17話 護るために
「…………仕事は終わったはずだアーシュ。今の俺たちはただの冒険者、仕事も受けてない無関係の人間だ。それなのに……守る? どういうことだ?」
「それは……」
冒険者として護衛の依頼を終えたアーシュたちはその依頼を終えた街にて休んでいた。別にすぐに戻ってもいいわけであるが、依頼を受けていた相手がいなくなるまでは滞在するつもりだった。そこは一応護衛として、最後まで守り通すつもりがあったから……と言えるのかもしれない。いや、冒険者にそのような気遣いは必要ないわけであるのだが。
そんな感じであとは依頼を受け護衛を終えた相手の馬車が出れば街を出て戻る……そのはずなのだが、アーシュが一度依頼を受けた彼らをまた守るために行動したいと言ってきた。それに対してローデスたちは流石にそれはどういうことだ、と言い出したわけである。
「アーシュ。別にね、私たちはアーシュのことを責めたいわけじゃないのよ。あなたが何の意味もなく守りたい、とか言い出すことはないでしょうしね。でも、だからこそ……理由は必要なのよ」
「そーそー。なんでこんなことするのかってのがわかんねえと俺らも選択のしようがねえ」
「……二人の言う通りだ。仕事でもなく、ただ一度依頼を受けた相手を守るなんていうのは理由がわからない。本来なら深入りするのはよくない。アーシュが相手の子を気に入ったとか、何か理由があるとも考えられるがそうとも思えないし、そもそもそんな理由でアーシュが動くとも思えん。仮に動くにしても、個人的なことで俺たちを巻き込むような奴じゃない。だからこそ、アーシュが俺たちまで動員して何をするつもりなのか。それを聞きたいんだ」
彼はアーシュに対し結構な信頼を寄せている。それだけの能力はあるし、それまででも十分なそれなりに言い性格、精神性で関わって来た。決してアーシュは悪い人間ではない。それを理解しているからこそ、彼らはアーシュがそうする理由を知りたいのだ。そこまでして今回依頼を受けた相手を守りたい理由を。決して個人的な感情からではない……ある意味勝手に守りたいというのが個人的感情だと思われるがそういうことではなく、理由が個人、自分の想いなどに由来するものではないという意味合いである。アーシュは耳がいい。今まで様々な形でそれを見ている。つまり、噂などの形で何らかの情報を手に入れた。それが馬車の彼らを守る理由につながるのではないか。仮に馬車を守る理由につながるにしても、何故そうしなければならないのか。アーシュならば馬車の依頼主が何もなのかを知っていもおかしくない……そんな信頼感を彼らはアーシュに持っている。
「…………」
「依頼主のことももしかして知っていたんじゃないか?」
「ええ、まあ」
「それに関しても教えてくれ。何も知らないままで俺たちを動かせると思うな。仲間だからこそ、信頼して話し、頼んでくれ」
ローデスたちにとってアーシュは仲間だ。だからこそ各仕事をされるのは少し心苦しい。すべての秘密を共有しろ、とまではいわないが、少なくとも自分たちをまきこむつもりがあるのだから細かい事情に関して話してもらいたい。それが彼らの意思である。
「……………………流石に本気でやばいところにつっこみますけど、聞きたいですか?」
「…………どうする?」
「そこまでやばいとは俺も……」
「お前らなあ……」
アーシュの言葉に臆する二人。それに呆れるローデス。
「わかってたことだろう……アーシュ、この二人は気にするな。真実を教えてくれ…………お前の裁量で本当に話せないことは話さなくていいからな」
「はい」
そのローデスの言葉に苦笑するアーシュ。まあ、アーシュとしても流石に言ってはいけないだろうという内容もあるのに間違いないわけである。ただ、ローデス自身もやはりアーシュの隠している秘密、その深淵に触れることは少し怖いということだろう。まあ、そこは仕方がない話だ。むしろそんなことを知っているアーシュの方がいろいろおかしいのだから。
「………………うわー」
「………………それはかなりやばくない?」
「………………正直言ってきかなかったことにしたい」
三人はアーシュから話を聞いた。今回彼らが護衛したのが誰あるかの情報、そしてその護衛した相手をもう一度守ろうとする理由に関して。その理由は単純で、馬車が襲われることがわかったからだ。ただこれは盗賊の襲撃とかそういうものではないし、何らかの形で襲撃を受けるというものではない。馬車を襲うのは冒険者である。それも、護衛に就けた。
「ギルドが今回のことに関わっているらしくて……」
「聞きたくなかった。危なすぎるいろんな意味で!」
「乗ってる人に関してもねー……お姫様、ってことは王女様でしょ? 何それ……なんでそんなの護衛することになったの」
「まあ、向こうも自分たちの素性は隠しているみたいだ。だからこそだろうな」
「じゃなきゃできないわよ……で、その馬車を護衛についた冒険者が襲う? ギルドの信頼問題じゃない?」
「護衛につけるのはギルドが選んだ冒険者だからな。ギルドに見る目がないと思われるのならいいが……」
「意図的って考えるのが自然だろ」
「だろうな……」
「それの問題って?」
「何かもないある……え? あるのか?」
「冒険者たちと国の間に溝ができる可能性があります。最悪冒険者と国で争いになるとか……」
「そこまではいかなくとも、冒険者側への信頼がやばいことになるのは間違いないな」
「まー、王女様殺しちゃってるんじゃねえ……」
今回アーシュが聞きつけたギルドがつけた護衛が王女を襲う……それは完全に意図的な物である。情報漏洩、護衛の信頼問題、ギルドの信頼問題、冒険者ギルドはおかれている国との関係はあるので多少何か情報漏洩の類があるのは仕方のないことかもしれないが、冒険者という存在の扱いに関してはいろいろと複雑な物がある。また、手に入る情報に関しても……王侯貴族に関する情報を利用し、そこで手配まで利用して危害を加えるとなると、問題が大きくなりすぎる。ギルド側にも大問題になるし、王女を失う国側も大問題になる。このままことが起きれば冒険者はこの国から排除される可能性すら有り得るだろう。そうでなくとも仕事が大幅に減る。元々そこまで信頼されていないものが余計に信頼されなくなる。実に厳しいことになり得る。
だからこそ、冒険者が冒険者から守るということを実践する必要がある。冒険者の信頼回復のためにも。
「はあ……まあ、やらなきゃいけないみたいだな」
「じゃあ……」
「ただし。ただ働きにはしないぞ?」
「それはこちらが決めることじゃありません。請求するのは成功報酬としてなら構わないと思いますよ」
「よし、なら腹を決めてやるぞ」
「……はあ。ま、しかたないか」
「うし。覚悟決めるぜ……」
そういうことで、彼らは冒険者の護衛から馬車を守るという、奇妙なことを行わなければいけなくなった。アーシュが情報を持ってきてくれなければ将来的にもっと悪いことになったわけであるが、それ以上に今の状況がよくわからないと突っ込みたくなる気分であった。




