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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
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29話 実力評価

 アーシュがしている音楽の仕事、その仕事におけるアーシュが同じ立場についている先輩である女性、キルシア。彼女はアーシュが自分が言ったことをこなしている様を見てイライラとしている。キルシアにとってアーシュは自分の立場を脅かしかねない危険な存在であり、また自分にはない極めて音楽向きの多才な能力を持っていることもまた彼女にとってアーシュが脅威であると感じるのに大きな要因である。王女の推薦であるアーシュは権力としてはある意味キルシアよりも大きい。本人は一切その権力を使ってはいない……今の立場につくとき以外には使っていないが、何時その力で自分を排除するつもりだろうと思ってしまう。

 キルシアも自分が各所と連絡を取り、繋がりを持ってなんとか作ってきたコネがある。それらの力さえあればアーシュの後ろ盾となる王女の強権があったとしても決して容易に排除されることはない……が、それでも王女が相手では分が悪い。キルシアとアーシュではアーシュが能力と権力において強い。キルシアは年齢という点、本人の信頼、各所とのコネという点でアーシュよりは強い。一応キルシアの方がアーシュより先輩であるということもあり、現状ではそこまで悪い状態ではない。というよりもアーシュがキルシアに従う姿勢を見せているからこそ問題になっていない。だがキルシアのアーシュへの態度、対応は少々過激というか、いじめと言ってもいいような新人いびりに近い内容である。それに対してアーシュが反感を持っているはずだとキルシアは考えている。

 そう思うのならば止めればいいのだが、キルシアの心情的に止められないと言うか、つい感情的に接してしまうと言うか……彼女も頑張って今の立場について、なんとか他の人間が上に来ることないように頑張ってきてそこに突然現れた能力的に決して低くない権力もある存在だったからこそ、つい敵だと認識してしまい過激になってしまっているのだろう。ある意味これまではそういった敵がいなかったともいえる。彼女の立場を脅かすような存在は。


「……やるわね」

「はい。でもやっぱり慣れ親しんだ本職の人よりは全然です」

「当たり前よ。その年齢の相手にあっさり抜かれたら自信を無くすどころの話じゃないわ。実力は確かだけど、あまり見せないように」

「はい」

「……ちっ」


 キルシアがイライラする最大の要因はアーシュが素直であること、その能力がとても高いこと、そしてキルシアの意見をあっさり聞くのがそれに関して理解w沿い召しているからということ……つまりその頭の良さがあるからこそ、である。アーシュはキルシアの下に甘んじてついている……アーシュと接してきてキルシアにはアーシュがそうしているように見える。実際ある意味ではそうしているのだから間違ってはないのかもしれないが。


「ところで、何故二人きりで?」

「他の人に実力を見せるなと言ったわよ? みんなの前でやったらあなたの出来ることがまるわかりよ。誰か既にやっている楽器をやらせることになったから他の人がいない場所で、ってことにしたのよ」

「そうですか」

「……余裕ね。落ち着いてるわ。その年齢、まだ子供のくせに」

「一応、ちょっと大変な目には合っているので。経験のせいですよ」

「…………」


 すんなりとしたアーシュの対応。イライラとするが、アーシュのことをキルシアは認めていないわけではない。確かな実力がある、落ち着いた精神を持っている、高い物事への理解をしている。知識に関してはまだまだと言えるところはあるが、精力的に勉強をしているらしく最初に出会った時は全く知り得ないことも今ではそれなりにできるようになっていた。今ではアーシュはキルシアも聞いたことのない今までにないような音楽の楽譜を作ってきている。簡単に弾いて確かめてみたが絶対に今この世界に他に存在しないようなものであったのは間違いない。もっともキルシアの知らないところで同じような音楽が作られている可能性はないとは言えないのだが。それでも少なくとも他に類を見ないものである……もっともその音楽が聞く側に受け入れられるかはわからないところだ。基本的にクラシック音楽に近いこの世界の音楽では受け入れにくい物も多いだろう。しかし、幾らか試して受け入れられるものもあった。キルシアの判断になるが、あったことは事実。


「アーシュ。あなた、この演奏の指導を頼めるかしら?」

「え? ああ、持ってきた奴の……でも僕がやっていいんですか?」

「正直言って、私はあなたのことを認めたくないわ。いきなり王女の推薦で入ってきて、私の立場を脅かすうえに子供で才能だけはとんでもない、聞き分けのいい凄く生意気な子供だもの」

「……聞き分けがいいのは生意気ですか?」

「そういうところよ。大人しく聞いてなさい。でもね、気に入らなくても、認めたくなくても、あなたの才能は確かな物よ。この音楽だってそう、さっき楽器を弾けたこともそう。耳だってとてもいいわ。私でも気づかない多くの奏者のミスに気づきそれを指摘できる。そこはちょっと生意気だって言われるかもしれないけど、その才能は確かな物、悪いものではないわ。あなたの実力は、能力は、確かな物だって私はそこだけは認めてもいいかなって思ってるわ」


 キルシアは別にアーシュ自身が嫌いなわけではない。キルシアが今いる場所、頑張って得てきた物をひっくり返しかねないから、そういう点でアーシュが嫌いなのである。アーシュ自身のちょっと子供で子供らしかぬ生意気なところも嫌いであるが、アーシュ自身は悪い人間ではないしそういう点でも嫌いとは言えない。あ0種に対しての視点はかなり複雑なものだ。

 そしてアーシュの実力、音楽に関する能力だけは認めざるを得ない。それだけは絶対に否定することのできない、天才と言って差し支えない能力である。それを否定することは音楽に携わる人間としてはありえない、やってはいけない。そしてその才能を無意味に放置し腐らせるのは自分自身が納得いかない。アーシュの実力を見せつけ表に出さなければアーシュに自分の立場が脅かされる可能性は低くなる。だが、その才を発揮しないのは嫌だ。自分の立場の維持は重要だが、キルシアもまた音楽に生きる人間であるがゆえに、アーシュに仕事を任せることにする。


「だから、それはあなたの作ったもの、あなたが責任をもってやりなさい。やりとげなさい。私は責任を持たないけど」

「……まあ、確かに僕がやるならそうですけど」

「その実力を発揮して、他の皆に指示を出し、最高の音楽を奏でなさい。それが今回のあなたの仕事よ」

「はい」


 そうしてアーシュはキルシアに仕事を任されることになった。うまくいくかどうかはアーシュ自身の問題よりも、周りの人間がどれほどアーシュの言うことを聞き努力してくれるか次第……つまりはアーシュの人望次第、と言ったところである。

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