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「待ちやがれっ!」

「っ!」


 森の中に逃げた二人。しかし、それを盗賊たちは追ってくる。まあ、それもそうだろう。彼らにとって見目麗しい女性が二人。それを逃がすわけもない。森の仲と言えども、そもそも彼らは森からやってきたわけであり、ホームグラウンドというほどではないにしても、森に在る程度は適応している。もちろん森の動物魔物を相手にできるほど優秀ではないし、追ってとしてやってきた人数では流石に獣が襲ってくる場合逃げるしかないが、現状ではまだ大丈夫である以上二人を負わない理由がない。

 そもそも、森に慣れ体力もある盗賊の男たちと、馬車に乗って日常生活以上の能力を必要としない貴族のお嬢様とその従者……従者はまだ体力はあるかもしれないが、貴族のお嬢様の体力はかなり乏しいものであるだろう。追いかけっこをしたところでどこまで逃げられるか。


「あっ」

「っ! お嬢様っ!」


 と、そんなことを言っている間に貴族のお嬢様は自身を連れている従者の手を放してしまう。身の大きさも違えば、その移動速度も違う。体力も違うし進む意思もまた違う。そんな中無理やり手を握り引っ張ったところでいずれ限界が来るのは当然事だろう。そして、手を放した結果、前へと引っ張られる力はそのまま少女の体を倒してしまう。


「いっ、つ……」

「大丈夫ですか!?」

「……ええ、大丈夫」


 怪我はしていない。ただ、勢いがあるのでそれなりに痛みはある。だが大丈夫は大丈夫だろう……問題はその歩みを止めたこと。


「よう。追いついたぜ?」

「っ!」


 追手が三人。盗賊たちが二人に追いついた。従者は少女を守るように、その前に立ちふさがる。


「それ以上近づかないでください」

「はっ。俺らを何だと思ってやがる? そんなこと言っても聞くわけねえだろ」

「……お嬢様に手を出さないでください。あなた方の言うことは私が聞きます」

「ほう」


 にやにやとした笑みを従者の女性に向ける男。その笑みの裏、思考の中ではどんなことを考えているのやら。


「なんでもか?」

「……なんでも、です」


 従者が答える。その言葉に男たちが大笑いを始めた。


「……っ!」

「はははっ。笑えるわ。くっそおもしろいわな、お前。なんで俺らがそんな言葉に従わなきゃいけねえんだよ。だいたい、お前がなんでもするー、とか言わなくても俺らが好き勝手に使うんだ。別にお前から何かする必要はねえ。その体の上から下までたっぷり、堪能してやるよ。そっちの小娘もな? ま、でかくもねえしつまんなさそうだが、その手の趣味の奴もいるだろうけどな?」

「させ、うぐっ!」

「アミルッ!」


 従者が何とか男たちを抑えようとするが、そもそも戦闘能力が低い少女の世話をするメイドではどうしようもない。抵抗しようとし、容赦なく男たちに殴られる。女性の顔を。


「別に俺たちはてめえらを売っ払ったりしねえ。だからよ、別に顔がぐちゃぐちゃにつぶれてようや、穴がありゃいいんだ。ああ、腕と足も壊しとくか?」

「おい! 口や手が使えなくなるじゃねえか!」

「おお、それもそうか」


 ぎゃはは、と少々下品に過ぎる笑いを盗賊たちはする。そもそもその会話の内容に関してもあまりにも下品、下世話。品性の欠片もない完璧に盗賊に落ちたとんでもなく屑であると思える人間性である。獣か何かだろうか。


「さーて、この二人をとっとと連れていくか」

「どう楽しむ?」

「さあな。とりあえずうちんとこの頭に渡してからの確認じゃねえか?」

「今ここでちょっと楽しんでも問題ないよな?」

「おお。他の奴もやってるしな。ま、後でぶん殴られるかもしれねえが……」


 視線が少女に向く。その視線にびくりと少女が体を震わせる。彼らの会話の意味が全く分からないと言うわけではない。仮に理解できずとも、その内容が自分にとって不穏なものであることは推測できるだろう。


「あっちはだめそうだが、こっちの女は好きにしていいだろう」

「アミルッ!」

「小娘にお前もこうなるんだ、って見せつけてやるのも面白いだろ」

「おお、確かに。ひひっ、じゃあ楽しむか」

「っ!!」


 少女が従者に起きる出来事に体を震わせ、従者は自分に伸ばされる魔の手に体を固くする。どちらも、それは望まぬことであり、恐怖する事柄だ。


「楽しむねえ。実に下種い展開でちょっと吐き気がして来るわな」

「ああ?」


 突然森の中からする声。それに男のうちの一人が反応する。


「ああ、えっと、盗賊さん? 人類的に価値の無い屑下種外道の三拍子そろった糞に劣るゴミ野郎どもかな?」

「なんだとっ!?」

「こんな森で女の子二人を襲おうとしてるんだ。ゴミ扱いでも構わないだろう? それとも人間としてまともなつもりか? そうならごめんな、多分まともって言葉自体がおかしいことになってるんだろ? 多分まともって言葉以外にも普通の人間を表すような言葉があると思うんだが、お前ら知らない? 知らないよな。知ってりゃこんなとこで女押し倒してげひげひ笑ってないだろ」

「てめえっ!」


 散々煽られて流石に男たちも我慢が限界で、現れた声の主、まだ少年と言った方が正しいような黒髪黒目の人物に対して斬りかかる。


「短気だな。いや、むしろもっと早く暴発する者かと思ったが」

「ぐあっ!?」

「なにっ!?」

「なんだっ!?」


 それに対し少年はただ手に持った杖を振るうのみ。杖を振るう……いつの間に少年はその杖を持っていたのか。しかし、その杖を振るった瞬間、男が中空に表れた光の縄によって縛られる。手首、腕、足、がんじがらめに縛られ動けなくなる。


「お前、なにしやがった!」

「さあなんでしょう? 何でもいいだろ別に」

「おい、動くなっ! 動けばこいつが……っ!?」

「悪いな。そういうの、やらせる気ないんだわ。さて……お前はどうする? 手を上げて抵抗するのを辞めるか? それともそのまま逆転を狙ってみるか?」

「………………」


 残った男は考える。そして、手を上げた。


「敵いそうにねえからやめとくわ」

「そうか。なら……」

「っ!」


 少年が背を向けた瞬間、男が少年に襲い掛かる。やめる、と言ったがそれは嘘、背を向けた時、好きができた時に襲い掛かるつもりだった。もちろんそれは少年も可能性を承知している。既に少年は杖を振るっていた。


「知ってたよ」

「がっ!?」


 他の男と同じように、最後の男も光の縄で捕らわれた。


「ふう。さて……これで大人しく話し合いができるか。えっと、大丈夫か? っと、そっちの女性の方は治療したほうがいいか。そこまで大した怪我じゃないが、顔に傷とかいやだもんな」

「いえ……別に構いません」


 従者の女性は新しく現れた少年に対し多大な警戒を見せる。当たり前と言えば当たり前だ。盗賊の男三人を瞬く間にとらえた少年の方が脅威なのだから。その様子に少年は苦笑し、杖を振るう。


「っ……これは」

「ま、話くらいいいだろう? そちらは助けられたわけだしな。こっちとしても、別に打算無しで助けたわけじゃない」


 少年の方も完全に無償で助けるつもりではなかった。少年の方は少年の方で彼女たちを助ける意図があったのである。



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