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フェリシア、アミル、賢哉は開拓領地に奴隷と元娼婦を連れて戻って来た。それに関しては開拓領地にいた者は少々訝し気というか、何故そんなことをと思った次第ではあるが、とりあえずは受け入れられている。まあ、彼らも元々は現状があまりに酷く逃げ出してなんとかやり直せる場所を求めてこの地に来たようなものである以上、貴族に買われてきた彼らに関しても自分たちに近い物であると考えることもできるはずだろう。元盗賊たちに関しても別に人を買って連れてきたからなんだと言う話だ。彼等の場合は貴族側の事を気にしても仕方がないと言うか、彼ら自身奴隷に近い立場ともいえる。そういう点では奴隷に親近感を覚えるのではないだろうか。奴隷解放して領民にする、ということにかんしては現状の所まだ判断は保留である。簡単に奴隷を解放すると言うのもよくないし、解放した時点で逃げられかねない。そういう点では娼婦も危ういかもしれないが、彼女らが仮に逃げるにしても今から逃げるには少々遅いと言うか、開拓領地まで来てからの逃走は難しい。まあ逃げようと思えば逃げられるかもしれないが、逃げた所で彼女らがどこでどういいるかの問題もあるだろう。
まあ、そういう連れてきた人員に関しての話はさておき。開拓領地に戻って来た賢哉は仕事が多い。
まず元盗賊たちを連れての開拓。これに関しては購入した奴隷も含め行うこととなった。奴隷に関しては能力を考慮して購入されたが現状能力があるからと言ってやれること自体が少ない。男手である以上労力を捨て置かず使う方が賢明である。女性陣に関しては、現状では畑の開拓だろう。それこそ労力として男手を使うのはどうかとも思うが、しかしなんだかんだで食料も必要である。人数も増えた以上購入して増やした食料もすぐに失われるだろう。また、当座の方針として単純に開拓だけをするのではなく森の探索なども考慮に入れる。獣などを退治しつつ食料を確保、野菜や果実などを回収し場合によっては栽培、水源も一応今のところ問題がないが、湖や川などの水辺を見つけておきたい。それ以外にも森に何があるか、他に誰かいたりするかもしれないと言う点などで調査も必要だろう。場合によっては資源となる鉱物が見つかる場合もある。
そして賢哉には他にも様々な仕事がある。副領主として領主であるフェリシアの手伝いなども行うし、開拓に関わっていたりもするが、それ以上に彼の魔法の有用性が極めて高い点が重要である。現在の開拓領地はまだまだ人が少なく手も付けられておらず建物もない。そんな場所を整地し、土台を作り、建物を完成させるのを簡単に魔法で行える賢哉は一流の大工である。いや、厳密には魔法での建築には耐久年数の問題があるのであくまで仮の居住地とするのがいいわけであるが、少なくとも当面住むだけならその簡易的な建物で十分である。現状住まう所を作り、しばらくはそこに住まう。その間に本当の意味での住居を作成する。問題があるとすれば正当な教育を受けた大工が存在していない点だろう。日曜大工レベルならば行える者も開拓領地では必要に迫られいるが、しかし本当に建築を行えるレベルとなると稀少だろう。まあ、それに関しては一つ一つなんとか頑張って作り上げていくしかない。フェリシアの住む領主館のような建物は流石に外注する必要があるかもしれないが。
それとは別に、建物とは別の方向性に関してフェリシア含むアミルおよび従者達、そして元娼婦の面々、一部の開拓領地の人員などからも提案があった。
「いや、流石にそれは厳しいんだけど?」
「できませんか?」
「正直言ってまだ森の探索も住んでない。湖とか池があったとしても厳しい。川ならまだ難しくはないかもしれないが……っていうか、普通に考えて厳しい。俺自身ある程度の知識はあるが、流石に下水を作れって言われても困る」
下水。即ちトイレ事情である。まあトイレ以外にも排水に関しての問題もあるだろう。シャワーも風呂もないこの場所では体を洗うのも難儀する。一応水源として井戸などもなくはない。井戸くらいならば賢哉でもそれほど作るのは大変ではない。しかし下水となるとまたいろいろと面倒だ。いや、できなくはないのだが、単純に全てを魔法でやろうとすると手間も消耗も大きいのである。一度完全にシステムを構築し、現実に存在するものだけでできるようにしてしまえばその限りではないが、全て魔法でやってしまうとなると大変である。
もちろんフェリシアも賢哉がつきっきりで全てを行えと言うわけではない。彼女としても自分たちの排泄物の処理をさせるのは周知があることだろう。ゆえにそのシステム、下水の流れを作ってほしいと言うことになるが、それ自体がそもそも大変である。ちなみに今までは穴を掘った場所でやって埋めるなど昔のやり方に近い。あとは壺とかそういう感じで。まあ、流石に建築時点で下水まで完璧に建築するのは無理だ。
「しばらくはこのままで。森の中に川とか水源さえみつければ、あとはそれを流して……っていう風にはできるかもしれない。トイレに関してはどこかそういう場所を作るなりして……川を引き込む。畑とか田んぼとか作るにしてもやっぱり水源があったほうがいいよな、上水道。ずっと井戸頼りって言うのも過酷すぎる。地下水が無くなれば井戸も使えなくなるし……まあ枯れることを気にしても仕方がないのかもしれないが……」
「えっと……」
「ああ。作るにしてもまずは森を調査してからじゃないと無理だ。結局のところ下水を作るには水がいる。森に川があるかどうか……まああってもなくてもやっぱり水源の調査も必要だし、食料の確保の問題もあるし。そういうことで森の方に手を付けていきたいんだが」
「はい、それは任せますが……」
「後。とりあえず現状に対処するので精一杯だからそれ以外は基本的に後。そういうことで頼む。俺もいろいろとできるが、俺は一人しかいなしいそもそもそこまで万能じゃない。確かに魔法は色々な手間を省いてはくれるし、人にはできないようなことも多々できるが、それでも何でもできるってわけじゃないんだ」
「そうですか……」
しゅん、と気落ちするフェリシア。とはいっても賢哉も真実万能であるわけではない。いや、彼の魔法であればかなり色々とできるかもしれないが、そもそも本人もそこまで頭がいいわけではない。なんだかんだで彼は元々彼の世界における一般学生だった。この世界の多くの人間より様々なことに関して精通しているが、専門技術まで完璧に網羅しているわけではない。何でも知っているわけではない。
ゆえにできることをできるだけそれなりに頑張って行うと言うことしかできない。とりあえず今は森の調査が優先となる。