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賢哉の仕事は多い。その魔法の力ってのものであるが、ケンヤが担う仕事はとても多い。まあ彼の行っている仕事は他の誰かではあっさりとできるものでないものばかりなので仕事が多いことは仕方がないことである。内容としては他の領地とつながる街道の整備、領地内の水路の調整、未開拓地域の森の探索と調査、領地内における安全管理、居住地の建築と土台となる部分の整備など、他にもフェリシア達貴族側の仕事の手伝いから副領主としての働きにこの世界における一般常識の学習など、行っていることは多岐にわたっている。それほど忙しいということもあって賢哉の行っている仕事はそれぞれ一気に進められることはない。とはいえ、必要な仕事がそれほど多くないものも多く、そこまで賢哉の手入れが必要な者ばかりではないが。
まず基本的な方針として開拓領地の開墾と領地自体の整備を基本的にはメインとしておいている。何故ならばそもそもからして領地にいる人間の生存活動が優先的になるからである。開拓領地の人間、連れてきた人員、元盗賊、そしてフェリシア達、現在の開拓領地は元々住んでいた人間の数に対してかなり増えている。食料も持ってきているが、当初の開拓領地は食うも困るくらいの窮状であったと言える。そんな状態で人ばかり増えて開墾も進まなければ食糧難に陥るのは目に見えている。まずは領地自体の土壌をよくし、開墾を進め食料生産を進めていかなければならない。とはいえ、すぐに食料が作られるはずもない。賢哉の使う魔法の中には植物の成長を早めたり、肥料作成の魔法もあるが、それでも時間はかかるだろう。なので現在の食糧事情は賢哉とナルクが森に入って探索を進め、狩った獣を食料としたり野草、果実の類を確保しそれを食事とするのが一般的である。食人関しては個人宅での食事ではなく全員で集まっての形、配給に近い形になっている。これは秘を扱うための木材の総数の問題があるだろう。
現状の賢哉の仕事自体は基本的な方針に手を貸してはいるものの、森の探索と調査、そしてそれに伴う食糧確保が主である。他の仕事もしているが何よりもこの地に住まう人間の生存が優先的であるためそちらを優先せざるを得ない。特に川を見つけたことから魚などを確保し生け簀のようなものを作ることや、場合によっては川にまで行ける道のりを作ること、釣りや小さな水辺を作りそこでの食料確保も考慮に入れている。また、水源以外でも果実のなる木を運び出し領地での果実作成を考えたり、果実の種を植え領地に果樹園みたいなものを作ることも視野に入れるが、流石にこれは賢哉の魔法合っても時間がかかる。他にも家畜として野生の猪を家畜化、豚として確保することや、鶏のような飛べない鳥の卵や肉を食料とすることも考えている。もっとも家畜は彼らの餌が必要になるので現状では難しいためあくまで考慮に入れる程度ではあるが。賢哉の仕事はそういった領地の外に出る仕事が多いが、基本的に開拓領地は開拓領地に住まう人間に任せている。フェリシアとしても領地の人間に指示を出す経験もない間までは困る死、開拓領地におけることは開拓領地の人間でできないと将来的には困るだろう。あくまで賢哉は彼らの行う仕事のサポートを主体とするべきなのである。とはいえ現状では賢哉のやることも多い。水路とか街道とか。賢哉自身も手を付けているが、彼もあくまで元々一般的な市民であり、領地経営に関して詳しく知っているわけではなく試しては修正するということも珍しくない。
そして彼の行う大規模仕事の道路工事。道の整備と周囲の森、木々を切り拓き道そのものを広くすること。これは賢哉のする仕事としては大規模でそれなりに大きな魔力を使うことになり、また範囲も広いので基本的に一日仕事し一日休み、という感じで行われている。もっとも規模がでかいが行う作業自体は道を一定の状態に整えることと木々を切ることと規模に対し比較的単純で蟻、一日の休みがあったとしても結構な速度で行われている。ただ、フェリシア側はそれで問題はないが、フェリシア側ですべてができるわけではない。開拓領地はその名の通り領地であり、その道は全てが開拓領地側の管理にあるわけではない。