11話 今は仮の
「どう思う?」
「評判は別に悪くないわね。ま、子供? 大人でもない年齢だからあまりよく言われないだけで」
「仕事に関しては今の所問題はないんじゃなかったかな。評判なんてよく知らないけど」
「ふむ…………」
三人は考える。アーシュ自身に関しては別に悪い噂はなく、仮に仲間に入れたところでそこまで後ろ指をさされるようなことではない。そもそも別に子供の冒険者を仲間に入れてはいけないなんてルールはない。まあ、子供を連れまわす大人は見た目的に良くないし、大抵の場合子供は使えないとして仲間として扱わず利用する方が多い。だからこそ現状の冒険者たちの中では子供を仲間に入れることがあまりよくないこととされる。
しかし、アーシュのような一部の子供は大人顔負けの能力を持つこともある。アーシュは少々特殊すぎるが、冒険者になる子供の中には才能豊かな子供もいる。もっともそういった子供に関してもやはり子供というだけで敬遠したり、そもそも子供が冒険者になる場合は子供同士で結束していることが多く、そのため大人の介入余地がない場合の方が多い。気に入った子供がいても子供同士の繋がり、大人への不信のせいで仲間にできないということは決して少なくはないだろう。そんな関係が続いているから余計に子供と大人の冒険者に距離ができているのかもしれないが。
「……それ、本人の目の前で話すこと?」
「隠して話すよりは正直だろう?」
「まあ、離れたくらいで内容がわからないってことはないけど」
「……どういうことだよ?」
「かなり遠くの音も聞き分けることができる。さっきも言ったよね? いい耳を持っている、って」
それは斥候として、という但し書きがついているし、彼らが普通に話していることを聞き取る、くらいの意味合いとして考えるのが普通だろう。離れてこそこそとひそひそ話をするのを聞き取ることが斥候の能力とは思えない。確かに斥候ならば耳がいい方が有能なのかもしれないが、耳がいいだけで斥候ができるというわけでもないだろう。まあ、アーシュは耳がいいだけで斥候をやっているような特殊な例だ。それもアーシュの特殊な耳、音で多くの情報を判別できる特殊な才能あっての物である。
とはいえ、それを理解しろというのも難しいだろう。アーシュの言葉に彼らは不思議そうな表情をする。
「……耳がいいって」
「んー…………耳がいい、ねえ。どれくらい?」
「……そうだね。今、ここの建物の前に四人の冒険者がいる。仕事が終わって戻ってきたみたい。多分、ここに入ってくるんじゃないかな?」
「おいおい、何処に誰かがいるなんてことわかるのかよ? 見えないし遠いぞ?」
「……場所が場所だから気配も簡単にわかるとは思えないしな」
「だから言ったと思うけど……とても、耳がいいんだ」
にこりと笑いながらアーシュが言う。三人は怪訝な表情をするが、それも少しの間だけ。アーシュが言った通り、四人の冒険者が建物に入ってくることでアーシュの言っていることが事実であると彼らは理解し驚く、あるいはアーシュのその能力を不気味に思う。確かにそれだけの能力を持つのは凄いことだが、あまりにも人間離れした能力である。有能である、使い道があるという利用価値より先に恐ろしい何かである、と感じる者の方が多いだろう。
「……とんでもないな」
「流石にちょっと怖いかも」
「なんて子供だ……」
「子供ではないんだけど……」
「ふん、まだ子供と言っても差し支えのない年齢だろう。まあ、こんな街で冒険者をやるのが問題ないくらいの年齢なんだろうけどな」
リーダーの男性はアーシュをじっと見る。その表情、身なり、雰囲気。それは値踏みをするような、と表現が正しいような視線である。アーシュは別にその視線を前に自分自身を隠す必要はなく、視線を正面に捉え己を曝している。
「…………よし、なら今回の仕事で斥候として使ってみよう。もしそれで能力的に十分やっていけそうなら、正式に仲間ってことでもいいぞ」
「本当?」
「ああ」
「ちょっと? 勝手に決めないでよ」
「そうだそうだ。流石に子供を仲間にするのはどうなんだ?」
「売り込んできたのはあっちからだし、なら一つ聞くぞ……仕事、どうやって解決するか何か代案があるか?」
「………………」
「………………」
途端に黙り込む仲間二人。今回リーダーがアーシュを入れる決断をしたのはアーシュの斥候能力を見込んで、である。実際建物中に入る四人の冒険者を外にいる段階で把握している。耳がいいからと本人は言っているが本当にそうやって把握していたのかは不明だが、仕込みでなければ確かにそれは十分な把握能力を持っているということになる。そしてアーシュがいれば仕事を問題なく遂行できるかもしれない……そう考えるところである。
「お前、戦闘は……できないよな」
「まあ、だからこそあなたたちに売り込んだというのもあるかなあ……」
「ふん。ま、確かに俺たちは戦闘に関してはかなりのものだからな。斥候である自分は戦闘に向かないからしない、戦闘は専門家に、ってことか」
「意外と考えてるのね。でもそれならもうちょっといい所に行った方がいいだろうけど」
「戦えないのか。仲間に戦えない奴がいても困らねえか?」
「そこは斥候の能力に期待するのと俺たちで守るのと、だな」
そういうことでアーシュは彼ら仲間となった。もっとも今回の仕事で成果を出せなれば正式には認められない仮の物であったが。




