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 長い馬車に揺られる時間を経過し、馬車は開拓領地から他の貴族の治める領地へと入る。流石に人の流入でも一応は貴族、開拓領地という僻地に飛ばされたに等しいとはいえ、爵位を失ったとはいえ、元公爵令嬢であり開拓領地とはいえ一応領地を治める立場にあるフェリシアは中々に複雑な立場である。まあ、今回は彼女自体はお忍びというか、別にその領地の貴族に用事があってきたわけではない。ただそれなりに連絡や挨拶の類は必要である。特に領地にいる人員を引っ張っていくことになると言うのは相応に問題だろう。それなりに話し合いの場が必要である。

 とはいえ、まず行うのは従者の解雇。仮にも公爵家に仕えていた従者であり、末の娘のフェリシアに使えていたとはいえ公爵令嬢付きだった従者たち。彼らはそれ相応に価値のある立場だ。また、厄介払いに近い形で追い出すと言うこともあって給金がそれなりにいることになるだろう。其方に関してはフェリシアとアミルの方で相談し決めている。これに関しては彼女の家、彼女の問題であり副領主とは言え賢哉の関わるところではない。そもそも現在の領地にあるお金は全てフェリシアの資金という扱いである。なので余計に賢哉は手を出せないだろう。人のお金に勝手に手を出してはいけない・

 そんなフェリシアだが、今は従者に別れを告げている。元々彼らはフェリシア付きの従者であり、公爵家にいた頃からの付き合いである。別れるとしても色々と仲が良かったり思い出があったりするだろう。


「いい子だな」

「はい。本当に……」


 フェリシアは別れをとても残念に思っている。貴族の娘であるフェリシアだが、それなりに真っ直ぐに成長しておりこういう場面では実に子供らしく素直で可愛らしい様子を見せる。本来なら貴族としてもう少し凛と、しっかりとしてほしいものと思う所だが逆にその様子が彼女に対する庇護欲を掻き立てることだろう。カリスマとは違うどこか人を引き付ける魅力、それもまた貴族の持ち得る天賦の才なのかもしれない。


「しかし、彼らもよく選んだものだと思います。これから大変でしょうに」

「そうなのか? 開拓領地で暮らす方がよほど大変だと思うが……」

「そうとも限りません。一つの問題として、彼らがお嬢様の従者であったと言うのがあります」

「元公爵令嬢の従者って言うのが何か問題でも? いや、問題ばかりか」


 今は没落しているとはいえフェリシアは公爵令嬢だった。そして今は開拓領地の領主。現状では然程価値がない立場であるがアルヘーレンの家の人間の努力次第では貴族位に返り咲くことができる可能性はある。それになんだかんだでフェリシアは領主。開拓領地である点はマイナス要素だが逆に開拓領地だからこそ大きな発展を見込めるものもある。仮に開拓領地にとても高価な資源が眠っていれば? うまく開拓出来て広大な領地を得ることができれば? 肥沃な大地を開拓し巨大な農業地を抱える領地に発展したならば? 開拓領地は未知の領域である未開拓地域に接している場所。未開拓地域を開拓した結果何を得るかわからない。何も得ないかもしれないし、一獲千金を得るかもしれない。


「ええ、まあ、それも問題なのですが……今のお嬢様の状況を周囲が理解しているのが問題ですね」

「……それはどういう意味だ?」

「お嬢様はまだ子供ですから。彼ら従者はその子供を見捨てて自分だけ逃げるつもりです。言い方が悪いとは思いますがそうみられる可能性もあると言うこともあるということです」

「なるほど。人聞きが悪い行いってことか」


 フェリシアの従者であった彼らがフェリシアに仕えることを辞め、別の家の従者となる。確かに彼等の持つ情報の価値はそれなりにあるかもしれない。元々公爵家の従者であったのだから貴族の従者としての仕事も難しくない。その点において、仕事をすると言う面では彼らは価値があるのかもしれない。しかし信用の方ではどうだろうか。子供であるフェリシアを支えるのが大人である従者達の役目だろう。フェリシアが貴族であるとはいえ、家が没落しいきなり領主を押し付けられその地を治め安定させ発展させなければいけない子供の方には重すぎる荷を背負っている状態にある。そんな状態のフェリシアを支えることもせず、従者を辞めると言うことが果たして周りからどう見えることか。大変な目に合っている子供を見捨てて自分だけ逃げるようなものではないだろうか?

