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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
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32話 異世界に転生して

 基本的に音楽関係の仕事において上位者の立場に就いているアーシュであるが、その仕事自体は実はそこまで多くない。一つの要因はキルシアが自分の仕事だと仕事を持っていくこと。これに関してはそもそもアーシュではあまり向かないと言うのが一つの理由でもある。アーシュは年齢的に子供であり、まだキルシアがしている様々な仕事を任せるわけにはいかない年齢である。能力としては別にダメというわけではないのだが、関係各所に連絡をつけると言う点ではアーシュはどうにも扱いづらいと言うか、子供として以上の認識をされにくいと言うか。一応王女の後援で現在の立場に就いている事実を知っている者もいるが、全ての場所にその連絡が言っているわけではない……行っていても正式に認識している者がどれほどいるだろう。流石に任せるには荷が重い、とキルシアが引き受けている……別にアーシュが嫌いだからとかそういう理由ではなく。

 また、アーシュ自身別の仕事をしていることの方が多い。例の件で王女が呼び寄せた職人とともに新しい楽器の作成のために動いたり、楽譜の作成に勤しんだり。アーシュの持っている能力だけではなく持っている前世、前の世界の記憶を利用しこの世界にない様々な音楽を作り上げる。本来はアーシュが作ったものではないので自分が公開するのはどうかと思うところだが、せっかくの自分の知っている音楽、それを多くの人間に知ってもらいたいと思う気持ちがある。ゆえにそれらの作成も頑張っている。一方でそれとは別に裏の仕事、耳の仕事も行う。もっともそっちは別にアーシュが特別努力しなければできないわけではなく、その能力を十全に発揮するだけでいいが。内容をまとめるわけにはいかないので重要な物を記憶しておく形にしている。

 そういった感じでアーシュの仕事は本来の就いている音楽関係は薄めだが、いろいろな方向で音楽に関わったりその能力を使用するような仕事をしていたり、そういった感じになっている。


「以上です」

「最近はあまりこれといって悪い話は無いようで少し残念です」

「王女様? 悪い話がない方がいいでしょうに……」

「ふふっ、もちろんそうであることはわかってるわ。でも、隠れてこそこそと裏でやられるよりははっきりわかる方が対処しやすいもの。もしかしたらアーシュの存在を知って王城には隠れて行動しようにもすべてを聞き届ける耳がいると考えて余所で話すようになったのかもしれない。そうなったらアーシュにはもっと別に仕事を回してそちらで情報収集をしてもらわなければいけなくなるわ。それはそれで勿体ないのよ。今の仕事、満足しているのでしょう?」

「一応は。最近はちょっとそこまで回してもらっていませんけどね」


 音楽の仕事に関して、アーシュと同じ立場にキルシアがいる。彼女がアーシュに仕事を回さず自分が仕事を消化している。もっともその多くは面倒な仕事が多めで、アーシュにもできる仕事をさせていることもある。特に演奏関連はアーシュに回すことが多い。そのあたりはアーシュの能力、音楽関係への熱心な思いを考慮してだ。そういうところは配慮するらしい。


「あら。あの女性、やっぱり排除したほうがいいんじゃない?」

「いえ、回してもらえないって言ってもこっちも他に仕事がありますし……って、王女様が回した仕事ですよ? 楽器作り」

「そうそう。でもあれはアーシュしか知らないのでしょう? ならアーシュに担当してもらわなければ作れないわ。しかたないじゃない」

「そうですけど……」

「王女様、彼女に関しては別にそこまでアーシュとの関係は悪くないですよ? 排除までは必要ないでしょう」

「ええ、知っているわ。ふふ、少し面白い人だったわね。散々からかったからもしかしたら私嫌われているかもしれないわ」


 くすくすと笑いながら王女がそういった。どうやらキルシアと話をつけていたらしい……まあ、散々からかったということからかなり王女にひどい目にあわされた様子である。彼女とアーシュの関係の悪さのことを知っていたから関わったようであるが、その時にはすでに解消していたようだ。


