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「う…………ん…………」

「お、そろそろ目覚めるかな?」


 亜人女性が意識を取り戻すかのような反応を見せる。それに賢哉が気づいた。


「ここは……っ! 人間!?」


 さっ、と女性が逃げるように体を動かす。それに対し賢哉が待ったをかける。


「ストップ! 少し話を聞いてくれないか? そっちも今の状況、自分で理解できてるか? 怪我していたことは? 気絶して倒れていたことは? ここは森の仲だってことはわかる?」

「何を……あ、え、いえ…………確か………………」

「詳しく事情を放してくれないか? 人間と亜人の間でいろいろあったのは知っているが、今はお互い不干渉の期間が長いかどうかは知らないが、特に何もない……のかどうかもわからないが。俺、俺たちの方から何かしようとは思っていない。どちらかというと手を借りたい、手助けをしたい、お互い手を取り合って助け合いたいと言う方向性なんだ。だから何か困っていることがあったら話してほしい。倒れていた事情についても気になるしな? いいかい?」

「………………」


 亜人女性の賢哉を見る目は疑わしいものを見る目である。まあ、安易に信用してほしいと言った所で信用してもらえるはずもないだろう。しかし、彼女もどうして今の状況になっているのか、なぜ自分はこの場所に一人でいるのか、森の中に何故いるのかなど、そのあたりの事を思い出してきた。そして彼女だけでは色々と問題がある状況になっていることを理解し始める。


「…………その」

「何だ?」

「あなたたちは、倒れていた私を見つけたの?」

「ああ。ついでにけがの治療もしたんだが」

「……本当だ。えっと、その、ありがとう。それで……その……悪いとは思うのだけど、私の仲間を探すのを手伝ってくれない?」

「それくらいなら構わない。ただ……代わりにいろいろと教えてほしい」

「………………そうね、少しくらいなら」

「だってさ。よし、ナルク。この亜人の人の仲間を探すとするか」

「いや、するかじゃないですよ? どうやって探すんです?」


 いきなり話を振られたこれまで特に話に入ってこれるわけではなかったナルク。突然の賢哉の提案にナルクとしても疑問が強い。探すと言ってもどうやって亜人女性の仲間を探すのか。


「……その亜人女性って言うのやめてくれない?」

「じゃあ女エルフさん?」

「ナターシャでいいわっ! 変な呼び方はやめてよねっ!」

「よし。じゃあナターシャ、少し魔法を使うから抵抗なしな」

「え?」


 杖を一振り。それだけで魔法が使われる。しかも退陣に指定したものだ。


「っ! 何をしたの!?」

「それ」

「え?」


 ナターシャの頭の上に矢印マークが一つ。ぴょんぴょんと主張しながら一方向を刺している。


「なにこれ……」

「魔法」

「絶対にこんな魔法ないわよっ!? って言うかなにこれ、何の意味があるの!?」

「探し物の方向を指してくれる魔法。それが指している方向に探し物があるから」

「……便利ですね、事実なら」

「……確かに便利なんでしょうけど、事実なら」

「まー、とりあえずそれが指している方向に行ってみようか。っていうか、そっちに向かいながらでいいから状況説明をしてもらえるか? 倒れていた理由とか、何かに襲われていた可能性、それにあの怪我で何故獣に襲われていないか、色々と気になることが多いしな」

「え、ええ…………」


 賢哉の行っていることは極めて有用的であるのかもしれない。しかし、事実として頭の痛い訳の分からないことも珍しくはない。今回のもそれである。まあ、役には立つのだろう。






「倒れていたのは何でだ?」

「森にいた獣に襲われたからよ。怪我をしていたのは見たんでしょう?」


 矢印の方向に小走りで向かいながら進む三人。その間にナターシャが自分の状況についての解説を始める。


「でも一体も見なかったが……」

「残っていたら私が襲われたわよ、それ。全部何とかして連れて行ったのよ……多分。匂いでおびき寄せる手段、幻覚剤、後は私のことを煙幕で隠したとか。私が残っている時点で私は気付かれないように処置されたんでしょうし……」

「それ、どうやってそんなことを?」

「色々とあるのよ。森に棲んでいる以上草木を利用して作れるものは可能な限り使って色々な物を作ってるの。茸、薬草、樹皮、花粉に花弁、果実、種子、本当にあらゆる植物関連の物をね」

「エルフっぽい……」

「何がエルフっぽいのかしら……」


 草花を使っている所である。まあ、これは賢哉の所感である。実際には草花以外にもいろいろと彼女たちは利用している。ただ、彼女たちが他と比べてより専門的、より極めている分野が植物関連であると言うだけだ。まあ、匂い消しや生物の誘導に使ったりとかするのが植物関連の専門的内容かと言われると少々疑問ではある。だが少なくとも賢哉たち開拓領地の人間のように単に建物の建材や燃料、野菜として育成したり食材に使ったり以外の多種多様な内容で使用されているようではある。


「ところでエルフでいいのか?」

「今更? まあ、エルフでいいわよ。森の民、って呼ばれていたこともあるけど」


 どうやらエルフでいいらしい。まあナルクもエルフという言葉に反応していたし、彼女たちの種族はエルフなのだろう。


「なに、ここにエルフって結構いるの?」

「私達のところ以外でいるって言う話は聞かないわ。そもそも森を探索すること自体大変で、あまり森に入れないのよ。場合によっては毎回一人二人は犠牲になる危険があるくらいで……まったく、私を助けなくてもよかったのに……」

「普段は見捨てるのか?」

「……できる限り見捨てず助けたい、とは皆思ってるけど、森は過酷で獣たちは強いわ。残った者が生き残るので精一杯。でも、本当はもっと楽に暮らしたいとは思ってるわ。こんな場所じゃなくね。今でさえ人数はだいぶ減ってるし……」

「繁殖力が低いって聞くがマジ? あと年齢もすごく長生きだとか」

「普通の人より何倍も長い気はするけど、そこまでじゃないわよ……って、なんで私は今日知り合ったばかりの相手に何もかも全部教えてるわけ!?」

「いいだろ別に。困ることじゃないし」

「困るわよっ!? ああ、もう! このまま連れて行っていいのかしら!?」

「一人でどうにかできるのか? まあ、仲間だけですでに解決しているかもしれないが」

「むうっ!」


 小走りで仲間のところに向かうナターシャと賢哉、ついでに話に入ってこれないがなんとかついてきているナルク。


「っと! これは……」

「まだ戦ってる! まあ数が多かったものね! 逃げるので手一杯だったのかしら!? それって駄目でしょう!?」


 ナターシャを逃がした仲間のエルフたちはまだ傷つきながら獣の群れと戦っているようだ。ナターシャを助けるため逃げながら引き付けたはいいが、逆にその結果自分たちが危ないことになっているらしい。一を救うために自分たちが犠牲になるかもしれない状態になるのはどうなのか。後で助けに向かうことができなければどちらもお陀仏だったかもしれないと言うのに。まあ、そのあたりは色々と考慮していたのかもしれない。ただ、うまくいかなかっただけ……なのだろう。


「とりあえず助けるか」

「……お願い!」


 ちょうどいい所に賢哉という存在がいる。彼がいる限り、とりあえずどのような脅威が来たところでとりあえず大丈夫……だと思われる。



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