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「……それに関しては、普通に行かせてもいいんじゃないか?」

「しかし道中に危険がありますから……それをどうにかしないとどうにも」

「俺が守りにつけば安全だろ。もともとこちらとしてもやるべきことはあるし」

「…………確かに安全です。ですが、お嬢様はどうするのですか? 従者も少なくなり見方もいないこの開拓領地に置いていくのは危険すぎます」


 現状フェリシアの安全は賢哉の存在により半ば確保されているような状態である。仮に賢哉がいなければ今も安穏と暮らしてはいられない。住居的な意味でもそうだし、仕える部下としてもそうであり、彼女を守ることのできる者としてもまたそうである。まあ、流石に開拓領地の人間がフェリシアに手を出す理由はないのでそこまで危険なことはないかもしれないが、そもそも開拓領地自体が危険な場所であること、そしてあくまで手を出してくる人間がいないかもしれないと言うだけでどこにでもそういった暴挙に出る人間がいる可能性はあるだろう。

 それをアミルは指摘しているのである。そもそも仮に馬車で移動するにしても開拓領地から通常の領地に入るにはかなりの移動時間が必要になる。その間開拓領地に戻ってくることはできないし賢哉がいないのは色々と弊害があるだろう。そもそも誰があの元盗賊たちをまとめるのか。


「じゃあ連れていけばいいだろ。っていうかこちらとしてもできればついてきてほしいってところはあるあ」

「……何故ですか?」

「一応俺は副領主扱いになってるが、流石に予算関係には手を付けたらだめだろ。いろんなことに関しての決定権はあるかもしれないが」

「それはもちろん当然です。いくらお嬢様があなたを副領主に任命したからと言ってあなたが全てを決定できるわけはありません。そもそもこちらの持っている資産をあなたが使うなど……領地から得たお金だとしても早々手を付けさせることはしません。まあ……そもそも今はお金の動き自体が全くないのですが」


 開拓領地では基本的に金銭はまったくと言っていいほど使われていない。そもそもからしてお金を使うほどの物流がないこと、現状畑を作るだけで生きることに必死なこと、お互い協力関係でないと生活自体に困窮すること。そういったことが理由でお金での交換ではなく物々交換の方が主体である。一応ここの国の社会に根差しているのにお金が使われていないと言うのも奇妙なものだがそれだけ普通の社会や世界とはかかわりがなかったともいえる。なにせ開拓領地には商人すらまともに訪れることがないのだ。結局のところお金とは信用通貨、それが金銭として使えるだけの状況でなければ使うことはできないのである。ゆえにフェリシア達が開拓領地に持ち込んだお金は宝の持ち腐れ、ただの倉庫の肥やしのようなものである。

 だからこそ出ていきたがる人物に給料として出して追い払うような感じになるのである。お金は使い道がないので多少色を付けて渡したところで構わない。とはいえ道中の問題もあるので単純にはいかない状況であるが。まあそこは賢哉が何とかするようであるが。


「そもそも何に使うつもりですか?」

「今の開拓領地をどう思う?」

「……どう思うと言われても困る話です。何を聞きたいのですか?」

「領地の現状。特に人について」

「人……」


 アミルは考える。人についてどう思うと言われてもそもそもそこまで何かを思えるほどこの開拓領地にいる人々とアミルは関わっていない。それはフェリシアも同様、他の従者もまた同様である。一番関わっているのが賢哉である時点で彼らとしては困る話だろう。ただ、彼女でも外から見る限りで判断できる内容もある。例えば人の数、現在の開拓領地の現状、人々の状態など、他の場所から来た故に見える物もあるだろう。


「そうですね……正直言って、この開拓領地を領地と呼べるほど人がいない。全ての人々にあったわけではありませんが建物の総数から考えても、なんとか村と呼べるくらいでは、という状態ではないでしょうか」

「そうだな。人数的に全然人の数が足りてない。元盗賊を領民と数えても全然人数は足りてないよな。それに……盗賊たちを領民として考えるにしても、そもそもからしてい問題がある」

「問題ですか」

「ああ。子供がいない。女がいない。繁栄、結婚して子供を作り次世代に渡す、それを行うにもそもそも女性の総数が足りていない。もちろんここにいる人間に女性がいないわけじゃないだろうけど、根本的に人数が足りていない。全体の人数を考慮したとしてもな」

「そうですね……あの元盗賊たちに女性はいません。あの人数分だけ男性の総数が増える。こちらの従者にしても女性よりは男性の方が多い。元々この村に男性と女性どちらが多かったかは不明ですが、普通に考えれば男性の方が多かったでしょう。こんなところで生活できる、逃げ込むことのできるような女性は多くなさそうですから」


 開拓領地にいる人間は少なく、とくにその女性の総数はかなり少ないと言っていいだろう。そもそも開拓領地という過酷な環境に逃げ込めること、その過酷な環境で生き延びること、その二つをクリアできる人間がどれほどいるか。男性はまだ体力的に十分行けるかもしれないが、女性の場合はなかなかつらいものがあるかもしれない。それに道中に盗賊がいたことも悪い影響がある。男よりは女の方が狙われやすい。まあ盗賊たちが性別を気にしたとは思えないが。


「だから他所から女性を連れてくるしかない」

「それは流石に無理でしょう。了承する女性はいないでしょうし、そもそも他の領地に住む人々が開拓領地に来る必然性がない。それにその領地を治める貴族としても住人の流出は嫌うはずです。許されるはずがない」

「そうだな。普通の一般的な領民ならそうだろう。だからこそお金が必要なんだ」

「……奴隷ですか」

「場合によっては娼館で働くしかないがそこから脱したいと思っている女性の身請けもありだろうな。まあ、そう簡単に行くかどうかもわからないし相場も不明、こちらの資金の問題もあるから単純には言えないな」


 悪い言い方になるが、行く当てもないどうしようもない人間を買い付ける。それが賢哉の提案、その内容となる。もちろんこれにもいろいろと問題があるが、しかしそこまで悪い判断とは言えない。少なくとも困っている人間の救済にはなるし、奴隷に関しては主人に付き従うもの。正しく扱うのであれば文句も言われないだろう。問題があるとすれば……それはこちら側にある。


「お嬢様が認めるとは思えません。いえ、正直関わらせたくないことですが」

「社会勉強にはなると思うが。そもそも知識としては知っているんじゃないか?」

「それでもです」


 問題はフェリシア。彼女がそういった存在に対してどう思うかである。これだけは実際にどうなるか結果がでないとわからないところだろう。


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