「彼女はアーシュの実力を理解し、そのうえでやはりまだアーシュは子供である。だからアーシュに仕事は回せない、私がする、と言っていたわ。だいたいそんな感じの話を」

「……事実ですから否定できません」

「ええ。あなたのことは嫌いではないし、認めてはいるし、素直に対等な立場だとは言えないけど、十分同僚として見られているみたいね。捻くれているみたいだからはっきりとあなたに言うことはないでしょうけど」

「……面倒な人みたいですね」

「ええ。面倒な人なのよね」

「まあ、面倒と言えば面倒ですけど……」


 面倒呼ばわりされるキルシア。なんというか、不憫である。


「ふふ、まあ彼女がどう打ち解けていくのか、それを将来的な楽しみとしましょうか。ところでアーシュ、あなたの女性の好みは?」

「え? いきなりなんです?」

「年上? 年下? 性格はどんな人がいいの? きつく当たってくる相手はやっぱりだめなのかしらね?」

「……とりあえず、具体的には言いませんよ? 好きになった人が好みな女性です」


 さらっと王女の追及をかわすアーシュ。突然何か、と思ったところだがアーシュは推測出来てしまったので逃げの手を打った。話をするタイミング的に、なんとなく誰のことを言っているのか、ということだ。まあ、将来的な話に関してはどうなるかわかったものではない。







「お? アーシュか」

「ああ、アーシュ……なんというか久々だな」

「こっちは王女の部屋の前で会ってるけど、それでも久しぶり?」

「あ。ローデスさん、クルベさん、マカベラさん。なんというか、お久しぶりです」


 王女の護衛となった三人……まあ、ローデスとクルベは護衛としても普段の護衛はしていないので主に王女に会いに行くときに会う機会があるとすればマカベラになる。まあ最近は護衛としてしっかりしてきたのか会う機会は少なかった。今日は久しぶりに三人で集まって話をしていた所にアーシュが遭遇した感じである。


「元気そうで何よりだ」

「全然見かけることはなかった……ああ、話くらいは聞いてたから心配はしなかったけどな」

「私からも色々話したし、そこまで心配はしてなかっただろうけど、やっぱり顔を直接見るのは話が違うわよね。今日は暇なの?」

「まあ。いえ、ちょっとお仕事帰りというか……」

「ああ、王女様の所に行ってきたのね。この後何かあるの?」

「特には……ないわけではないですけど、時間的にかなり余裕はありますよ」

「じゃあ話でもしよう。城の食堂辺りで」

「奢ってくれ」

「おい……まあ、今回くらいはいいぞ。ただし一品だけな」

「マジか!」

「太っ腹ね!」

「……大丈夫です?」

「一品くらいならな。ま、こういう時くらい奢られろ」

「いえ、こちらはもともと三人を巻き込んだのでちょっと……」

「気にするな。ちゃんとした仕事に就けるってのは冒険者にとっては悪くないものだ。まあ、冒険者の中には冒険したいってやつもいるから何とも言えないがな。俺たちのような戦うしか能のない奴らがちゃんとした仕事に就けているんだからお前にはむしろ感謝しないといけない」


 ローデスたちは元冒険者、冒険者として活動していたころのことを決して悪いとは言わないが、やはり仕事としては不安定だし大変なことも多い。ゆえに現在のようなちゃんとした仕事に就けるのはかなりいいことである。特にローデスたちは戦いを専門にするようなタイプだったゆえに余計に。だからこそ、三人はアーシュに感謝している……冒険者として仕事する期間が著しく短くなったのは少々残念に思ってないわけでもないが。

 そんな感じに一緒にいた元冒険者の三人とともに過ごし、アーシュは帰路に就く。




 この世界に突如来ることになり、特殊な能力を持たせてもらったものの最初は使い道はほとんどなかったアーシュ。しかし今はその能力を生かすことのできる仕事、さらに言えば元の世界で就きたかった、やりたいと思っていた方面の仕事に就くことができた。本当の意味でやりたかったこととは少し違うが、この世界に声優もアイドルも存在しないのでそこは流石にあきらめている。その方面に近い仕事はできているので、今はそれで十分と思うべきだろう。異世界に来て大変な目に合ったり戸惑うこともあったが、今は十分充実した生活を送っている。

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