10話 耳がいい
「……はあ。まったく、どうしたらいい?」
「仕事を受けたのはあんたでしょ……受けた以上はやらなきゃいけないわけじゃない?」
「だけどな……」
「俺たちは戦闘一辺倒だからな。探している魔物がどこにいるかわからなきゃ追うこともできないし」
「偶然会うことを祈るしかないか……」
「仕事時間、かかりすぎるわよ? 無駄に時間かけるよりは、仕事断ったほうが良くない?」
「今まで頑張って信用を積み上げたのにそれパーにするのはどうなんだ?」
「何よ? 仕事を受けたのはあんたでしょ。つまりあんたの責任なわけ。わかる?」
「……わかるけどな」
三人の男女、男二人に女一人の冒険者パーティー。現在三人は少々言い合いになっている……というほどでもないが、そういう状況になるような問題を抱えている。話の通り、彼らが……彼らのリーダーとなっている男性が一つの依頼を受けたのが原因となっている。依頼の内容は魔物の捜索とその捜索した魔物の退治。依頼内容としては単純に魔物の退治とされているため、彼らのリーダーはその仕事を受けたわけである。
彼らはパーティーとしては戦闘に傾倒している冒険者たちである。個々の腕前、実力は確かなもので、戦闘に関与するような依頼ではしっかりとした成果を見せている。基本的に現れた魔物退治や護衛依頼をしているわけであるが、そういった依頼では魔物を待ち受けることが多い。別に魔物に限った話ではないが、要は彼らがしているのは大体の場合わかりやすくいる存在を倒す、あるいは襲ってきたところを迎撃するようなことが多いわけである。
さて、そういう点で見れば今回の依頼は魔物を退治するだけの依頼……に見える。しかし、その前提として魔物の捜索が内容に挙げられている。彼らは戦闘に関しては全く問題ないが、捜索、つまりは相手の位置を把握することを前提とした物事に関してはかっきしだ。一応大まかな場所は依頼内容に書かれているためわかるが、その範囲、何処に出るか、いつ出るか、そういった物事に関しては全くと言っていいほどわからないわけである。
この依頼は前提として魔物の捜索から始めなければならない。見つけて相対すれば倒すことは容易と思われるが、問題は見つけられるかどうか、見つけたとしても魔物と戦う状況に持っていけるかどうか。いつもの依頼ならば相手が襲ってくるという戦闘するための相対ができる状態にある。だが今回はそうではない。見つけて相手を刺激して、そこでようやく襲ってくる可能性が出る。あるいは縄張りを主張するような魔物ならば縄張りを侵犯することで招くこともできるが、そもそもそういった知識があるのであれば別に難しくはない話だ。そういった知識がない、からっきしだからこその彼らである。戦闘一辺倒と自称するだけあって戦闘面では本当に問題はないのだが、それ以外の点は本当にからっきしである。だから困っているのである。
「はあ……誰か斥候とか探すか?」
「そういうのって普通探しても見つかるような者じゃないわよ? だってそういった技能を持つ冒険者はとても便利だもの」
「そうだな。戦うだけなら俺らみたいな馬鹿でもできるけど、そういうのは頭良くないとできないだろ」
「誰が馬鹿だ」
「誰が馬鹿よ」
「ま、確かにこいつの言う通りだろうけどな……そういう頭がいい奴はもうどこかのパーティーに入ってる。借りられるだろうか?」
「難しいわね……変に余所のパーティーとかかわるのはどこもあまり好まないでしょ」
基本的に冒険者は他の冒険者のパーティーに積極的にかかわらない……ことはないが、引き抜きに近い、パーティーメンバーの貸し借りというものはあまり好ましいものではないと考えられる。貸し借りでも、やはり別の仲間内に自分の仲間が行くことは好ましいことではないし、そちらに行った仲間も相手の仲間内に引き込まれて疎外感を味わうことになる。それにパーティーでうまくいっていたことも別のパーティーでうまくいくとも限らず、お互いの常識のすり合わせの問題もある。パーティー同士の協力であれば、リーダー同士ですり合わせればいいが個人間ではそこまで簡単にはいかない……こともある。まあ、うまくいくことはないわけではないが、そうならないこともある。失敗例も成功例もあるが、失敗例がより面倒なことになりかねないし、成功例もまた面倒なことになりかねない。だからこそ、パーティーメンバーはある程度固定されている状態で維持するのが好ましい。
とはいえ、現状ではそうも言ってられない状況なのだが。
「すいません、いいですか?」
「ん……? ああ、何か用事か?」
「んー? あれ、この子って確か…………」
「新米冒険者だな。っていうか、用事って何かあるのか? 俺らとかかわりは特にないし、そもそも他のパーティーに関わる用事なんて普通はないと思うんだが」
彼らに話しかけてきた冒険者は彼らも見覚えのある、しかし特にかかわりのない冒険者だ。子供の冒険者……いや、正確には子供に近い冒険者、あるいは大人に近い冒険者、というべきか。
「斥候、探していると聞きまして」
「………………どこでそれを?」
「いや、ここでに決まってんだろ。普通に話してて他にも聞こえるだろうし」
「……まあ、そうね。っていうか盗み聞き? それは子供でもよくないんじゃなあい?」
「はは、でもこういう機会でもないとあまり売り込みができないので。そこは斥候としていい耳を持っているな、と言ってほしいですね」
彼らに話しかけてきたのはアーシュ。今回の機会を余すことなく利用し、とりあえずそれなりに有能そうな斥候が足りていないパーティーに売り込もう、という意図である。彼らは戦闘に傾倒しているからこそ、それ以外を担当できる人間がいた方がいいだろう。アーシュは見た目の問題があるが、精神的にはそれなりに問題がない。それなりに人がよさそうな相手を見繕い、彼らがよさそうだ、というのをいろいろな会話から得た情報で選んだのである。
問題は、彼らがアーシュを受け入れてくれるかどうかになるが。




