21話 知ってることの話し合い
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四人。生き残った護衛のメンバーから拘束されている一人、馬車の中から出てきた護衛の男性が一人、馬車の外に出て遠くにいる別の護衛に報告に行っていた女性が一人、ローデスたちの中からアーシュ、総勢四人がまとまっている。彼らが知っていること、今回のことに関して話し合いをするためだ。もっとも、色々な意味でローデスたちに対しての警戒心は高い。まあ、襲ってきたのがローデスたちであるという事実には変わらないからだろう。ローデスたちからすれば護衛が襲おうとしていたのを防ぐために護衛を襲ったという話だが、それが信じるに値するかは現時点では不明。むしろローデスたちの行動は極めて怪しいと言わざるを得ない。
しかし、かといってローデスたちが本当に信用できないかどうかはまた別の話であるし、護衛達が本当に裏で何かを画策していた可能性もないとは言えない。まあ、そのあたりを知るうえでも話をする必要性はある。
疑問点としては、何故アーシュか、と彼らは思っている。ローデスたちも含めた四人の中においてリーダーであるのはローデスであり、こういった場にはローデスがでるのが理想であるはずだ。あるいはマカベラが出る可能性もあるだろう。クルベは流石にあり得ない。まだアーシュの方がましだと思われる。しかし、アーシュがでてくるのは……アーシュの見た目の印象も相まって少し奇妙に思える。もっとも、この場に出るうえで最も正しいのはアーシュである。なぜならそもそも今回の襲撃に対応するための情報を知ることができたのはアーシュであり、その提案をしたのもアーシュ。そうすることを決めたのはローデスであるが、行動の内容に関してはアーシュの意見が多くかかわる。ゆえにこの場に出てくるのはアーシュが正しい。
「さて、とりあえず……まず君たちの目的について聞こう」
「先にも言った通り、街にいた時に馬車を襲うという内容が相談されていたのを聞いて、それを阻止するために行動しました」
「それはおかしいだろう。そんな相談を他人が効けるような場所でするものぁ」
「はい。それに関しての話は冒険者ギルドで行われていました。その話し合いの結果、護衛依頼の護衛に馬車を襲うように命令した。そういうことですよね?」
「はっ! なんで俺たちが馬車を襲わなければならない! 理由がねえな!」
「そもそもどうやってその話を聞いた? お前はその場所にいたのか? ならば……」
「耳がいいんです」
「信じられるか!」
「そんなん理由になるか!」
「…………耳がいい、とはどういうことだ?」
アーシュが話を聞いたのは街の中。アーシュの耳の良さでギルド内部で行われていた密談がアーシュの耳に届き、その内容を知った。しかし、それはアーシュのその能力を知っているからこそ言えるのであり、アーシュの能力を知らなければそれは単なる戯言にしか聞こえない。
「そのままの意味です。遠くにいても、ある程度の壁に覆われていても、音を聞こうとしている場合はそれなりに多くの音を聞くことができます。夜も眠っているときでも、危険な存在が近づく音などを聞けば起きますし、遠くで話していても、その会話を聞くことができる。報告はどうでした? ああ、いえ、報告の途中にドラゴンの鳴き声を聞くことになったんでしたっけ」
「っ!」
「ドラゴン……そういえばあの鳴き声は!? おい、あの鳴き声はどこから……」
「こんな感じでしたよね?」
アーシュがドラゴンの鳴き声を、大きさだけを小さくして同じ鳴き声をあげる。
「あのドラゴンの鳴き声はお前の物だったのか!?」
「なんだよそれ!? お前、なんだ!? おかしいぞ!?」
「……まさか」
「あれで驚かして、その驚きで動きが悪い所を不意打ちで襲撃する。人数差がありますし、馬車を襲うために武装しているところですからそうせざるを得ませんでした。驚いたでしょう?」
「驚いたどころの話ではない……しかし、まさか人間がそんなことをできると……?」
「………………ちっ」
アーシュがドラゴンの鳴き声を上げたこと。それ自体がそもそも異常な出来事である。しかし、それとアーシュの聞く能力は別……だが、一応女性が別の護衛に報告していた事実を話した。それに関して護衛の冒険者は知らないが、馬車の中で護衛をしていた人間はすべてを知っているわけではなさそうだが一応は知っているはずだ。つまりそのことを話すことがそういったことに関して知っていることを示すわけである。
「……いや、ドラゴンの鳴き声をまねることができるからと言って、耳がいい、遠くの話を聞けるというのは……」
「いや。私が外に出ていったときのことを話している。距離でいえば……すくなくとも近くにいたのならば馬車を襲うようなことはできていないはず」
「前の護衛の時もそうでしたよね? あの時も報告に行っていた」
「…………そういえば不寝番をしていたか」
女性はアーシュと夜に出会っていたことを思い出す。あの時のことも聞かれていたと考えると女性にとっては複雑だろう。
「……ところで、馬車の中の女性は眠そうなようですけど、話しに参加するわけでもないしねてもらってもいいんじゃないですか?」
「なに?」
「…………そもそも今は夜だからな。こちらとしても色々あったから休みたくはあるが……」
ちらりと女性がアーシュたちを見る。
「そちらの安全性が確認できるまでは迂闊に眠ることもできない」
「……わかってます。その確認のための話し合いですからね。こちらとしては、少し眠って休みたいんですけど」
アーシュも流石に結構眠かったりする。なんだかんだでここまで活動してきたアーシュたちも体力的な疲労は大きい。旅路はまだ途中、休める機会があれば休みたいが……まあ、今の状況がそれを許さない。休むには彼らの信用を得る必要がある。




