ、それ以外にはないわよね……そう、彼に皆を見つけてもらったと言うわけ」
「見つけてもらったか」
「まあ、魔法使いならそのようなことも……できるのか?」
ヒルック達エルフも魔法と言うものは知っているし、使える者もいる。しかし、その魔法を使って人探しをできるかと問われれば……わからない、たぶんできないと答えることになるだろう。実際の所そのような魔法があるかどうかに関しては彼らは知りえない。人間の魔法に関して攻撃的な魔法は自分たちが受けた記憶や体験談などから知っている者もあるが、そういった何か手助けを行うような魔法とかは知りえない、知りえる機会がない。
「ふん。まあ人間ならそのような魔法も知っていよう」
「私達が知らないからといってないとは言えないものね」
「まあ、そうなんだけど……彼は私に探し物を見つける魔法、というものをかけたわ。そしたら今あなたたちがいる場所を刺す何か変なものが頭の上に現れて、こっちにあなたたちがいると主張したの。それに従っていくと本当にあなたたちがいた、そういうわけ」
「ほう、そんな魔法があるのか」
「なくしものがあっても見つけやすそうでいいね」
「………………そんな魔法が」
「かなり危険な魔法じゃないの、それ?」
「危険?」
「ええ。だって私たちの居場所をナターシャが知っていたわけでもないでしょ。なのにその魔法は私たちの方を指したわけでしょ」
「…………知らなくても必要な情報を指示した、か」
ヒルック達がどこにいたかは彼ら以外の何物も知りえない情報だ。ナターシャすら知らないはずの上方であると言うのに、賢哉の使った魔法はナターシャの探し求める仲間の居場所を指し示した。一体なぜ指し示すことができたのかという疑問はあるが、つまりこれは探している物を的確に示すことのできる魔法であると言うことだ。もしかしたらヒルック達とナターシャのように自分とかかわりのある物でないとできないのかもしれない。だがそうでなかったならば? 自分と関係がなくてもその魔法で探し求めることができるとすれば。自分たちが連れて行かずともエルフという存在を知った賢哉はその集落の場所を確実に探し当てることができると言うことになる。
いきなり人間の魔法使いが起きれば集落で大きな騒動になることは間違いない。場合によってはエルフ側から先制攻撃をして逆に大きな戦いに発展しかねない。過去の出来事から人間に対し敵対心を持つエルフは少なくない。賢哉は副領主である。もし攻撃してしまえば確実に人間側との大きな問題になる。それに賢哉の実力に関しても不明点が多い。魔法使いであるが、どのような魔法を使えるのかがわからない。下手をすれば集落を焼き払うくらいはできるのでは? 仮にエルフの仲間が無事でも建物や食料を破壊されれば相打ちで賢哉を倒せても困ることになる。そもそも賢哉はエルフとの関わり方はかなり穏便な形にしようとしている。ならば話し合いをしたうえで断り追い返す方が面倒は少ないはず。
等々、いろいろと彼らは考える。ナターシャが賢哉を連れていくと言った理由はつまりは賢哉の魔法があればどっちを選んだところで集落に賢哉が来る。そして下手に賢哉が来ることで争いになり面倒ごとに発展しかねないのを自分たちと一緒に連れていくことで回避する意図がある、ということである。
「まあ、そういうことだから。彼を連れて言ったうえで話し合いをさせた方が安全なのはわかる?」
「……一応はな」
「納得はいかんが……」
「しかたないんじゃないかな?」
「ええ、そうね……」
そういうことでエルフたちはナターシャの意見に対し一応の納得は見せる。ただ、やはり人間を連れていくと言うこと自体にはあまり肯定的ではない。極端に否定的なのはヒルックだけだが、許容されないだろうと言う考えは全員にある。
「……とりあえずみんな納得してくれたみたいだから、ついてきていいわよ」
「ああ。まあ、駄目ならダメでこちらで探させてもらうだけだったからな」
「だって……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
賢哉の魔法はそれくらい出鱈目な物である。まあ、納得はいかないかもしれないが。