いくらかつながる道は他の貴族、開拓領地に繋がる道に接する領地の管理にある。そのためある地点までは賢哉で道を良くできるが、それ以降の範囲には手を付けられない。仮に開拓領地側の道がよくなったとしてもそれから先がよくならなければ果たして人が来るかどうかは難しい所である。賢哉たちで勝手に手を付けるには領地同士、貴族同士の問題となりかねないし、賢哉の能力が知られてしまうことを考えると難しい所である。とはいえ、開拓領地側が頑張ったのにそれに接する領地側が手を付けない、となると貴族たちにどのような目で見られるかを考えると全く手を付けないでいられるわけもないかもしれないが。
と、そんな感じで領地の方向性は決められ、道はでき開拓領地もある程度環境は良くなった。良くはなったが、それだけである。
「……道は出来たんですよね?」
「ああ」
「でも、商人とか旅人は来ない……」
「お嬢様、それは変な話ではないと思いますが……」
「どういうことですか?」
「根本的にここで得られる物がないから、だな。道だけ良くしたところで来る意味がなければ来ない。商人は金の匂いに敏感だって言うしな」
「……そういうことです」
現在道が整備された、とはいえ開拓領地には何か役に立つようなもの、金になるようなもの、先立つものが全くと言っていいほどない。もちろん今のうちに開拓領地の経済、経営に絡むことで結構な利権を得ることは不可能ではないが、そもそもからしてそこまで冒険してまで開拓領地に価値があるかと言えば、基本的にはない。よほど食い詰めイチかバチか、といった商人か、またはとても安定し開拓領地にも手を出すことのできる大規模な商会か、そのあたりになるだろう。もっとも、現状の開拓領地はまったくと言っていい程何もないのでどうしようもないが。
「ま、ここの開拓状況じゃ誰も来ないってのは仕方ねえ」
「……現在はどういう状況ですか?」
「食料に関しちゃ……副領主さんの活躍もあってそれなりにはある。肉ばっかりだけどな。野菜もないとつらいが、今の開墾と簡単に作れる作物、それと……あの例の魔法ってやつでなんとか食いつなげるだろうな。つっても、いつまでも副領主さんに頼っちゃらんねえけどな」
「今はナルクだけだが、そのうち森に入って探索できる人間を増やしたいな。武器や防具も……俺が作った簡単なものばかりじゃなくてちゃんとしたものが欲しい」
「それにはお金が足りませんし、開拓領地にその手のことができる人間はいません。他の領地に出向いて購入するしかないですね」
「……ごめんなさい、お金が足りなくて」
「いや、そっちは人員を増やすのに使ったりしてるし、フェリシアが悪いわけじゃないからな?」
「ええ。ケンヤ様が悪いんです」
「ははは……」
レッセルも加入し話し合いも進むようにはなっているが、基本的に開拓領地は現状ではどうしようもないことばかりである。それぞれの専門分野を行える人材がおらず、それぞれが兼任してやっているようなもの。それでもできないものは賢哉の魔法任せであり、魔法でも不可能であれば手は出されない。
「俺らにゃどうしようもないことだな。まあ、もしかしたらできないこともねえかもしれないが……」
「どういうことですかレッセル」
「森の中でな、人の姿……いや、人に似た何かの姿を見たことがあるって話がある」
「森の中に? でも……他の領地から人が来るとは思えませんけど」
「まあ、人間ならそうだろうけどな。俗にいう亜人、魔族、そういうやつらも未開拓地域にはいるんだ」
「……亜人ですか」
「魔族? 彼らは人間の敵なのでは……?」
「味方になる可能性はあるのか? いや、味方にはならずとも取引できる可能性とかは……」
「わからん。あくまで姿を見ただけだしな。だけど、この暗黒領域で暮らしているのなら……相応に困っているかもしれねえし、手を取り合える可能性もなくはないんじゃねえか? それに他の国や人種の人間もいるかもしれねえ。なにせ暗黒領域とも呼ばれるほど謎が多い場所だからな、この近辺は」
未開拓地域、暗黒領域。そこに開拓領地を作り住まう人間以外ももしかしたら存在するかもしれない。場合によってはそういう存在の手を借りる、味方に引き入れる、そういうことも考慮にいれてもいいかもしれない、そういう提案をレッセルはしたのである。