22話 振出しに戻って
「………………君の持つ特殊な力、というほどでもないが……それは、まあ理解はした。しかし、それと護衛が裏切り者である事実はまた別の話ではないか?」
「ああ、確かにそれもそうだな。聞いた話とそちらの行動に関しては別の話だ」
「……確かにそうですね」
アーシュの能力に関しては確かに彼らも理解しただろう。しかし、アーシュの能力ならば確かにそういった悪事を聞き取ることはできるのかもしれないが、その事実を知っているのはアーシュのみ。そもそも仮にそういった悪事を企んでいたとしても、その証言元が確証があるものではないのならそれを暴くことも難しくなる。アーシュは別に嘘をつくつもりもないし、真実しか語っていないわけであるが、しかしその内容の確実性が曖昧だ。
「なら、彼らに聞いてみるのはどうですか?」
「ふむ……しかし、結局はこれに関してもお前たちと変わらんな。真実を語るとは限らない。ゆえに信頼ある情報とは言えん……少なくともお前の言うようにこちらを殺す意図で護衛につかされていたのならばな」
「そうですね……結局、どちらの証言も信じるに値するものではないと」
「そうなってしまう……別に君を信用できないとは言わない。しかし、怪しいのも事実だ。前の護衛を行った、今回なぜか護衛をしている冒険者の襲撃を行った、異常な耳と声を持つ。それを易々と信頼できるかと言われれば……」
結局のところ信ずるに値するだけの信用がないのである。それはアーシュたちもそうだが、今回護衛になった冒険者たちもまたそうだ。そもそもこの護衛は冒険者ギルドの偉い人が就ける。一応依頼という形ではあるが、誰を護衛につけるかは冒険者ギルド側が選んでいる。そうでなければ今回の護衛のような馬車を襲う冒険者が依頼を受けるかもしれない。そうしないような一定の信用のある冒険者をつけなければいけない……そういう意味では冒険者ギルド側に馬車の人物を害する意図があれば今回の護衛のようなことができるということでもある。そういう点では結局アーシュたちも同等の扱いであることには違いない。
ただ、アーシュたちと今回の護衛では微妙に違う点もある。前提として、アーシュたちは一度馬車を襲う機会が存在したということがある。
「……仮に。こちらがそちらを襲うつもりがあるのなら、今回である必要性はありませんよね?」
「確かに……一度護衛についている以上、その時に襲えたな」
「……わざわざ護衛がついている今襲う必要性はない、か」
「しかし、その事実はそちらがこちらの敵であるかもしれない事実をある程度軽減するものでしかないな。理由があり襲わなかった、それこそそちらのいう護衛が受けた依頼をそちらが受けて襲った……可能性としては有り得なくないだろう」
「そうですね……」
結局以前護衛をしていた時に襲えたかもしれないという事実はそこまで決定的な否定の事実にはならない。男性の言うようにアーシュが言う今回の護衛が馬車を襲撃するという話はアーシュたちが受けていないとは言えない。そもそもの事実が不明である。
「………………結局、どちらも信ずるに値しないということになりますが?」
「うむ。確かにそうなるな」
「……それだと護衛の問題が出てくる。人数も減った。危険は増える」
「わかっている。だが、どちらとも襲撃の依頼を受けているわけではないだろう。戦力としては弱いが、人数は減ってもまだ護衛はできる。そして、以前護衛としてしっかりと仕事をした者たちもいる。その二者がいれば護衛の問題はあるまい」
「……彼らを使うと」
「そうだ。信用はできないがな。それと、そちらが報告した人員から何人かこちらの護衛に回してもらいたい。頼めるか?」
「そこは仕方のない話か。わかった」
信ずるに値するだけの確証や信用はない。しかし、それは今までとそれほど大きくは変わりない。ただ不確定の襲撃依頼の話と、護衛だけを相手にしたとはいえ襲撃してきた存在であるという事実が加わるだけ。それ自体は大きなことであるが、どちらかを信用できないということはどちらかを信用できるということ……とはいいがたいが、そういう形にできる。少なくとも二者は対立する立場にある。でなければ争ってはいないはずだ。同じ馬車を襲撃する意図があるならば、少なくともアーシュたちが護衛を襲う必要はなかったかもしれない。つまり両者を同時に使うのであれば、対立関係ゆえに馬車に敵対する意図があっても手を出せないのではないか? そういう考えだ。もちろん馬車内にいる護衛が護衛として外に出て仕事をする必要もある。数自体は足りていない。また、夜に出て行った女性が連絡をとっていた別の護衛から人員をもらってきてもいい。むしろそういう時のための別動隊の護衛である。
「えっと……」
「お前たちを利用する。護衛として仕事をしたいのだろう? 報酬は出せない。次の街まで護衛をしてもらう。ああ、もちろんこいつらもいっしょにな。我々もまた一緒にだ。それでいいな?」
「…………はい」
「あと、今回の護衛に命令をした人間に関しての証言もしてもらう。本当に暗殺するつもりであったのならば大問題になる。拘束することになるが構わないか?」
「はい。まあ、そこは仕方ないと思います」
「一応護衛は護衛だ。その護衛を削ったのはお前たちだからな……代わりをしてもらう必要があるのは当然、ということだ」
「はい……」
最終的な判断として、アーシュたちは護衛として使われることになった。そもそもアーシュたちとしてもそれ自体は別に構わない所であるし、そもそも護衛を減らしたのは意図的ではない。殺さなければ止められない、自分たちが危険である、馬車が襲われたかもしれないなどの理由があり捕縛ができなかったからだ。それゆえに残りの人数が大幅に減ってしまった。しかし、別に殺したいわけではない。恨みがあるわけでもない。だから一緒に護衛をすることには問題はない……動きがあるかどうかの警戒は見せる必要性があるが。まあ、冒険者としての依頼としての護衛ではなく、そのせいもあって報酬のない護衛だ。まあこれに関して言えば馬車の襲撃予定があった疑惑があるとはいえ一応付けられていた護衛を倒したわけであるし、その代替としての仕事を求められるのは仕方がない。補填は必要である。




