20話 あっさり
「な、なんだお前らっ!」
「襲撃かっ!?」
「馬車を襲ってる奴らに襲撃だ、なんて言われたくないな」
「あはは、遅いって!」
「おらおらおらっ!!」
馬車を襲おうとしていた護衛……もう護衛というのも少し間違っているかもしれないが、護衛として派遣されていた裏切り冒険者たちをローデスたちが襲撃する。アーシュのドラゴンの鳴き声により、少し体を硬直していた彼らがその間に襲撃されたとはいえ、馬車襲撃のために準備した状態で十分な戦闘が可能な状況だった。しかし、戦闘能力という点において、ローデスたちの方が数が少ないのに護衛として派遣された冒険者たちを圧倒している。
「……凄い」
アーシュは彼らの実力を知っている。しかし、まさかここまで強いとは……と思いたくなる状況だ。とはいえ、圧倒はしていても早急な解決には至らない。護衛に派遣されてきた冒険者もまた護衛としては十分な実力を有し、また馬車を襲撃するだけに足る実力を備えている。鳴き声による一時的な硬直と不意打ちに近い攻撃で機先は制したものの、直ぐにすべてを倒すことはできない。さて、この状況で馬車の中にいる人間が外に出てきた場合、何がどうなっているのか……状況を見てどう判断するのか、と考えると危ない。
「……襲撃だ! 外には出てくるな!」
誰の声か。外の冒険者の護衛ではなく、中にいた護衛の一人……今はこの場にいない、報告に出向いた女性の物。本来なら彼女の語り、性格、状況に合わせた判断の問題などがあるが、ドラゴンの鳴き声までしてわけのわからない状況であるためある程度は効果があるだろう。そうでなくとも外が騒がしくそれが襲撃であるということがわかっているのならば中にいる護衛としては外の守りよりも中にいる要人の守りの方が重要だ。もちろん外の護衛が倒される危険性もあるわけだが、その場合今声をかけた女性の護衛が叫ぶなりなんなりで情報を伝えるものと思われる……まあ、可能性の問題だ。少なくとも騒がしい状況であればまだ戦っている状況、となるだろう。そう判断し彼らはとりあえず中から出てこない。
「今の声は……」
「あいつなんだ!?」
「よそ見している場合かな!」
「うちの子に手は出させないわよ?」
「おらおらおらっ!!」
戦闘は割とあっさりと進んでいる。護衛側が不利、数が減らされていく。そもそもローデスたちの襲撃がただの襲撃であるとしか思っていないかもしれない。もしこれが馬車の中にいる人間を守るためのもの、とわかっていたのならば彼らは馬車を襲いそこにいる人間を人質に取ったかもしれない。もっともそれはそれでローデスたちに勝つよりも難しいことかもしれないし、ローデスたちがみすみすそれを許すとも思えない。仮に人質にとっても護衛を人質に取った場合、王女が人質に取られるよりはましと判断し容赦なく叩きのめした可能性もある。
「あ、殺さないで可能なら捕縛をお願いします!」
「まったく、アーシュの奴は無茶を言う!」
「可能なら出良いなら別に殺してもいいんでしょ!」
「おらおらおらっ!」
基本的に話を聞くローデス、内容を受け入れたうえで柔軟に対処するマカベラ、だいたいやる気の赴くままに戦うが少しは考えて動くクルベ、彼らはアーシュの言葉を聞き入れ、出来る限り殺さないように対処する。まあ、さすがに何人かは先に襲っている時点で死んでいるのもいるし、殺さずに抑えきれないものもいる。そういうこともあって捕まえることができたのは四人程。ローデスたちの人数も考えればあまりいないほうがいい、という点でもあるためそこまで悪い人数ではなかった。
「……なっ! これはどういうことだ!?」
馬車の中から一人の男性が出てきて、外の様子を見て驚く。まあ、自分たちを守っているはずの護衛が倒されている状況を見ればそうならざるを得ない。彼らに声をかけた女性の存在もおらず、護衛は倒れ幾人かは捕まえられており、その護衛達が護衛につく手前の旅路で護衛についていた人間たちがいる。しかも武装をしており、護衛達を捕まえているのだから驚くのも仕方がないと言える。
「あ、こんにちは」
「……何のつもりだ? いったいなぜこんなことをしている? お前たちへの依頼はここに来る前の街で終わりだったはずだ」
「知っています。ですが、彼らはあなた方を襲おうとしていた……それを僕は街で聞き取ることになりました。ゆえに護衛として働いた僕らはあなた方が襲われることを知ってむざむざ襲わせるのは気分が悪いと動いたのです」
「なに? そんな話を信じろと? 信じられるはずがないだろう」
男性の言うことももっともな話である。そもそも冒険者であり護衛を仕事として受けたローデスたちが、何も言っていないのに護衛として活動すること自体が奇妙だ。冒険者はお金のために仕事をする、己のために仕事をする者であり他人のために仕事をする者ではない。そう思われていても仕方がない。そのうえ、馬車の護衛を襲っている。アーシュの言っていることは確かにいろいろな意味で彼らも可能性として有り得ることと考えられるが、かといってそれがアーシュたちを信じることにはならないわけである。そもそもアーシュの言っていることが正しいとも限らない。馬車の中にいる護衛や王女を騙し何かを企んでいる可能性もある。
「……そうですね。信じられないのは理解します。ですが、こちらとしても馬車を襲わせるわけにはいかなかったので。中にいる人が襲われ殺されれば冒険者の立場が悪くなります。理由としては納得できますか?」
「何故中にいる人のことを知っている!」
「聞いたからです。中にいる人たちの会話を。僕が街で襲撃の計画を知ったのも、その話を聞いたからです」
「なにを……」
「僕はとても耳がいいんです。遠くの音を聞ける、壁があってもある程度までなら会話を聞くことができる。今日、あなた方がしていた会話をここで再現しましょうか? それで信じていただけるなら」
「……………………」
「ああ、その前に先ほど外に出ていた女性が戻ってくるようなので、彼女も話に参加してもらいましょう。まだ彼女が報告に行った先にいる人たちはついてきていないようですが、場合によっては連絡もいるでしょうし」
「お前は何を知っている!?」
「……今は、全てを話せません。とりあえず話し合いをしながら、お互いのこと、僕の聞き知ったことを話しましょう」
男性はいろいろな意味で落ち着かない。まあ、アーシュという存在の知っているあれこれが一体どこで漏れたのか、知られたのかと気にかかるのは仕方のないことだろう。ともかく、今はアーシュたちは信用されない状況である。念のためローデスたちはアーシュを守るための警戒と、いざという時逃走するための行動準備を行っている。それが無駄になるのならばそれがいいのだが。