 もちろんそれ自体は少々考えすぎともいえるような見方かもしれない。彼等はそんなつもりはないのかもしれない。だが問題となるのは彼らの動向や意志ではなく他人がどう見るかである。


「まあ、悪いようにはならないでしょう。重用もされませんが。スパイとして疑われるのが普通です。それに仮に普通にその家の従者になったとしても元々その家に使えている従者がいるわけですから……」

「先に使えている方が偉いわな……基本的に」

「はい。もっとも開拓領地で生活するのと比べるとどちらがいいかというと難しい所ですが」

「確かに」


 彼らは主を失い今後の生活にどこか不安を持ちながら生活することになる。もちろん彼らの持つ情報、彼ら自身の持つ技術も財産でありそこまで大変ではないと思われる。開拓領地で生活を続け上に立つことを目指すか、上に立つことは出来なくとも安全で安定した生活をすることを目指すか。これはそういう話である。


「……ケンヤ様。一つ聞いておきたいことがあります」

「なんだ?」

「お嬢様……フェリシア様に、どれほどお仕えしてくださいますか?」

「……将来の話ってのは難しいなあ」


 アミルは賢哉にフェリシアにいつまで使えるつもりなのかを訊ねる。唐突な内容に賢哉は困った様子を見せる。実際に賢哉はそれほど未来のことは考えていない。とりあえず現状を良く使用、程度の考えだ。それゆえに道中で見つけたフェリシアの手助けを行っているのが現状である。


「あなたがいる限り、お嬢様はそこまで厳しいことにはならないと私は思っています」

「人頼りってのはどうなんだ? そもそも……そっちは俺のことをかなり胡散臭く思っていると思うが」

「ええ。それに間違いはありません。私はあなたのことを怪しく思っています」


 賢哉は極めて優秀で万能である。それが魔法によるものとはいえ、あらゆることができると言っていい。いてくれるだけで極めて役に立つ。とはいえ、万能で優秀過ぎるのが逆に怖いと思われることだろう。何でもできると言うことはそれはそれで厄介なのである。そしてアミルはとても賢哉のことを怪しく思っている。他の従者はそこまで賢哉の能力を意識できていないため、今の賢哉の立場に対し思うところがあるがアミルほどではない。


「ですが……お嬢様はあなたを信頼しています」

「…………」


 だがフェリシアは違う。フェリシアはとても賢哉のことを信頼している。出会ったばかりで副領主にしていたり、今回の賢哉の発案にもあっさり従っている。それは領主としてどうなのかとも思う所だが、しかしそれは賢哉に対しての信頼あってのもの。少々度が過ぎる、依存に近いのではないかとも思えてくるが、今のところまだそこまでではない……だろう。ともかく、フェリシアは賢哉に対し悪意を見せず、信を置いている。


「お嬢様を裏切らないでください。そう頼むことしかできませんが……」

「ま、上司ですし。こっちもそれ相応に後ろ盾になってもらわないと困るからな。他の貴族に取り入るとかも難しそうだし既に信頼されているならそっちの方を優先するさ」

「そういう言い方をされるとそれはそれで信用できませんね」


 賢哉の言い分を素直に信用すると流石に不安が大きすぎる内容である。まあ、流石にそれは賢哉の軽口だろう。本気でフェリシアを後ろから操るつもりは賢哉にはない。流石にそれは賢哉としては面倒だ。そもそも彼もそんな後ろ暗いことをしなければならない人生を送っていない。なんだかんだで善人気質の方が強い。フェリシアと従者の別れが終わるまでの間、そんな会話が二人の間で行われていた。そしてフェリシアが戻ってきて、そして次の用事に彼らは取り掛かった。



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