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 さて、姉の所業によって一家離散し、それぞれが各地に行くことになってしまった。少女もそうであるが、それぞれ別の土地を治める貴族となった。これは公爵としての地位は罰として奪われたが、彼らの歴代の貢献などから温情として、貴族として再出発できるようにという処置である。しかし、罰であることもまた間違いはない。それゆえに、彼等の行く場所は中々に大変な場所である。


「っ……また揺れた」

「道があまり使われていないのが原因の一つでしょう……行商人もこちらにはあまり来ないらしいですし、道路工事もあまり行われていない様子。まあ、ほとんど向かう人間がいらっしゃらないようですから……」

「そう……この先の領地を治め、それを運営する……簡単にできるものではない、かしら?」

「恐らくは。そもそも、お嬢様が向こうを治めてから五年、税を取ることはないと言われています。これはつまり、それだけ税収に期待していないからというのがあるのでしょう……」


 彼らが分散し領地を治めることになるのはそもそもが罰である。当たり前の話になるが、そもそも領地を治めると言うことが罰になると言うのは本来ありえないこと。それが罰になるのは何故か? それはその領地を治めるのが難しい、厳しい場所であると言うのが理由になる。


「……暗黒領域、未開拓地域。それを開発する開拓領地。その場所を私が治めることになってやっていけるでしょうか」

「……時間的な余裕はあります。五年間は国の方も干渉はしてこないでしょうし」

「そういう問題ではないと思います……」


 暗黒領域または未開拓地域。どちらであっても意味合いとしては変わらない。この世界における人間の治める国はそれほど大きなものとはなっていない。何故アkと言うと、人間が安全に暮らせる土地がそれほど多くないからだ。この世界には魔法というものが存在する。しかしその代わり……というわけではないが、魔物という動物よりも危険な生物も存在するい、魔族と呼ばれる存在もいる。そもそもからして異民族、異人族の存在もあって簡単に森を切り拓き開拓すると言うことはできないのである。

 そういった未開拓地域に接する国の領地から森を切り拓き開拓していった場所が開拓領地。しかし、この開拓領地は半ば放置されているような状況が現在の状況だ。まず簡単に開拓できない。異人族の類が住んでその者達が開拓に抵抗したり、開拓しようと思えば森から魔物が襲ってきたり、魔物や異人族以外にも普通に動物が襲ってきて危険である。異民族もどこに潜んでいるかもわからない。また、未開拓地域を開拓しようと思っている国は他にもいる。この世界のすべての国がお互いの国の存在を承知しているわけでもない。

 そして、さらに言えば人の問題がある。開拓領地は危険が多く、そんな場所に好んでいきたいと思う人間がどの程度いるものか。基本的には本気で開拓を行いたいと思っている人間、多少腕に覚えがあり無茶をしたいと思う荒くれ者、または住む場所を失いその地に逃げ込むしかない存在。そして夜盗や山賊などの犯罪者など。そんな人間しか……というほどでもないが、そういう人間が多いのが開拓領地である。そもそも、領地と銘打っているが仮に本当に領地として成立しているのならば前任者の貴族が存在しているはずだろう。それが少女が訪れるまでいなかった。それはつまりそもそも領地として成立しているかどうかすら怪しいのではないかと思うところである。そしてそんな領地に一介の貴族の娘、領地を治めるような教育が行われていないような幼い少女に統治を任せることになるのは一体どうなのかと思うものである。もっとも、それが彼女の貴族としての責務であり、彼女の貴族としての立場ゆえの罰則である。なのでしかたがないことである。


「……ところで、向こうにはいつ到着するの?」

「恐らくまだしばらくはかかるはずです。馬車の速度次第……かと」

「はあ…………まだこの道に付き合うことになるのね」


 道は結構な悪路。馬車がそこそこ揺れることもあり、乗っている彼女たちにとってはなかなか精神的に来るものがある。そんな道を進む旅路……向かう先の問題もあり、それが平穏なものになる……はずもない。


「っ?!」

「なっ!? 今の音は!?」


 何かが壊れるような音、それと共に馬の鳴き声がする。その鳴き声は焦るような、困ったような、そして怯えを見せるようなものだった。


「……止まった?」


 少女の乗っている馬車が止まる。


「っ! 出ます、お嬢様!」

「え? あ、ちょっと!?」


 従者が少女の手を掴み馬車の外に出る。止まっているため危険は殆ど無いが、馬車から降りる時は少し危ない。もっとも、馬車の外にはそれ以上の危険が存在していた。外に出た少女の目には、前の馬車が襲われているのが見えた。


「っ! これは……」

「お嬢様、急いで逃げます。手を放さないで!」

「え、でも、他の者は……」

「助けられる余裕がありません! 私達だけでも逃げないと!」


 貴族の少女とその御付きのメイド。さて、その二人で何ができると言うのだろう。逃げることしかできないだろう。


「あいつらも捕まえろ!」

「っ!!!」


 逃げる二人を見つけ、馬車を襲っていた盗賊たちが叫ぶ。その内容に貴族の少女もびくりと体を震わせ、従者の言に従う。


「ね、ねえ、こっちは森じゃ……!!」

「しかたがありません! 追っ手を撒くのに見通しのいい道を行ってはすぐに追いつかれます!」


 二人は森の中に逃げる。仮に彼等盗賊の追っ手が二人を見つけ捕まえずとも、森の中には動物魔物と多種多様な危険が存在する。果たしてその場所で生きていけるのかも謎だ。しかし、其方以外に盗賊を撒く逃げ道はない。二人はその道を行かざるをえなかった。



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