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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
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23話 それぞれに起きたこと

 それからの旅路、アーシュたちは基本的に何の問題もなく護衛を行った。残っていた護衛に関してもこれは同じ、そもそもアーシュたちよりも人数がいても不意打ちだったとはいえ敗北している。彼らも今この場で死ぬことを選べるほど度胸はなく、しかたなく護衛として役目を果たすしかなかった。仮に今後彼らが馬車とその中にいる人物を襲うことを依頼されていた場合今後の人生が無くなる可能性が高いということだとしても……まあ、まだ生き残れる可能性がある方に期待するしかないということだろう。あるいはアーシュたちを含め寝ている間、トイレなどの生理現象でどうしても離れざるを得ないなどを理由に逃げることもできるかもしれないが、残念ながらそう簡単にはいかない。アーシュの存在もあり逃げる企みは事前に阻止できる。残念ながら逃げようとしたかといって彼らを殺すわけにもいかないが、そこは彼らの証言と証人としての役割、あるいは証拠としての役割もあるのでしかたがない。彼らの発言がどの程度信用でき、利用できるかは今のところわからないがともかく何らかの利用価値はあるだろう。

 相手が冒険者ギルドということで実に厄介になるのだが、それはそれやりようはいくらでもある。疑われるということ自体厄介な物であり、証拠の処分、証人の処分、色々な形で自分がやっていないことを示さなければならず、その手間はかなりの物。時間もかかることには間違いない。証拠としての護衛たちではなくそもそもの彼らの犯行について知る大元はアーシュたちであり、その情報収集もできなければうまくはいかないだろう。そしてその情報収集自体が難事となる。また、こちら側の情報収集は容易である。アーシュを使うことさえできるのであれば、その耳を使えば問題なく情報収集できる。それこそ今回のことを画策した人間を収監し独り言でも呟けばそれを聞きそこから情報を得られる。関係者、関係各所、重要な証拠のある場所、誰かに情報収集や証拠隠滅を頼むにしても、それを外から聞けるアーシュならば行動も手っ取り早い。あるいはその隠滅を行う者に関しての情報すらも得られるだろう。もっともそこまで都合よくはいかないものと思われるが、しかし打てる手立てとしてアーシュの存在は極めて大きい。そしてそういった行動に関してアーシュは了承している。

 今回のことでアーシュたちのことが露見した場合、相手を潰すことができなければアーシュたちが狙われる危険があるからだ。相手は冒険者ギルドの今回の護衛を決めるうえで意見を出せる人間……あるいはすべてを決定することの出来た人間だ。つまり上層部、あるいはその地区のギルドのギルドマスターとかそういった役職になるだろう。そんな人間がなぜ王女暗殺などを画策したのかと思うくらいだが、世の中いろいろと人間関係や繋がり、理由には事欠かない。もしかしたら個人の事情かも知らないし、他国の介入、あるいは冒険者ギルド側の理由など何かあるのかもしれないがそれを考えても意味はないのでそういったことは考えないとして、ともかく何か裏にあるのであれば確実にアーシュたちには報復がある。その報復を受けないために徹底的に情報を潰し、またそういった行動をとる人間も潰さなければいけない。そのためにも今回のことを調べる王女とその護衛への強力は必須である。でなければ自分たちの実も危ないという感じであるゆえに。


 そういうことで旅を終え街へとたどり着いた場所と護衛一行、そこで冒険者ギルドとは別に彼らの関係者を通じ、今回の護衛への暗殺を命じた冒険者ギルドの重役、上層部の人間を捕まえる動きが起こされた。冒険者ギルド側も本来護衛を行っている人間が変わっていたり大きな損害が起きたりしていることもあってまともに報告が入ればその関連情報が今回のことを画策した人間に伝わったかもしれないが、それよりも先に馬車の人物の関係を頼ったのでそういった点での問題は起きなかった。もしかしたら次の街に監視の人間を送り込んだり、あるいは暗殺が成功したことを護衛をしていた人間が連絡することがなかったことから怪しんでいざというとこの坑道をしている可能性もあったが、どうやらそういったことはなかったようだ。彼はあっさりと捕まることになった。

 アーシュたちが全面的に信用されているわけではないが、幾らかの証拠が残っていたり、護衛をしていた冒険者の証言などである程度は追い詰めることができた。そして捕まえている段階でアーシュの耳を利用し情報を収集、またそちらだけではなくアーシュに街中の噂、話の内容を集めさせそこからも情報を精査。特に暗殺者などの裏の界隈の情報に関してはとても大きい。それらの情報ですら集められるアーシュはいろいろな意味で危険なのだが、本人が悪用する気がないこと、アーシュの仲間であるローデスたちも特にその重要性はあまり理解していないこと、それらを利用しているのがこの国の王族とその関係者ということもあり、今のところは問題視はされていない。もちろん情報に関しては伝達の制限をかける必要があるし、今回はともかくそれ以外で過度な使用は控えさせるなどの問題もある。しかしこれに関してはアーシュ自身の身体能力で行われているということもあって中々に制限するのは難しいことであった。

 耳がいいのだから聞こえないようにしろ、といわれても耳栓をするなどの対策しかないわけである。あるいは耳を壊すというのも手だが、さすがにそういったことをするのはどうなのだろう。常識的に考えてそういったことを強要するのは流石に偉い人間の命令でも難しいだろう。またそれに関して知っている人間自体少ない。そして利用価値が大きいのだからむしろ適切な形で利用する方が都合がいいと思われる。噂話から陰口、悪い企みまで情報収集できるアーシュは重宝要因としては極めて有用。また音で暗殺から襲撃などの攻撃的な行動すらも把握できる。いざという時のためにむしろ味方に引き入れたほうが便利だろう。

 そう、アーシュは利用価値が高い。それゆえにアーシュはこのまま放置されるということはない。アーシュにとっては複雑ながら、アーシュが望ましいか望ましくないかわからない方向へと話は移り変わっていった。







「今回のことに関してはよくやった。証拠も回収でき、そちらから相手方に有利な立場に立てる……まあ、向こうもトカゲのしっぽ切りをして来ると思われるが、それでもな」

「はい」

「……ふう。これで俺たちはお役御免ってことか」

「大変だったわね……色々な意味で」

「ま、なんとかなったならいいさ」


 ローデスたちはふう、と大きく息を吐いて問題が解決したことを喜んでいる。ただアーシュだけは事前にその耳で相手方がどうするつもりなのかを聞いていたのか、複雑な表情だ。それを見て護衛をしていた女性……連絡役をしていたアーシュとも話した女性が既にアーシュがいろいろと知っていることを察する。


「確かに終わった。今回のことを画策していた人間に関しては、だ」

「……どういうことだ?」

「お前たちに関してはまだ解決していないということだ。自分たちから望んで、意図的ではないとはいえ、今回のことはそれなりに大ごとになる。そしてその情報をお前たちは知ってしまっている。冒険者であるお前たちがだ。これが問題だ」

「……知ってはいけないことだったかしら?」

「隠していることではある。ゆえにお前たちをどう扱えばいいのか、そこが困りごとだったりするんだ」


 そう女性は言っているが、実際にはどうするか決まっている。とはいえ、ローデスたちがどういう反応をするかもわからない。どうやって話を切り出すか、どう話を繋げるか。相手の反応次第でもあるため彼女もそれなりに言葉を選ぶ。慣れない様子で大変そうであった。

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