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 整備されていない道を馬車が行く。


「また……揺れ、揺れますね」

「酷い……流石にこれは酷い……」

「乗ることを決めたのはケンヤ様でしょう。お嬢様もこの酷い揺れの中大人しく乗っているのですから男性であるあなたが我慢しないでどうするのですか?」

「そう言われるとこちらからは何も言えないな……うっ、流石に揺れには強い方だが、本当に揺れる物に乗るのは初めてだったか……船辺りに乗ってたらもう少しわかったもんなのかなあこういうの」


 賢哉のいた世界において、自動車と呼ばれる乗り物が一般的であった。基本的に動力を用いて自分で操縦する動力による自動運転の馬車。馬を使わないので単に車と呼ぶのが正しいだろう。その車は基本的に乗り心地がいい。たとえ揺れる、としても、余程道が悪い状態であったとしても、基本的には乗り心地がいいのである。もちろん酷い揺れを感じたりするかもしれないが、それでもこの馬車ほどではないだろう。馬車は車のようなクッション性の高い物ではなく、道の悪さもこちらの方が上、車輪の問題や車体の問題もある。素材の問題も多々あるだろう。

 ゆえに揺れがとてもひどい。賢哉のいた世界の車よりもはるかに揺れがひどい。その上賢哉はその揺れが一般的であり、酷くてもこの場所ほどではない。つまり酷い揺れというものには基本的になれていない。一方フェリシアやアミルはこの世界の馬車に慣れている。特に二人は元貴族とその従者。馬車に乗る頻度も多く、この道ほど酷くはなかったにしても結構な揺れを体験している。なので賢哉よりも全然揺れに対して問題がない。


「ちょい魔法使う」


 そう言って狭い馬車の中で杖を振るう賢哉。それに迷惑そうにするアミルにびっくりして身をすくめるフェリシア。


「ケンヤ様! 狭い馬車の中で杖を振るうなんて……!」

「いや、揺れが無くなったろ? 大丈夫だろ?」

「え? あ……本当。凄いわ」

「……確かに揺れはなくなったみたいですが」


 賢哉がちょちょいのちょいと杖を振るうだけで馬車の振動が無くなる。後々の事を考えると馬車の振動を消すよりはその振動に慣れたほうが都合がいいような気もするが、まあ賢哉がいる限りは問題がないのであれば基本的には大丈夫だろう。


「……ところで、どこに向かってるんだ?」

「この馬車と前の馬車が向かっているのは開拓領地に最も近い領地です。貴族の治める領地にさえ到着すればそこで彼等と別れることになります」

「……残念ですね」

「はい。とても残念です」


 アミルは残念と言うが、単にフェリシアに合わせているだけだ。フェリシアとしては従者をそれなりに信頼しており今回彼等と別れることを残念に思っているがアミルはその彼らの心情を把握しているのでフェリシアのように純粋に残念に思うことはない。いなくなったらいなくなったで困ることはあるが、しかし現状の開拓領地ではそこまで従者の存在は重要ではない。なので多少いなくなったところで損はないし、むしろ下手に文句のある人間を遺す方が後々の禍根となるだろうとアミルが考え彼らの意見を受け入れたのである。フェリシアの方も基本的に従者側からの意見であれば拒絶することもなく、彼らの意思に任せる所である。


「それで……彼等を送り出すのは構いませんが、私は必要だったでしょうか? 開拓領地に残っても問題はなかったと思いますが……」

「話してないのか?」

「それはあなたから言って下さい。お嬢様、そもそも彼が少々別の領地に用があって出向くと言うのがそもそもですが、それとは別に彼がいなくなるとお嬢様を守る人間がいなくなるのが大問題です。元々開拓領地に向かう時点で守る人間がいなかったのも問題ですが、あの時はまだ人がいましたからそこまで気にしなかった。ですが今は従者も減り、また開拓領地という何が起きるかわからない場所にいる。そんな場所にお嬢様を残すわけにもいきません。それに……彼の要件は少々訳アリで、それにお嬢様の意見も必要になると言うことがあってお嬢様についてきてもらっています」

「そう、なのですか……えっと、ケンヤ様? 何をするつもりだったのでしょう……?」

「あー、えっと…………」


 女性を買う、という意見は女性には話しづらいだろう。まだアミルは大人で理解のある女性なのでいいが、フェリシアは子供でそう言ったことには比較的疎い。全く分からないと言うわけではないだろう。


「えっと、領地についての話からになるんだが……」


 とはいえ、言いづらいことであっても全く説明なしで話を進めるわけにもいかない。フェリシアとしてもいきなりお金を出してくれと言っても聞いてはくれないだろう。例え賢哉であっても。さらに言えば、その内容が娼婦の身請けや奴隷の購入、しかも女性ばかりという下手な見られ方をすれば完全に個人的事情で購入するつもりではないかと思うくらいのものである。ゆえにきちんと説明しないと賢哉の立場、状況が危うい。


「………………」

「やはり女性の立場としてはあまり良くは聞こえない内容ですねお嬢様」

「ええ、そうですね」


 流石にフェリシアも声が硬い。内容が内容だから仕方がないだろう。表情もどこか不満な様子がある。とはいえ、賢哉の意見もわからないわけでもない。男性ばかりが領地に増えて子供ができなければ領地の発展は望めない。一応開拓領地は最後の逃げ道であるが、かといってそんな最後に行く就く場所にたどり着いてしまう人生を送る人間はどれほどいるだろう。男性と女性でそこに来る比率も違う。女性の場合、最悪安全な領地で娼婦という過酷ながらもまだ開拓領地という先の無い場所よりもましな人生を送れる可能性はある。男性の場合でも奴隷、過酷な労働などがあるが、女性よりは状況的に厳しいかもしれない。まあ、そういうものは性的立場の違いやら環境的な問題、性差による肉体差などいろいろとあることだろう。まあ、つまりは開拓領地に来るような女性の数は少ない。女性が訪れることを期待するよりは自分から人材を集めるしかない。それが奴隷や娼婦の身請けである。


「しかたないことかもしれません。ですが……文句もあります」

「まあ、そうだよな」

「でも言ってることは正しいと思います。領地の発展のため、必要ならばやるしかないでしょう。アミル、ケンヤ様について見張ってくれますね?」

「もちろんです……」


 賢哉の買い物をアミルが見張る。まあそうなるのは仕方がないのかもしれない。とはいえ、フェリシアが承認したと言うことは賢哉にとっては重要だろう。とりあえず一応領地のために人員を引っ張ってこれる可能性はあるのだから。



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